大きな魔物に襲われました①
「やっとできた」
「おめでとう」
今日、キーリがやっと『土作成』の魔術に成功した。
これで全員が基礎魔術の中で一番簡単な魔術が得意属性で使えるようになったことになる。
「1週間か。まあ、こんなもんだろ」
「いや、めちゃくちゃ早いわよ。普通は最初の『身体強化』の魔術が使えるようになるまで1年以上かかるんだから」
俺のつぶやきにアリアが全力で突っ込んできた。
「いや、そりゃ『身体強化』の魔術なんかしょっぱなから使おうとすれば1年くらいかかるよ。あれは持続時間とか強度とかいろいろ設定しないといけないし」
「持続時間? 強度?」
俺の発言を聞いてアリアとミーリアが首をかしげる。
彼女たちは現代魔術の知識があるから、俺の発言が引っかかったんだろう。
「魔術は前言ったように魔術式を『根源』から映してくるんだけど、その時、あらかじめ決めておくべき値っていうのがあるんだよ。例えば、さっき言った『身体強化』だと、持続時間を1時間として発動すれば、1時間の間ずーっと『身体強化』がかかりっぱなしになる」
「え? 『身体強化』は発動している間しか効果がなくて、相当使いこなさないとその状態で物を持ち上げたりはできないと聞いたのですが」
「それは持続時間を指定せずに発動した場合だな。その場合は初期値が勝手に入るようになってる。初期値は1秒だったかな?」
ミーリアの質問に俺は端的に答えた。
魔術によってこの設定値は異なるがほとんどの魔術にこの設定値が存在する。
初期値が設定されていて、意識的に設定しなければ勝手に初期値が入るのだが、設定値は与えませんというのも魔力感覚で指定しないといけない。
おそらく現代魔術ではすべての設定値を与えないというのをみんなやってるんだと思う。
ミーリアが魔術を発動するとそういう風な魔術になるからな。
「俺が今まで教えた魔術は魔力を物体や力に変換するだけの魔術だったからこの設定値がないんだよ。だから、一番最初にやる魔術としておすすめされてる」
「……」
ミーリアは絶句して声も出ないようだ。
まあ、俺もでたらめすぎるから現代魔術の本は読んでないんだし、そのでたらめな現代魔術をこれまで勉強してきているミーリアからしたら俺の魔術は驚くべきことなんだろう。
「ねえ。私はいつまで『着火』の魔術ばっかりをやっていればいいの?」
「そうだぜ。レイン兄ちゃん! 俺も違う魔術が早く使いたい!」
「私も、他の魔術を、使いたい」
アリアとリノとスイの3人はそんなことを言い出した。
正直、この最初の魔術は同じ魔術を1週間くらい続けておいたほうがいいんだが、スイはもう1週間たってるしな。
ここにいると他にやることもない。
魔力がなくなるまで練習して、休憩して魔力が回復したらまた魔術の練習をしてっていうのを繰り返してるからなー。
そりゃ飽きるわ。
「うーん。せめて魔術を使うのに慣れて、発動保留状態を10秒くらい維持できれば次に行ってもいいんだけどな」
「発動保留状態?」
「なんていうのかな? こう。魔術が発動できる状態だけど、魔術が発動しない状態というか……」
そういって俺はスイの練習している桶の上で『水作成』を発動保留状態にした。
この状態だと、魔術的な感覚で魔術は発動しているように見えるのだが、魔力も消費されず、事象も起こらない。
そして、その状態からすぐに魔術を発動することもできる。
「それなら、できる『水作成』」
俺のやっているのを見て、スイは同じように『水作成』を発動保留状態で止めた。
「おぉ。できてる」
「スイ、スゲー――! いつの間にできるようになったんだ?」
「やってるうちに、なんかできた」
「よーし。俺も!!」
リノも挑戦するが、そのまま『土作成』で土を作ってしまう。
「クッソー!! レイン兄ちゃん! もう一回やってみて」
「わかったよ」
リノは魔力感覚が優れているのか、俺が同じ作業をやってみるとすぐできるようになる。
実際、魔道具を使えるようになったのもスイのすぐ後だったし、『土作成』の魔術も俺がお手本を何度か見せるとすぐにできるようになった。
「『土作成』……。よっしゃ! できた!」
案の定、発動保留状態も俺とスイが数回お手本を見せているとできるようになってしまった。
彼女も一種の天才だな。
「うーん。うまくできない『着火』」
アリアはまだできていないようだ。
「アリアは魔術式が体に取り込まれる感覚を意識しながら魔術を使ってみるといいよ」
「魔術式が体に取り込まれる感覚?」
「そう。呪文を言った瞬間に体の中に『根源』から魔術式が取り込まれるんだけど、そこに勝手に流れていく魔力を流れないように押しとどめるとできる。と思う。すまんな。これも感覚的なものだからうまく説明できないんだ」
「わかったわ。ありがとう」
アリアは俺のアドバイスを聞いて、ぶつぶつとつぶやきながら魔術を使い始めた。
「レイン兄ちゃん! 次教えてくれよ。次!」
「私も、次の魔術を使いたい」
「オッケー。これまでは魔力を物体や力に変換してきたけど。次にやるのは魔力で物を動かす魔術だ」
俺は二人に次の魔術の指導を始めた。
「「ものを動かす魔術?」」
「そうだよ。『水操作』」
俺は魔術を発動しながらさっきまでスイが作り出していた水に指先で触れる。
すると、俺の指先からピンポン玉サイズの水がゆっくりと数センチ浮き上がり、ばちゃりと水の中へと戻っていった。
「「おぉーーーー」」
「これが『水操作』の魔術。さっきミーリアにも話してたように、設定値が必要な魔術だよ。設定値をちゃんと設定しないとちゃんと発動しない。さっきやった魔力保留状態で移動先をちゃんと指定する。まあ、慣れれば保留状態なしでもそのまま発動できるようになる」
「レイン兄ちゃん! 土操作も一緒なのか?」
「一緒だぞ。『土操作』」
そういって、リノの作った土に手を触れる。
すると、土が1センチほど浮かび上がり、数秒後には落ちて元の位置へと戻った。
「おぉぉぉぉ! わかった。やってみる! 『土操作』」
「『水操作』」
リノに続けて、スイも練習を始めた。
これはリノのほうが先にできるようになるんじゃないかと思っている。
感覚的な部分が多いからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます