魔の森で鍛えよう!⑤
「じゃあ、これを使ってみてくれるか」
「これって、前に魔力の質を測った魔道具?」
俺が渡した魔道具にアリアが魔力を通す。
――――――――――
【攻撃力】 0
【耐久力】 1
【素早さ】 1
【知 力】 1
――――――――――
「あれ? 出てきてる値が違う」
アリアが魔道具を使うとまた文字が浮かび上がるが、これはこれまでの魔道具とは出てくる値が全然違う。
リノが驚くアリアの後ろからアリアの使った魔道具をのぞき込む。
「ほんとだ! レイン兄ちゃん! これは前の魔道具とは違うものなのか?」
「そうだよ。魔力っていうのは人によって全然違うものなんだけど、前の魔道具は属性ごとの数字を出すもので、今回のは強化特性ごとに数値を出すものなんだよ」
人間は魔力を生み出しているが、それは人によって全く違う。
同じ魔力を持った人間はこの世の中を探してもいないといわれている。
だが、それだけでは使いづらいので、ある特性の魔力として使えるかを数値化したのが、属性を数値化する魔道具であり、この強化特性を数値化する魔道具だ。
まあ、おおざっぱな分析をするものなので、完全にこれ通りというわけではないが大体はこの数値であってるらしい。
「強化特性って、なに?」
「まずはその説明をする必要があるか。魔力っていうのは肉体も強化してくれるんだよ。魔術を使う騎士とかは平民より格段に強いだろ? それは、この魔力の強化によって肉体が無意識のうちに強化されてるからなんだ。魔力を使い切ったりするとこの強化がなくなるせいで握力が落ちたりとか集中が保てなくなったりするんだ」
「え? そうなの?」
どうやら、アリアもそのことは知らなかったらしい。
ま、知らなくても大して困るようなもんでもないしな。
「この辺の説明をしだすと長くなるから、そんなもんだと思っておいてくれ。で、ここからが本題なんだが、この強化の方向性っていうのは一定までは意図的に傾けることができる。まあ、他の値の1.5倍くらいの数値には薬とかを使わなくても持っていける」
「わかった。私たちの能力の、どこかを重点的に鍛えるつもり」
「そういうことだ」
スイは俺のやりたいことに直ぐに気づいたようだ。
「リノは【素早さ】、スイは【知力】、アリアは【耐久力】を上げてもらう」
「ま、待って。でも、魔力ってそんなに簡単に上がらないはずじゃ……」
魔力はそう簡単に上がらない。
一般的にはそうなっているらしい。
だが、実はそれは大きな間違いだ。
「これはうちの実家の秘伝なんだが、魔力濃度の薄い場所では魔力はなかなか上がらない。魔力切れになって体が魔力を必要とした時とか、成長の時だけだ。でも、魔力濃度の濃い場所に行けば簡単に上がるんだ」
これはうちの実家の秘伝で、あまり知られていないどころか、知っている人間は今は俺一人となってしまったことだ。
対魔貴族は昔から無茶苦茶強くて、少人数で多くの魔物を倒してきたが、その秘訣はここにある。
ふつうは魔力を鍛えても一年で一くらいしか増加しない。
だが、魔の森の中で魔物と戦ったり、魔力を使ったりして鍛えると、数日で一くらいは簡単に上昇してしまう。
それを知っていた対魔貴族は魔の森に入って魔力を上げて強さを維持してきていた。
俺も生まれた直後から母さんに連れられて魔の森の中で修行させられた。
転生者の俺だから普通に成長できたが、普通だったら精神が変になっていただろう。
母さんもなかなかぶっ飛んだ人だったしな。
「ま、まさか……」
俺の言わんとしていることにアリアも気づいたらしい。
アリアの顔が青ざめる。
「魔の森の中に入って修行する。それが一番手っ取り早く強くなる方法だ」
「む、無茶よ! 魔物も出るのよ!?」
「魔物の強さは魔力濃度に比例する。だけど、余裕を持って倒せる魔物のつよさのところでも十分に魔力量はあげることができる」
魔の森の中は無茶苦茶魔力濃度が高い。
魔の森の木々が魔力の霧散を抑えているようで、木が生い茂っている部分だと木の生えていない部分の数十倍から数百倍の魔力濃度になっているらしい。
まあ、その分魔物も発生しやすいので、各国では魔の森の木を切って農地にしている。
だが、木の生えている部分は修行には最適だ。
魔の森の中で数ヶ月鍛えたほうが魔の森の外で数年鍛えるよりずっと強くなれる。
少しのリスクをとってでもそこで修行する価値はある。
「アリア! 大丈夫だって!」
「リノ!」
「レインがいるから、大丈夫」
「スイまで」
アリアは渋っているが二人は乗り気のようだ。
「まあ、二人の言う通り、当分は俺が補助に入れるようにしておくから、危険はほとんどないよ」
「……でも」
アリアはなかなか納得できないようだ。
まだ成人もしていない子供が魔の森に行くのは反対なのだろう。
そういう点では俺のほうが間違っているのかもしれない。
「アリア」
渋るアリアの服をスイが引っ張る。
アリアがスイの方を見ると、真剣な顔をしたスイと目があった。
「昨日、魔物に襲われた時、私はなにもできなかった。もっと魔術を、習っていたら、攻撃系の魔術を、教えてもらっていたら、そんな後悔ばっかりが、頭に浮かんでた。次は、もう、後悔したくない」
「スイ……」
スイは昨日の襲撃でいろいろ思うことがあったようだ。
アリアは俺と一緒に村に戻ったので身の危険はほとんど感じなかったはずだ。
スイはアリアと違い、結構長いこと死の恐怖を感じていたんだろう。
アリアよりずっと強くなりたいと言う思いを持っているようだ。
まあ、後ちょっと俺がくるのが遅ければ死んでたんだからそれはそうか。
アリアは顔を伏せて何かを考えた後、意を決したように顔を上げる。
「わかったわ。みんなで修業しましょう!」
「あぁ! 頑張ろうぜ!」
「がんばる」
どうやら、何とかまとまったようだ。
さすがに、代表のアリアの許可も得ずに魔の森に連れていくわけにはいかないからな。
俺は今後の修行のことを考えながら盛り上がる三人を眺めていた。
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