【WEB版】追放魔術師のその後 ~なんか、婚約破棄されて、追い出されたので、つらい貴族生活をやめて遠い異国の開拓村でのんびり生活することにしました~

砂糖 多労

なんか、婚約破棄されました。

「ちょっと待ったー」から始まる婚約破棄劇①

「レイン。準備はできているか?」

「はい。問題ございません。ルナンフォルシード伯爵閣下」


 俺はルナンフォルシード伯爵に促される形で馬車に乗り込んだ。


 この馬車は王城に向かう。

 そして、これから王城で俺の婚約披露パーティがあるのだ。

 俺の婚約相手は神聖ユーフォレシローリウム人民聖王国の第3王女、アーミリシア様だ。


(しかし、対魔貴族というのもなかなか優遇されているよな。『魔の森』から出てくる魔物を倒しているだけで)


 『魔の森』というのは魔物が発生する場所で、人間は住むことができない。

 だが、『魔の森』の近くは魔力が多く、作物が育てやすい。

 人族の国はこの『魔の森』に寄り添うように発展してきた。

 ほとんどの国がどこかの国境が『魔の森』と接している。


 この国も南の国境が『魔の森』に接していて、その国境から国内に入ってくる魔物を倒すのが俺たち『対魔貴族』というわけだ。


(まあ、昔はたくさんいたらしい『対魔貴族』も今は俺一人しかいないんだが)


 対魔貴族はその役割上、中央にはほとんど寄り付かない。

 毎日のように出てくる『魔の森』の魔物を倒さなければいけないので中央に行くことができないというべきかもしれない。


 しかし、『魔の森』の魔物を狩っているため個人としてはかなり強い部類に入る。

 そんな危険人物を制御するため、この国には伯爵位以上の最も誕生日が近い異性を『対魔貴族』と結婚させるというしきたりがある。


 俺に誕生日が一番近かったのが第三王女だった。

 彼女はしきたりにのっとって俺の婚約者となったのだ。

 彼女には気の毒だと思うが、まあ、決まっているものは仕方ないのであきらめてほしい。


 前振りが長くなったが、他の貴族と同じように成人の15歳の誕生日である今日、婚約発表と相成ったわけだ。


「今日は失敗するんじゃないぞ! たくさんの高位貴族の方がいらしているんだからな」

「承知しております。伯爵閣下のおかげで準備もできました」


 城壁を越えて城の中に入ったあたりで今まで黙っていたルナンフォルシード伯爵から声を掛けられる。

 この半月はこの日のための練習を血縁上の父親であり、今俺と同じ馬車に乗っているルナンフォルシード伯爵から受けていた。


 王都に移動するまでの間の時間も含めてかなりの期間国境を空けることになったが、その間、俺のお役目は中央軍が代わってくれている。

 どうやら最近、隣国としていた小競り合いがウチの国の勝利で停戦に漕ぎ着けたので中央軍が空いてしまったらしい。


 ただ飯ぐらいに新しい職場を提供しようということだったのだろう。


(この国の軍がどれだけ強いかはわからないが、この調子なら俺の仕事は減るかもしれないな。せめて月一くらいの休みはほしい)


 俺は馬車に揺られて王城に向かいながらそんなことを考えていた。


 ***


 王城につき、馬車から降りた俺たちは城の兵士の案内でパーティ会場へ向かう。

 ルナンフォルシード伯爵は俺の前を歩いている。


 俺よりも彼のほうがやる気満々だ。

 なんたって俺を通して王族と縁戚になれるのだ。

 その縁を使ってのし上がってやろうという空気がひしひし感じられる。


 まあ、結局俺は辺境で過ごすことになるんだろうし、中央のことは中央で勝手にやってくれって感じだ。


「いいかレイン。今日は大事な日だ。くれぐれも粗相のないようにな」

「承知しております。伯爵閣下」


 本日何度目かになる忠告に全く同じ返事を返す。


 気づけばパーティ会場の扉の前まで来ていた。

 俺はしきたりをよく知らないが、俺たちが入るとすぐに婚約披露パーティが始まるらしい。


 ルナンフォルシード伯爵は一度うなずくとゆっくりと扉を開ける。


 目に飛び込んできた会場はきらびやかに装飾され、シャンデリアはきれいに輝いている。

 この会場の中にいるのは侯爵以上の爵位の人らしく、みんな高そうな色とりどりな服を着ている。


(目がちかちかする)


 センスは推して知るべしだ。

 どこがいいのかわからないような衣装の者が多い。


 人ごみの中一段高くなったところにアイドルグループとかに居そうな感じの可愛らしい女性が座っていた。

 清楚さを際立てるような純白のドレスに身を包んでいる。

 彼女が俺の婚約者になるアーミリシア王女だろう。


(結構きれいな子だな。服も常識的だし。よかった)


 俺は初めて見る婚約者が常識的な雰囲気であることにほっと胸をなでおろす。

 宝石を所狭しとデコレーションするような子だったらどうしようかとこの部屋に入った瞬間不安になったのだ。

 この部屋にそんな子が何人かいるから。


(まあ、もっと気にするべきことはあるかもしれないけどな)


 俺はアーミリシア王女のさらに後ろに注目した。


 王女が座っている位置よりさらに高い位置に一脚の椅子が置かれており、そこには壮年の男性が腰を掛けている。

 あの方がこの国の国王陛下だ。


 自分の娘の婚約披露パーティーなので、出席してくださったらしい。


「っ!……」


 隣から息をのむ音が聞こえる。


 伯爵は俺より緊張しているようだ。


 これは王族の婚約披露パーティだ、

 出席が許されているのは上級貴族の中でもえりすぐりの名家の人間のみ。


 ルナンフォルシード伯爵にとっては雲の上の人たちが一堂に会しているんだ。

 緊張でがちがちになるのもわからなくない。


「いくぞ」

「……はい」


 正直、ルナンフォルシード伯爵自身に向けての言葉だったような気もするが、とりあえず返事をする。

 俺が返事をすると、すぐに歩き出した伯爵の背中を見ながら俺は壇上に向かって歩き出した。


 俺が壇上に登り、伯爵が段のそばにある司会席に立つ。

 俺がアーミリシア王女の隣に立つと、彼女が俺に向かって会釈をしてきたので会釈を返す。


 一度深呼吸をして伯爵が話し始めた。


「本日は皆さま、お集まりいただきありがとうございます。これより、対魔貴族レイン=ウォルフィードとアーミリシア王女殿下の婚約披露パーティーを――」

「――ちょっと待ったー!」


 伯爵の言葉を遮るように誰かの大声が聞こえた。

 俺が入口のほうを見ると、大きく開かれた扉の向こうに十五歳くらいの男性が立っていた。


「ごめんなさい」


 隣にいたアーミリシア王女の小さな謝罪の声が聞こえた。

 この時、俺にはあいつがだれかはわからなかった。

 だが、俺の婚約披露パーティーが無事に終わらないことだけは理解した。

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