第7話

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今まで頑張っていたDOGOは起き上がってきた二匹と交代した。50kgと60kg四匹が首筋にぶら下がっているのである。スタッフ一同はここが勝負所と思い手に汗を握っている。喰いついている四匹は全匹血だらけで首を激しく振っている。


さすがの200kgを超える猛者も進退が極まったようで著しく弱ってきた。島津義弘がサスケに合図を送ってきた。[ほならいきますよ~]気をグッと入れて首をねじってしまった。それで即死である。

傷ついた犬たちは医学生の志野の手当てで以前の状態に戻った。明日香伝統医療は傷を治すのではなく超能力で元の状態に瞬時に戻せるのである。したがって今回は薬も全く必要がない。


獲物の猪の傷部分は味が変わってしまって食用に不向きなので、切り取って全部が犬の餌になる。まあ200kgあるので全員で食べても充分すぎる量だ。ゴンタと番犬は早く食べたくて、ソワソワして落ち着かない。

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犬用には生ではなく茹でてから与えている。次の狩猟のためにしっかりと猪の味を覚えておいてもらわなくてはならない。戦国武将の島津の2人や真田昌幸・石田三成に竹中半兵衛は久々に血がたぎるような思いをしたのか、興奮の態である。


DOGOARGENTINOと四国犬のMixの番犬が跳ね返され、振り払われてヨレヨレになりながらも闘志を失わず向かっていく姿勢に感銘を受けたようである。薩摩隼人のような、立派で良か犬ですたい。DOGOの番犬2匹とゴン太の頭をしきりに撫でている。


明日は野鳥でも取って、近所の土産にでもするかな。美味くて人気なのは鶴に白鳥それに雁が続いているが、雁はガンとも言いガンモドキのガンである。鴨は意外にも4番人気である。ガンの家禽がガチョウでくちばしを下げて向かってくると危ない。番犬代わりに飼っている家もあると聞く。翌日、雁の一群30羽が飛んでいたので気を送り一網打尽にした。

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ゴン太は護畜犬と四国犬のMixなので、泳ぎはDOGOMixの方が得意で湖から強く噛まないで傷まないようにして回収してきた。

王宮に帰ってきて獲物の猪肉と雁を分けて持たせたが、隣接している門前町の裏通りのなじみにしている定食屋に2匹を包んでゴン太と一緒に行ってみた。


7歳ぐらいの娘が一生懸命に手伝っている。こちらに気が付いてやってきた。ゴン太が大好きで何か話をしている。ここは大道芸人や職人などが多く、いつも混んでいる。貧乏人達にとっては安くてうまいとてもありがたい店のようだ。父親である店主にお土産だけどどうぞと2匹をやったら、とても驚いていた。


こりゃ~美味そうだと奥さんとうなずきあっている。ガンモドキじゃあなくてほんとうのガンなんて話していたら、周りの職人たちがジロジロとみている。犬の首輪に目立つように王宮警察と書き入れてあり、リードはつけていない。

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少し離れて目立たないように警護員2人が見張っている。店主夫婦は王宮関係者ということに気が付いているようだが、対応は一般客と同じにしていてくれる。疲れなくてとても落ち着く。

お茶を一杯ごちそうになり店を出ようとしたら、娘がゴン太と一緒にいたくてぐずりだしてしまったので、母親の許可を取り近くを散歩してみることにした。


門前町のここには若頭に大前田英五郎、小頭に清水の次郎長、黒駒の勝蔵それに飯岡の助五郎などの歴々が子分を引き連れて各場所の采配をしている。


門前町のほとんどの店や会社のオーナーは王室関係であるがまじめに20年以上勤めているところに45パーセントの経営権を与えているがこの町の土地と建物のほとんど全部が王室関係の所有である。裏山の総本山観世音寺も名義は王室である。法王は王様が兼ねているが副法王はここの住職の元国王代理とカイラス寺の住職が兼ねている。

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辰五郎の事務所は口入れ屋もやっているので、いろいろな人達が出入りをしている。目ざとく王様を見つけた若い衆がどうぞお入いりをと寄ってきた。中に入ると辰五郎が最敬礼で出迎えた。


[どうだ辰五郎、景気はよさそうだな。][へいおかげさまで、福丸デパートの路上販売で警察と多少のトラブルがありましたが解決いたしました。今はかなりの売り上げで儲かっています。]と威勢の良い言葉が返ってきた。


明日香王国の土地は全部が王様の名義であり、道路や歩道も貸してあるだけで名義は王様のものである。道路の用地を貸すにあたって覚書を結んであり、こちらの采配ですべての路上販売の場所を決めるとともに、歩道も通行の邪魔にならないようにこちらで采配できるようになっている。


したがって歩道上の建物も常識内で建てられる。警察にあ~だこ~だと言われる筋合いは全くないのである。福丸デパートの前の広い歩道には規則正しく、いろいろな出店が並んでいる。

