閑話 愚王たちのその後①
「ご婚約おめでとうございます」
「ありがとう」
アーミリシアの婚約披露パーティーの翌日、王である私は全体の会議に出席していた。
昨日の婚約披露パーティーは一波乱あったこともあり、たくさんの人に知られている。
その上、今まで扱いづらく思っていた対魔貴族を廃止して、隣国との和平によって宙に浮いた中央軍の新たな利用方法まで考案できたのだ。まさに一石二鳥、いや、アーミリシアの婚約の件も合わせて三鳥の成果と言っていいだろう。
今回損をした伯爵には土地を与え、役職を失った対魔貴族には本物の貴族の子供という地位を与えた。
まさに誰も損をしない名采配だったと我ながら感心するばかりだ。
「ルーグレイシア陛下。昨日はなかなかの名采配でしたね。あなたのような賢王の治世に生まれられたことを誇りに思います」
また、私を称賛する声が聞こえてくる。
「軍務大臣ではないか。今後も我が国を頼むぞ」
「はっ!」
軍務大臣が恭しく頭を下げて席につく。
これで全員揃ったようだ。
「では、会議を始める。では軍務部から報告を」
「はっ!」
私の言葉をうけ、会議が始まる。
軍務大臣が立ち上がって報告を始める。
「……以上です」
「うむ。……ん? 先々月の軍事費が大きく増えているようだが、これはどうしてだ?」
手元にある資料を見ると、先々月の軍事費がその前の月の十倍以上になっている。
先月の数値はまだ出ていないが、戦時でもないのにこの数字は異様に高い。
「はっ! それは魔の森への出兵費用です。あちらでは実際に戦闘も発生しているので武器や防具の修理費用や兵の治療がかかりその金額になっております」
「なるほど」
「今回は臨時費を回しましたが、辺境に行っている兵の士気高揚なども含めてもう少し費用が欲しいと思っております。魔の森では魔石が取れるため、その利益で相殺できるのではないかと愚考します」
うむ、浮いてしまった軍の活用としてちょうどよいと思ったが、思ったより軍事費がかかるようだ。
だが、補填できるめどがあるのであればまあ良いだろう。
魔の森の魔物からとれる魔石は魔力含有量が多くてかなりの高値が付くと聞く。
そこで利益が上げられないのは少し残念だ。
魔の森の防衛は穀倉地帯を守るために重要な任務だ。
利益が出なくてもそこまで問題にはならない。
「わかった。財務大臣。魔石の売買利益から算出して軍の遠征費と捻出してくれ」
「……」
「どうした? 財務大臣?」
私が財務大臣に指示を出すと、財務大臣は資料を何度もめくり、何かを確認しだす。
数秒のち、財務大臣は顔を上げる。
「その。魔石の売却代金ですが、以前から対魔貴族の獲得した魔石は軍の収穫品として計上されているため中央軍の獲得した魔石で軍費が増えることはありません。むしろ、今までのものより魔石の魔力含有量が低く売値が下がってしまっています。今日はもう少しうまく倒していただけないかとお願いしに来た次第でして……」
「なに!?」
軍務大臣が机をたたきながら立ち上がる。
財務大臣から渡された書類を見ると、確かに魔石売却額が下がっている。
半値近くになっているのではないだろうか?
もともと大きい額だっただけにその影響は金貨数千枚に及んでいる。
「我々の戦闘がへたくそだというのか?」
「そうはいっていません。ですが、実際に魔石の魔力含有量は低下しています。損失が出ている以上、来月の軍費は損失分を差し引く必要があります」
「何を言っている! 魔の森の防衛のためこれまでより軍事費が多くかかるのだぞ!? 減らすことなどできるか!」
「でしたら、中央にある軍の保養所などを売却するしか手はないかと」
軍務大臣と財務大臣が喧々囂々と話し合っている。
なんということだ。
まさかここまで費用がかさむとは。
高々一人の対魔貴族を取り除いただけなのに。
「そ、そうだ。内務大臣。辺境貴族は俸禄をもらっていたな。それを軍事費に充てることはできぬか?」
対魔貴族は毎月一定額の俸禄をもらっていたはずだ。
その分を軍事費に充てることで少しは足しになるだろう。
「え?」
内務大臣はいきなり話が来るとは思わなかったのだろう。きょとんとした顔をして私のほうを見る。
財務大臣や軍務大臣からもにらまれ、たじたじな様子だ。
この状況では断れないだろう。
「えーっと。対魔貴族の俸禄を返還することは当たり前のことなので問題ありません――」
おお。
今日やっと利益の出る話が出てきた。
私はもちろん、軍務大臣や財務大臣も少し明るい顔をしている。
だが、その顔はすぐに凍り付くことになった。
「――ですが、対魔貴族の俸禄は月にたったの銀貨百枚ですよ?」
ここへきて、私は大変なことをしてしまったのではないかと不安になった。
対魔貴族が国にそれほどの利益を与えていたとは。
私は国王である私の問いにハキハキと答える少年の顔を思い出した。
「そ、そういえば、対魔貴族は初級魔術の『風刃』を使って敵を倒しているのではありませんでしたか?」
「そ、そうであったな」
「では、魔術の使える騎士団に辺境の守りを任せてはいかがでしょうか?」
軍務大臣はそういって騎士団長のほうを見る。
「うむ。軍が役に立たんのでは仕方がない。我らが出るとしよう」
「ぐぅ。よろしくお願いする」
軍務大臣は苦々しい顔をしたが、背に腹は代えられないのだろう。
「騎士団長。よろしく頼むぞ」
「はっ!」
騎士団長は恭しく頭を下げる。
少しゴタゴタとしてしまった。
長くある慣習を変えるというのはなかなか難しいものだな。
これが生みの苦しみというやつか。
だが、これでうまくいくはずだ。
たったの十歳の子供にできることが騎士団にできないはずがない。
私はホッと胸をなでおろすのだった。
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