第9話

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次はいよいよ山車の出番だ。普通の祭りは年番で順番が決められているが、今回は特別ということで仕切っている辰五郎の町内が一番にやってきた。お揃いの法被と揃いの色で鉢巻をしめている。子供は大人の休憩のときに少し載せてもらうだけなので、ほとんど綱を引いているだけだ。


山車が停車してそれぞれの地区の人形を屋上に立てているが、3mぐらいはありそうだ。正門に向けて横一列に並んだ。なかなかに壮観である。囃子はそれぞれがバラバラだが、踊りを始めたところは一様にピットコヒャラリッピとやっている。通称、ピットコである。


山車の前で子供たち7,8人がお面をつけて、おもいおもいの振り付けで踊っている。子供たちの独壇場である。おヨシにタエやよっちゃんそれにター坊、みんな一生懸命だ。ター坊は踊りが大好きで普段はボケ~っとしているのに、水を得た魚状態で生き生きとしている。大人たちは振る舞い酒の菰被りを美味そうに飲んでいる。

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観衆も大勢が集まったところで、いよいよ国王新夫婦のお出ましである。手短に挨拶を述べた後、辰五郎の木遣りで締めた。[国王陛下万歳、万歳]いっせいに湧きあがった歓声に、国王新夫婦は深々とお辞儀をして戻っていった。


王宮の担当者が大人には日本酒とおつまみの詰め合わせセット、子供にはお菓子のの詰め合わせセットと飲み物を全員に配った。各町内会の世話役には年祭りの2倍の、それぞれに二十万円が渡された。辰五郎が年祭りと同じご祝儀10万円と言ったところ、特別なものなので倍でよろしいということになったのだ。みんな納得をして、満足の態である。


子供4人も大きなお菓子の詰め合わせ袋を大事に抱えている。結婚式のイベントは大成功に終わったようである。お寺の参道も大賑わいでター坊によっちゃんの両親たちもテキヤで忙しそうで、福丸デパートもセールが大成功の情報が入っている。

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結婚式が終わったら旅行であるが、ここは異次元の世界なので国内の新しく整備した2か所の仏教聖地を訪れることにした。弘法大師は唐の長安の青龍寺で恵果大師より密教の正嫡の認可を受けたが、その青龍寺と同じ緯度線上にあるのが弘法大師の生誕地にある善通寺である。その中間に同じ緯度線上になんと高野山もある。偶然なのか故意なのかはわからないがそのようになっている。


その強烈な緯度線上に同じく明日香王国の宗教都市である玉蘭市を造った。ここには達磨大師をはじめ、弘法大師にその師である恵果大師、日蓮・法然・親鸞・道元・最澄・栄西などそうそうたる大物の仏教家が揃っている。それにチベット仏教の創始者のパドマサンババが小さいながらも一山を構えている。


ここはとても重要な場所なので、有能な管理者を送り込んでいる。ここも観世音寺の門前町と同じく江戸景観地区に指定されているので、住人はほとんどが和服の装いである。

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仏教美術も盛んで仏師の運慶に快慶、それに宗教画のお歴々も充実している。庭師で有名な夢想疎石は仕事の依頼が多いが、絞ってボツボツぐらいのペースでやっているようだ。茶道の千利休も復活をして、その道を追求していると聞いている。


玉蘭市の後はお釈迦様が復活している、白雲市に決めてある。さてお供はサスケにすずそれにゴン太にもちろん妻の志野、ガードマンと運転手各2人に執事である。6ドア9人乗りで2台であるが、本身は王宮に残し分身が来ている。この王宮車であるが、技術の天才平賀源内が水を燃料とするエンジンを作り実用化したものである。


超能力の瞬間移動ですぐに玉蘭市に到着した。まずなんといってもチベット仏教の祖である、パドマサンババに会うことにした。国王として上座に座ってもいいのだが、宗教家としては私も法王であるがなんといっても重みというか貫目がかなり違うので上座を譲った。

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サンババは一目で頭脳明晰がわかるというか、ちょっと他にはいないようなタイプだが見た目と違って、とてもさばけた人で親しみやすそうだ。ゴン太も一緒に上がってきて控えているが、上座の座布団からいきなり降りてゴンタを呼んで座らせるようにした。王様はあっやばいと思い手でまあまあと合図を送ったらにやりと笑って、わかったようだ。サスケとすずは首をひねって[へ~ゴン太が急にえらくなっちゃったの。]と不思議そうに王様の顔を覗き込んだ。


[私たちチベット人は観世音菩薩の真言、オン マニ ペ メ フムを毎日唱えています。その菩薩様が認めた国王ですので、私を含めて全員が協力すると思います。私たちにできることがありましたらどうぞ申し出てください。]とありがたい言葉を賜った。


