大きな魔物に襲われました②
翌日、結局、操作系の魔術を先にできるようになったのはリノだった。
まあ、そう時間を置かずにスイもできるようになったが。
今二人は魔術によって動かす距離を正確にする練習をしている。
この辺のやり方は「雰囲気で」としか言いようがないので、反復練習あるのみだ。
アリアは相変わらず発動待機状態の練習をしているし、キーリは最近『土作成』の魔術ができるようになったばかりなので、その魔術の練習をしてもらっている。
最近ではミーリアも魔術の練習をちゃんとしている。
彼女は光属性なので『発光』の魔術を練習してもらっている。
魔術で遅くまで本を読めるようになったと喜ばれた。
だからって、もっと早くに教えてほしかったとか言われても困る。
練習をしようとしてなかったのはミーリアの方なんだから。
まあ、なんにしろ今は全員が反復練習をしている状況だ。
ちょっとの間抜けるなら今がちょうどいいタイミングだろう。
「アリア、悪いんだけど、みんなのことちょっと見ておいてくれるか?」
「? 別にいいけど、レインはどうするの?」
「前回の襲撃から大体1週間だから、ちょっと魔の森の様子を見てくるよ」
「なっ! あ!」
「『水玉』」
アリアはがたりと音を立てて立ち上がり、目の前の火の付いた藁の入ったコップを倒してしまった。
俺は火事にならないように魔術で水をかけて鎮火する。
「ありがとう。……って。そうじゃないわよ。魔の森に行くなんて何考えてるの? 危険よ!」
「いや、別に俺一人だったらあの狼の魔物が何百匹いても全然平気なんだが」
「で、でも……」
おそらく、彼女の中には魔物を引っ張ってきて村を危険にさらした男たちのことがあるんだろう。
「絶対にこの村には連れてこない。それは約束できる」
俺がアリアの目を見てそういうが、アリアはおどおどした様子で許可をくれない。
……今日は仕方ないか。
何も起きてないかもしれないし、今日見に行けなくても別にいいだろ。
「行かせてあげても大丈夫なんじゃないですか?」
「ミーリア?」
「レインであれば、どんな魔物が出てきても倒してくれるでしょう」
「……どんなのが出てもは無理だぞ」
俺がそういうと、アリアはあきらめたように大きく息を吐いた。
「魔の森に行ってもいいわ。ただし、一つ条件がある」
「条件?」
「私も連れて行って」
予想外の条件に一瞬思考が止まった。
***
「だ、大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だよ。近くに魔物はいない」
あのあと、ひと悶着あってアリアがついてくることになった。
ひと悶着といっても、アリアがついていくと聞いてリノもついてきたがったのとスイもそれに便乗しようとしたっていう程度だ。
まあ、当然その二人がついてくることは却下されて俺とアリアの二人で魔の森に来ている。
だが、魔の森についてからアリアは俺の左腕にしがみついて離れようとしない。
まあ、思いのほか大きいアリアの胸部装甲が気持ちいいから俺としては役得って感じなんだが、魔の森に来てわかったことはそれくらいだ。
魔物もいないみたいだし、もう襲撃はなさそうだ。
「そういえば、アリアはどうしてついてきたんだ? 怖いなら家で待っていればよかったのに」
「だ、だって、魔の森の状況をちゃんと確認しておかないと来年の春どうすればいいのかわからないじゃない」
「あぁ~」
そういえば、彼女はこの開拓村の村長だったんだった。
魔の森の様子を見て来年の村のこととかを決めるつもりらしい。
「村長様は大変だな」
「そうなのよ。私が男だったらいろいろと融通がきいたんだけど……」
「あぁ。男じゃないと土地を持てないとかいうあれか」
この国は土地は男性じゃないと持てないらしい。
徴兵に応じられるのも男性のみで、結構な男尊女卑が残っているっぽい。
まあ、神聖ユーフォレシローリウム人民聖王国も相当な男尊女卑の国だったからこの辺はこれが普通なのかもしれないけど。
「そうよ。レインが移住してくれてほんとに助かるわ。書類上、全部の土地をレインのものってしちゃえばいいんだから」
「……そういえば、その辺の登録とかってしなくてもいいのか? 俺が来てから手紙を送ったりとかしている形跡がなかったけど」
「…………あ゛」
アリアは変な声を出して立ち止まる。
腕をつかまれたままの俺もアリアに引っ張られる形で立ち止まった。
忘れてたのか。
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