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こちらも辰五郎の采配である。裏通りには多くの食べ物の屋台が並んでいるが、社会の底辺で苦労した人も多い。辰五郎は母子家庭や年配者がやっている屋台には特に注意をして、儲かっていなければ場所代に屋台代を猶予するように、それと儲かるようにいっしょに知恵を絞るように言ってある。


この方面を担当しているのは銚子港をシマにしていた飯岡助五郎である。助五郎は利根川を舞台に笹川の繁蔵と抗争を繰り返し、人気は繁蔵のほうがはるかにあったが実際には地元の評判が大変良かったといわれている。


辰五郎と話をしていると、娘のタエが新門の印半纏に豆絞りの手拭いを巻いていなせなかっこうをしてこれから門前町のシマ内を見回りに行くと言う、連れてきた定食屋の娘おヨシと同い年でたいへん仲が良い、見回りに一緒に連れていくのでゴン太を貸してくれと言ってきた。真剣で有無を言わさない表情だ。ゴン太はいいよってな感じで尾を振っている。

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分身をしてゴン太を付けることにした。終わったら勝手に帰ってくるから送り届けなくていいよ。これにテキヤの6歳と5歳の子供が子分として加わる。犬はDOGOのMix犬の力丸とゴン太の2匹である。おヨシはうれしがって、ゴンタの頭をなでてニコニコしている。


もうそこらへんの顔になっているので、見世物小屋でも芝居小屋でも顔パスである。仕切っている親分の娘ということで、そこら中から挨拶をしてくる。参道を見回っていると、半グレのチンピラが3人カップ酒を飲みながらタラタラ歩いてきた。そして目の前で飲み終わったカップを放り投げた。


たちまち正義感の強いタエは柳眉を逆立て[何をやってんの、すぐに拾いなさい。][この小娘のガキん子が~。]っとにやにやしている。たちまち2匹の犬が進み出て、態勢を低くして低く唸り声をあげだした。[首輪を見なさい、この犬は警察犬だよカスには噛みついていいことになってるの、200kgの猪をかみ殺してしまう猟犬と勝負する!]

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50kgと60kgの牙をむきだして、唸り声をあげて今にも飛びかかろうとしている。迫力にチンピラはタジタジである。反対向きになりすごすごと帰っていった。沿道の観衆はさすが新門の娘だと拍手喝采で、テキヤのあんちゃんは綿アメを4本持ってきた。ター坊とよっちゃんはエイエイオーと勝ちどきをあげている。


4人と2匹で見回りをしていると、店先で椅子の上で寝ている面白い猫に出会った。トラネコなのだろうが、その上にエンジと黄色の僧衣を着たように色が染められている。トラネコ模様の手と足はそのままでその上に羽織っているようである。


[うわ~い面白いや、なんだこのネコ]とター坊。よっちゃんは仰向けに寝ている腹を撫でている。[これ染めたんじゃあなくて天然かな]おヨシも覗き込んで不思議がっている。ゴン太が顔をぺろぺろと舐めたのでキョトンとしている。[かわいいね私も欲しいな]とタエ。面白そうに見ていたら、[あ、おねえさん、なんでここにいるの]とおヨシ。

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この店と福丸デパートの美術骨董売り場で陶器の担当をしている志野の分身に出会った。本身は王宮で王様の秘書のようなことをしているので、タエもおヨシもよく知っている。


[ジュースとクッキーを出すから、休んでいきなさい。][うわ~い、いいな。]とター坊、子供たちを中に入れて話していると、なついているゴン太がすり寄ってきた。[あなたたち王宮に遊びに来なさい、釣りをして焼いて食べれてとてもおいしいわよ、王様は子供が大好きなので大丈夫、日曜の朝八時正門前に集合わかった?]


[うわぁ~面白そう]一同は大賛成である。[じゃあここで解散、ゴンちゃんは勝手に帰っていくのでお別れね。]ワンワンワンと尾を振って帰っていった。


[おね~さんさようなら]日曜日が待ちどうしくてしょうがないようだ。王様はとても気に入って、せっかくだから志野の両親も呼んで来いという。日曜日はお客様で忙しいので分身をして、本身がこちらに来るようにした。

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日曜の朝、子供4人と志野の両親が定刻どおりにやってきた。番犬2匹とゴン太が出迎え志野もやってきた。王宮は約10万坪とかなり広い、敷地内に20m程の小山がありそこから10mの滝が落ちている。


水量は天気に合わせた超能力管理で天然の清流の水がそのまま流れてくるということだ。ただし魚の餌となる川虫などは凝縮されてくるそうである。この見事な滝は松と楓を配してメインの桜の色が引き立つようになっている。東屋もありとてもしゃれている感じで、水周りの石立もすばらしく使用されている庭石も銘石揃いと見うけられた。


ここを監視している番犬はニューファンドランド犬とチェスターベイリトリバーのMixである。ニューファンドランド犬は水難救助犬としてはとても素晴らしいが、いかんせん長毛で暑さに弱い。そこで体形はそのままに体毛をチェスターベイの渦巻にして、毛色もこげ茶色にした。



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