このサンババ師は吐蕃王国初代の時に、国教を決めるべく禅門と口問で争ったが勝利した利け者である。また妻を5人娶るなどかなり面白い人物でもある。

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このサンババの宗派はニンマ派としてチベット仏教四大派閥て現在も続いている。ちなみにダライラマ法王は最大派閥のゲルク派である。


志野はゴン太がただものでないとうすうす感じていたが、今日のこのことでその思いを強くした。まだまだ他にも行きたいのだが他日にし、復活した千利休の所に行くことにした。参道を歩いていると露店がきちっと並べられ活気に満ちているとともに、大道芸人もうまい具合に溶け込んで調和のとれたいい雰囲気を醸し出している。


仏教聖都というと堅苦しいと感じるが適度に遊びの部分もあり、華やかさもある。この町は現次元に接続されると間違いなく大勢の人たちが押し寄せるので宿泊場所の準備をしなければならない。能吏の石田三成がいろいろと関係しているので大丈夫かなと思っていると、前方より親分風の鯔背な格好で4・5人子分を引き連れているのがやってきた。警護員が素早く身構えたが、愛想よくこちらにあいさつに来た。

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[新門の親分からうかがっていますが、黒駒の勝蔵と申します。どうぞ、お見知りおきをお願いします。][ごくろうさん、いい感じで仕切っていなさるな励みなさい。][ありがとさんで。]


少し歩いていくと”茶道教授初代千利休”との看板。大先生が驕らずに地道に周囲とうまくやっている感じだ。ちょうど娘が出てきたので在宅か尋ねると、空き時間でくつろいでいるとのこと。


[いらっしゃいませ、伺っております。国王夫妻様ですね、どうぞお座りになってください。][茶道教授は繁盛していますか?][いかんせん使用する道具が少なく不自由はありますが、自分で作ったり、見立てたりまあ何とかなっております。]


[ここにいるスタッフは私を含めて陶器関係の仕事をしていますんで、新作や骨董を含めていろいろ揃えることが可能です。どのようなものをご希望ですか。][ご心配下さりありがとうございます。何か所かの窯元さんもいらっしゃいますので、徐々にですが揃えられるようになりました。]

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[長次郎というわけにいきませんが、今の環境を景色として芸風にも取り入れて、柔軟にやっていきたいと思います。][すみませんが、お伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか、答えたくなければおっしゃられなくて結構です。]


[どうぞおっしゃってください。多分、切腹の理由だと思いますが?もうはるか昔の歴史上のことですので・・・実はちょっとお金を稼ぐことに夢中になりすぎまして、トラブってしまったのです。納谷助左衛門のルソン壺を関白殿下に茶壷として薦めて買ってもらったのですが、それが焼かれていた中国南部地方では小便壺、いわゆる尿瓶として利用されていたのがばれてしまいまして、私は切腹で助左衛門が海外逃亡となりました。それだけのことですよ。これからはあまりお金に欲を出さずにお茶の道を追求するつもりです。]


[玉蘭市はこれから仏教大家のお歴々が揃っているので大勢の信者が来ることが予想されます。]

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[せっかく来てくださる方々のイメージをより強力にするためにの方策も重要です。仏教都市と言ったらやっぱり杉の大木に囲まれてそれなりな雰囲気も重要です。ここには幸いに苔寺などを作庭した夢窓疎石がいらっしゃる。]


町のはずれに弟子一人と中型の地犬が一匹、詫びた住まいで暮らしていた。[お待ちしておりました。どうぞお座りください。]ゆったりとした物腰で[自分の気に入った仕事だけを、ささやかにやっています。山歩き半分に仕事を半分でしょうか、修験者のような生活をしています。][実は折り入って頼みたい仕事がありましてお伺いをしました。][雰囲気的に面白そうな感じですね]庭の飼い犬もいままでたら~っとして寝ころんでいたのが急に起きだして尾を振っている。


[京の都の近辺で沢山の庭を作庭されたと思いますが、その経験を生かしてこの玉蘭の町を庭に見立てて造庭をしてもらいたい。]おどろいたような顔をして、目をパチクリさせている。

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本心を探るように首をちょっと斜めにして[すみませんが、どのようなことでしょうか?]


[まずこの町は大きくなることを見越して、メインとなる場所近辺はひじょうにゆったりとした空間になっています。参道も広くとってあり、空地も多くあります。そこに沿道を含めて1,000~3,000年の杉や銀杏の大木をふんだんに植えて、また、庭石の良いものや植木のすばらしいもので泉水を造って、歴史のある古都のようにしてほしいのです。なんなら金閣や銀閣寺の有名な銘石も分身をして持ってこれますし、銘木も同じです。気に入ったものがなければここにいるサスケやすずに申しつけてくだされば、ご期待に副えるようなものをお持ちします。]


[ふ~む3,000年の大木ですか、私の庭造りの趣旨とはだいぶ違いますが、なかなか面白そうですね]従事官に段取りをつけておくように命じて後にした。パドマサンババの関係者が息せきをきって、駆け寄ってきた。

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