第10話

81

[お呼びたてして申し訳ないのですが、もう一度来てくれるとありがたい]と言っている旨を伝えに来た。これから昵懇にしなければいけないので是非もなく行くことにした。


[お呼び立てしまして申し訳ございません。じつはお線香のことでお願いがございます。この地区におられるお歴々は貴宗派のものを利用させていただいていますが、できれば異次元空間を行き来できるということなので各宗派の昔のお線香を持ってきていただければ、他の宗派の方々も大変うれしく思うはずですし、現次元のお線香は化学薬品入りのものがほとんどですのでこれからこの玉蘭の町にたくさんの信者さんが訪れると思いますので、大きなビジネスになると思いますがいかがでしょうか。]


すかさずゴン太がワンワンワンと賛成の返事でサスケとすずも大きくうなずいたので従事官にすぐに取り掛かるように命じた。明日香王国でも人工的にきゃらやサンダルウッドに沈香を大幅に増やすように指示した。

82

というのは中国で仏教が盛んになり原料の買い占めが起きて、お線香の生産に苦労しているとの情報を得ていたからである。


参道を歩いていると横の路地から、トッテンカントッテンカンという威勢のいい槌音が聞こえてきた。面白そうなので覗き込んだら、3人の若い衆が一心不乱に打ち続けている。店頭にはおびただしい包丁に大工道具や植木ばさみ・農具などいろいろなものが並んでいる。


中から奥さんと思われる人が出てきた、[景気はどう、いいものが並んでいますね][おかげさまで職人さんや主婦の方々にひいきにしていただいています。]とにこやかに応対をしてきた。[材料の手当てとか、不足をしていることはないかな?]


[おかげさまで王宮のそばの門前町に師匠の仕事場がありますので、新門の親分にお世話になって良くしてもらっています。]活気のある仕事場は気持ちのいいもので、志野は記念に包丁を2本買って笑みがこぼれている。

83

玉蘭市から仏教聖都の白雲市に行く予定を如来山に変更した。というのはエベレストを抜いて標高8,888mで世界一になるので、準備の進展具合を見るためである。


早速、麓の入り口になる町の登山準備事務所に行ってみた。登山の専門家がネパールのシェルパ族と同じ程度の高地に住んでいる人たちをサポーターとして雇い、登山ルートを決めている段階だそうだ。内々ではすでに登頂も完了していてルートも出来上がっているが、他のルートや危険場所の対応をどうするかなどをと取り決めるとのことだ。


なお最初の登頂者は誰かというのが問題になるが、なんと人間ではなくここの監視犬とし養成しているコーカシアンシェパードドックが一番乗りだそうだ、なんでも登頂が近くなって登山者の速度が鈍っているところを、余裕でスタスタと登っていきワォーン ワォーン ワォーンと3回吠えたそうだ。このコーカシアンシェパードドッグは寒さに強く大型で60kg以上あり体力もあるようだ。

84

如来山8,888mはエベレストを抜いて世界一の山であるが、まだここは異次元であり現次元ではない。バングラデシュの南方のインド洋だったところに出現した大陸の山で、如来山の他に5,000m級の5つの山々が連なっている広大な山岳地帯である。


この山の隣にその世界では有名な山本長五郎こと、通称清水の次郎長が一家共々お茶とブランデー造りをしているのでちょいと寄ってみた。次郎長は富士山の麓でお茶づくりをしていたことがあり、自分から新門辰五郎に申し出てこの仕事にいそしんでいる。酒造りは国王からの要望である。


王宮スタッフの島津義弘と甥の豊久は明日香王国の総司令官と副司令官であるが、もともと鹿児島の薩摩茶の製造販売をしていた社長と常務であるのでお茶には思い入れがある。その関係でかなり頻繁に覗きに来ているようだ。ここの茶園はおもに新しい品種の抹茶と中国茶の黒茶に分類されるプーアル茶を作っている。

85

一般的には烏龍茶のほうが需要が多いと思われるが、香港ではプーアル茶のほうが一般的である。それもブランデーのように何年も寝かせたものが高価で人気がある。


明日香王国の超能力者は保存してある壺の中を、一瞬で数十年や数百年を経る超高速経過年数方法を使用して希望の状態を作り出すことができる。したがって魅力的な価格で充分に完熟して芳醇な香りの良品が提供できている。


抹茶のほうであるが、茶道で使用するお茶は品質を高めるために黒の覆いをかぶせて日光を遮断しているが、こちらはそのままで覆いは使用しない。それでも宇治茶よりおいしいと評判であるし、価格も手ごろである。


[次郎長さんいい仕事をなさっていますね。][ありがとうございます、やっと目鼻がたってきました。]従業員が抹茶とプーアル茶を出してきたが一様に納得した顔をしている。中国では明代のものがたまに売りに出るが、かなりの高価で取引されている。

