森の奥に行ってみよう!②
「なんか、これまでとたいして変わらないわね」
「いや、当然だろ。別の場所にきたわけでもない上、出てくる魔物の種類も変わらないんだから」
魔の森の中には生息する魔物が変わることで周辺の環境が大きく変わる場合がある。
魔の森の『魔』たる所以だ。
だが、魔物の種類が変わらない間は環境は大体同じだ。
取れる素材も一緒なので、同じ魔物が出るエリアの一番奥が一番素材も取りやすいし品質も良くなる。
だがまあ、そこまでこだわる必要はまだないだろう。
今は魔術の修行のついでに採集をしているんだしな。
「じゃあ、いつも通りのフォーメーションをしてくれるか? アリアは先頭でリノは辺りの警戒を頼む。あとの3人は採集を頼む」
「わかったぜ。行ってくる!」
リノはそう言い残して森の中に消えて行った。
他の四人も各々、自分のやるべきことを始める。
***
「この辺りは採集できるものが多いわね」
「まあ、奥の方が魔力が濃い分採集物も多くなるな」
採集を始めてからまだ少ししか経っていないが、キーリの採集袋はいっぱいになってしまったらしい。
もうひとまわり大きいのを渡した方がいいかもしれないな。
「じゃあ、採集袋もいっぱいになったし、この辺で戻るか」
「そうね。その方が――」
「――レインにぃちゃーん!」
俺たちがそろそろ帰ろうと話していると、リノが俺たちのほうに走ってくる。
四人は逃げる準備を始めた。
緊急の時はそれ用の符丁を用意している。
それがないと言うことは、緊急ではないのだろう。
それに俺はグレイウルフがこの辺りにいないことは分かっていたので、リノが来るのを待つ。
「なんか、あっちに建物みたいなのがあった!」
「建物?」
「そうだぜ! なんか、苔とかに覆われてたけど扉っぽいものがあった!」
魔の森の中に住むなんて言うのはふつうしない。
昔は俺も魔の森の中に住めば修行にもなって一石二鳥じゃね? と思った時期があった。
だが、実際にそんなことはできなかった。
魔の森の中のすべての土地は魔の森のものだからだ。
どんなに頑丈な小屋を建てようとも、すぐに崩れてしまい、三日と持たない。
だから、魔の森の中に人工の建造物を建てるなんてことは不可能なのだ。
「あぁ。それは遺跡かもしれないな。行ってみるか?」
「遺跡!?」
だが、例外もある。
何らかの建物を魔の森が取り込んだ場合だ。
頑丈な建物は魔の森に取り込まれても残る場合がある。
古代魔導士文明時代はすべての土地が魔の森で無くなっていたらしい。
その時に建てられた頑丈な建物が魔の森に飲まれた場合は建物ごと土地として認識されその上に魔の森ができることがある。
そこは遺跡として扱われ、今でも古代魔導士文明の物品や本などが発掘される。
リノが見つけたのもそれの類のものかもしれない。
遺跡とかは魔術を使った感知に引っかからないからリノのように目視で見つける必要があるのだ。
正直、こんな浅いところにあると思ってなかったので、俺は真剣に探していなかった。
「こんなに森の浅いところに遺跡なんてあるものなの?」
「遺跡は偶然できるものだから、魔の森のどこにでもできる可能性はあるよ」
話を聞いていたアリアが横から質問してくる。
遺跡は魔の森のどこにでも存在する可能性がある。
というか、遺跡自体は魔の森の外にも残っている。
もうすべてのものが持ち出されていて建物しか残っていないだけだ。
「まあ、こんな浅いところの遺跡じゃ大したものはないかもしれないし、もう誰かが中身をすべて持ち去った後かもしれないけど、行ってみるか?」
遺跡は魔の森の深くに行けば行くほどいいものが手に入りやすい。
魔の森の中心に龍脈というものがあり、古代魔導士文明の後期はそこを中心に栄えていたようなのだ。
だから、中心に向かうほど、遺跡の数も増え、中で見つかるものもいいものが多い。
「そうね。どうする?」
アリアはほかの四人に意見を聞く。
アリア自身は行きたそうにしているが、行く理由が見つからなかったから周りに質問したのだろう。
「私、行って、みたい」
最初にそう言ったのはスイだ。
「今後、遺跡にも、行くかもしれないから」
「……たしかに、魔の森の深くに行けば遺跡はたくさんあるはずですし、浅い今のうちに行っておくのも手かもしれませんね。魔の森の奥の遺跡のほうが危険は多いんですよね?」
「そうだな。中に魔物がいたりするし」
ミーリアもスイの意見に賛成する。
リノとアリアは見るからに行きたそうだ。
「……そこまで危険じゃないんだったら、行ってもいいと思うわ」
意見をまだ出していなかったキーリは全員の視線を受けて肯定的な意見を出す。
「まあ、大丈夫だと思うぞ? グレイウルフは何体かいても倒せるだろうし、未踏破の遺跡は俺も何度か行ったことがあるし」
危険はあまりないと俺は思う。
未踏破の遺跡には対魔貴族の仕事で何度か踏み入れたことがある。
中身は全部軍が持って行ったけど、トラップの対処とかは一通りできる。
何かあっても十分に対処できるだろう。
ヤバそうなら遺跡を見てから帰ってもいいんだし。
「よし。じゃあ、行ってみましょう」
アリアの号令で俺たちはリノの見つけた遺跡に向かった。
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