閑話 魔術師文明の発展と衰退【序文】
この本は5つの章に分けて魔術師の歴史を紹介していく。
第Ⅰ章:魔術の発生
遥か昔、人が今より大地と近かった頃。
魔力を自由自在に操り、魔法と言われる力を使うものたちがいた。
民草はそのものたちを畏敬の念を込めて『魔法使い』と呼んでいた。
その頃は大地に魔が満ちており、民草は魔法使いに頼り、少ない生存圏の中、必死に生活をしていた。
そんな中、ある偉大な大魔法使いが生まれた。
彼の名前はヨハンス=フォン=ラミエル。
彼はそれまで感覚的な伝えられ方をしていた魔法を人族の魂に刻み付け、他者へ伝授する術を編み出した。
紀元前279年のことである。
第Ⅱ章:魔術と魔法の対決
この方法は画期的で、正確に伝えられることにより、その魔法は研鑽され、代を重ねるごとに成長していく可能性を秘めていた。
だが、ヨハンスの術は多くの者が魔法を使えるようになる可能性を秘めており、今まで特権階級にあった魔法使いの権利を脅かすものだった。
他の魔法使いたちはヨハンスの術を魔術と呼んだ。
それを使う者を魔術師と蔑み、迫害を加えて行く。
およそ十年後、魔法使いと魔術師の対立は決定的な亀裂を生み、両者の間で戦争が始まる。
世に言う『第一次魔術師戦争』である。
『青の魔法使い』や『北の魔女』、『黄昏を統べるもの』など、多くの死を超越した魔法使いが戦争には参加し、戦争は魔法使い側有利で始まった。
しかし、二百年あまりに及ぶ長い戦争の末、勝ったのは魔術師であった。
魔法使いには強者が多かったが、魔術師は何十何百という数を持ってその全てを打ち倒したのだ。
次第に魔法使いは数を減らし、最後の魔女『アーリティシア』が討ち取られたことで『第一次魔術師戦争』は幕を閉じた。
ヨハンス暦元年のことである。
第Ⅲ章:魔王の誕生
その頃には魔術は民草にまで行き渡り、多くの流派と多くの魔術がこの時期に産声を上げた。
それからおよそ四百年、平和の下(もと)、大地に満ちていた魔を打ち倒しながら魔術師たちはその生活圏を拡げて行った。
だが、何事にも永遠は存在しない。
魔術師たちが謳歌していた平和はある日一瞬で崩れ去った。
あるものの手によって。
そう。
魔王ザードだ。
魔王ザードは「すべての魔術は自分のものだ」と主張し、世の中の魔術師の魔術を奪っていった。
その手法は魔術師を殺し、魂を採集する魔術を使って魔術師の持つ魔術を魂ごと奪うものだった。
そう、魔王ザードは他者の魂を採集する『収魂』という凶悪な魔術を持っていたのだ。
危機感を持った魔術師たちは団結し、魔王ザードは勇者トロイによって討伐された。
だが、魔王の魔術への恐怖は魔術師たちに他者の魔術への不信感を植え付けた。
周りのものがどんな危険な魔術を持っているかわからないのだ。
恐れて当然だろう。
ピリピリとした空気は世界中に広がっていく。
そしてついに、すべての魔術を自分のもとで管理しようとする魔術師帝国べリウスと魔術師の独立性を尊重する魔術師王国クアトラの戦争を皮切りに世界を巻き込む戦争が始まった。
ヨハンス歴579年、第二次魔術師大戦の幕開けだ。
第Ⅳ章:大魔術の発動
戦火はあっという間に広がった。
自由を求める魔術師と管理を求める魔術師の争いはいつまでも続いていくように思えた。
だが、この戦争はあるものによって唐突に終止符を打たれることになる。
その戦争に終止符を打ったのは大賢者ドライアだ。
ドライアは戦争から逃げ、一人で魔術の研究をつづける魔術師だった。
その中で彼は太古、魔法使いが世をすべていた時代からの夢だった『根源』の一部を覗き見ることに成功した。
そこには古今東西の魔術の知識が書かれていたらしい。
ドライアはその知識を独占せず、全世界で共有する方法を考えた。
そして思いついたのが『根源』へと接続する大魔術の作成だ。
今も働き続けているその大魔術の詳細は今は伝わっていない。
だが、すべてのものがすべての魔術の知識を閲覧できるようになったことで戦う理由を失ったことで第二次魔術師戦争は終結した。(『根源』への接続を果たし、大魔術すら行使できる大賢者ドライアに誰もが恐れをなしたからだともいわれている)
そしてヨハンス歴756年、大賢者ドライアの偉業と恒久の平和を願って統一魔術師国ドライアスが誕生し、その国の下、魔術師たちは再び繁栄を迎えた。
第Ⅴ章:第三次魔術師大戦の勃発
統一魔術師国ドライアスは繁栄を極めた。
大地から魔は一掃され、人族の生活圏はこれまでにないくらい広くなった。
だが、永遠の繁栄などというものは存在しない。
破滅はゆっくりとやってきた。
最初は今までは普通に使えていた魔術がある日突然使えなくなったことだった。
そして、家畜の大量死や疫病の蔓延。
様々な災悪がドライアスを襲う。
しばらくたって、その原因が判明する。
原因は大気中の魔力の不足だ。
人間が使う魔力が自然の生み出す魔力を上回ってしまったのだ。
魔力は人族や動物はもちろん、木々や大地からも放出されている。
魔術は自分の魔力と周りにある魔力を使い発動されるため、人族が魔術を使えば使うほど自然の魔力は失われて行っていた。
それに気づいた人族は不要な魔術の利用を停止し、より効率的に魔力を使う魔術を考案していった。
そのほかにも、魔術の免許制の導入、古い魔道具の徴収、魔術師部隊による異端魔術師狩りなどドライアスの政府はあらゆる手を講じた。
だが、それも減り続ける魔力に歯止めをかけるには至らない。
人々が魔力をめぐって争いあうようになるまでそう時間は掛からなかった。
切っ掛けは革命家ユイッティオヌスがドライアス政府に対して宣戦布告をしたことだ。
ユイッティオヌスは仲間とともに禁じられた多くの魔術を使い、ドライアスの魔術師部隊の撃退に成功する。(ユイッティオヌスは魔法を復活させ、世界に混沌をもたらそうとする魔女教徒で、この際魔法が使われたという証言もある)
最強と言われていたドライアスの魔術師部隊が敗れたことで世界の均衡は一気に崩れた。
そこから、革命軍には多くの魔術師が集い、革命軍 対 政府軍の戦闘はどんどん激化していく。
さらに、懐古派や自然派、旧王族派などが加わり、戦禍は今も広がり続けている……。
本書は失われ行く魔術師の歴史を後世に残すために執筆するものである。
そのため、政治的な意見は可能な限り廃し、事実のみをつづりたいと思う。
この大戦が終わり、平和な世が訪れた際、多くのものに読まれると幸いだ。
今度こそ、恒久な平和が来ることを強く望むものである。
歴史学者 ドナルド=テンダー
ーーーーードナルド=テンダー著「魔術師文明の発展と衰退」の序文より抜粋
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