86

超能力で作り出した150年や250年物を手頃な価格で販売できれば、かなり大きな商売になりそうである。茶園の支配人は大政で酒造所は小政が支配人になっているが総支配人は清水の次郎長である。


暴れ者の石松と鬼吉それにお調子者の法印大五郎は国王の祖父の友人で有名調理長に特別に頼んで、3人を仕込んでもらった。徹底的なスパルタで鍛え上げたので腕は心配なく上級の調理人になっている。


看板のワインとブランデーも評判である。ワインは東欧の一部で使用されている、地中壺寝かせである。そのようにすると腰の強い深みのあるものができるそうであるし、品種もこの方式にあうものが作り出されている。ブランデーはオリジナルな蒸留方法をとっている。まずこの方法に合った品種を特別に作り出し、葡萄を発酵させその後は沸騰させた蒸留が普通であるがオリジナルな蒸留法は熱を加えないで水分だけ超能力で抜き取る方法である。

87

そのあと樽に50年、半地下の素焼き壺に50年もちろん超能力による高速経過年数方法を使用するので100年貯蔵酒を手頃な価格で提供しているので、いわゆるツウの方には人気であるし、世界でここだけの蒸留方法の生ブランデーである。

芳醇でしっとりと包み込むような銘酒であるが、お茶を含めた企画販売のスペシャリストがいないので様子を見ながら対応していくことを決めた。


石松の店は3人のコックの評判がよくワインにブランデーそれにジビエ料理も人気なのだが石松がけんかっ早く、少しでも気に入らない客には不遜な態度を取ってしまう。まあ、それを楽しみにしているお客も多いのだけど。


醸造所に行くと支配人の小正が出てきて、[いらっしゃいませ、どうぞ試飲をお願いします。]とワインとブランデーが用意してあった。[ワインとブランデーは確かこのブドウ園専用の品種だったな、よく特徴が出たいいものです。特にブランデーは世界に誇るものですよ。コニャックのように生産地の名前を登録したほうがいいかもな。]

88

茶園と醸造所にレストランは王様が土地と資金を提供し、新門辰五郎に預けて次郎長が総支配人として采配をしている。


同じ菩薩山は5,888mであるが、山の上部800mが四角推になっていて、チベット仏教の聖山のカイラス山にとても似ているので、第2カイラス山とも呼ばれている。菩薩山カイラス寺は標高4,000m程のところにあり、世界一の石仏もありとても大きなお寺で、ここら辺の末寺200か所を統括している。


山門に王様一行が入っていくとゴン太と同じ種類の犬(セントラルアジアシェパードドッグと四国犬のMix)が8匹ほどが近寄ってきて、ゴンタの前で行儀よくお座りをした。これらは寺犬として飼われており、参拝ルートの見回りもしている。通常の犬より知能が優れていて、また、人に危害を加えないように王様自ら改良を施している。この寺の各末寺にも数匹ずつ配置されていて参拝ルートや登山ルートの見回りをしている。

89

8,888mの如来山では5,500mのベースキャンプまでがこの犬種の担当で、それ以上は寒冷地になるのでコーカシアンシェパードドッグにまかせている。ここにいるコーカシアンシェパードドッグは通常顔が黒くて褐色の体色であるが、救難時に目立つようにオレンジと白のブチになるように王様が手を加えた。


寺犬に案内されて本堂脇の寺事務所に老師と思われる住職がいた。[いらっしゃい、どうぞ中に入ってお座りください。][大きくて、りっぱなお寺ですね。][な~に王様のおじい様といっしょに造ったんだよ。]ゴン太がなぜか老師のそばに近づいて尾を振っている。[お父さんはあきらめて、あなたが後継ぎに選ばれてここにいらしたわけです、すべてが観世音菩薩のお引き回しですよ。


もう亡くなられたあなたのおじいさんと元国王代理と私は気心が知れた仲間で、国の将来を語り合ったものです。]と老師はゴン太の頭をなでながら話した。

90

もしかしたらゴン太はここで生まれたのではないかと思ったが口には出さなかった。しばらくすると寺僧がスタッフそれぞれに抹茶をたてて、茶菓子とともに運んできた。


[これは奥高麗茶碗の熊川型に似ていますね、私やここにいるスタッフは陶芸に関した仕事をしていますのでよくわかりますが、これはいいですね作為がなくて枇杷色の釉薬や高台も優れています。これは老師がやかれたのですか?]


[な~にここいらの土味が面白いと思って私が焼いてみました。][ここいらへんの土は唐津に似て鉄分の多い陶土なので、食器や茶陶を作ると面白いですね。菩薩山焼ということで力を入れてみたらどうですか。このお寺は参拝客が多いのでそれなりに売れると思いますので、私たちのルートで強力をさせていただきます。][もったいない話でありがたいことです。それでは窯を焚くのも修行ということで、ひろげてみますかね。]ゴン太はうなずいて尾を振っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る