第十四話「読書の成果」

 一年がたち、俺は四歳になった。


 この一年は順調に成長出来たように感じる。

 

 朝に剣術の修練。

 午後は魔術の勉強。

 夜は読書をして、紙に情報をまとめる。


 これの繰り返しだったが、毎日やったことで確実に自分の力になってきたと思う。


 現に四歳ながら、少しずつ腕や足に筋肉がついてきた。

 とは言っても幼児の範囲を出ない程度なので、これからは食生活なども見直して筋肉をつけなければと思っている。

 とにかく肉を食べることが大事だ。


 それから、魔術の勉強にはフェロも参加するようになった。

 フェロは、ルイシャに飛行魔術を体験させてもらってから魔術への関心が高まっているようだ。

 魔術の勉強に熱心で、すでに初級魔術をいくつか使えるようになっていた。

 将来が有望である。

 これは、とても良いことだ。 


 フェロはジムハルトから助けた俺に恩がある。

 だから、フェロが俺を裏切ることはほぼないだろう。

 クリスティーナのときのような裏切りを起こさせないようにするためには、フェロのように幼少期から仲間を作って育てるのが良策なのかもしれない。

 フェロが俺の後ろを任せられる魔術師になれば良いな、なんて最近は思っている。


 それから、読書についてだ。


 俺はこの一年間、メリカ城書庫にある本を毎日読んでいた。

 そのかいもあり、三歳のときにたてた目標である「書庫のユードリヒア語で書かれた本を全て読破」を達成した。

 そして、誕生日プレゼントにもらった羊皮紙に、得られた情報を毎晩書きまとめてきた。

 それを今から確認しようと思う。



ーーー



 書庫にあった本のほとんどは伝説が描かれた物語、いわゆる小説だった。

 その他何冊かは、この世界の探検記や歴史書だった。

 それから、魔術について書かれている本も数冊あった。


 小説には目を通したものの、所詮は作り話であり、あまり役に立つとは思わなかったので羊皮紙にはまとめていない。

 そのため、羊皮紙には、主にこの世界の探検記や歴史書から読みとれたことをまとめている。

 探検記からはこの世界の地理を、歴史書からはこの世界の歴史を情報として得られた。


 まずはこの世界の地理についてだ。


 地理については、アルフレッド・ヴェッケル著『アルフレッド探検記』がとても参考になった。

 アルフレッドは、この世界のほぼ全ての大陸と島を探検し、自身の手によって大雑把な地図を書いてそれぞれの大陸の情報を説明している。


 いつ頃書かれた本なのかは分からないが、アルフレッドの体験とともにそれぞれの地域の情報が細かくまとめられていて、非常に良質な本となっている。

 

 この本にまとめられている情報は以下の通りだ。


・大陸について


 この世界には五つの大陸があり、それより外には海が広がっているだけだという。

 それぞれの大陸の名前と詳細は以下の通りだ。


 ・バビロン大陸


  人族が多く住む大陸。

  国はユードリヒア帝国とメリカ王国の二国が存在する。

  ユードリヒア帝国三剣帝とメリカ王国魔導隊は有名で、昔は対立していたが、現在は同盟関係にあるという。

  この二国は同盟関係にあるため争いは起きないが、南のポルデクク大陸の国々とは対立しているため、南の国境に入るときは注意が必要。 

  衛兵が多く、道の整備がされているため、魔物がでてくることは少ない。

  ユードリヒア帝国とメリカ王国の間には白銀山脈という長蛇の山脈があるが、ここでは魔物や盗賊もでてくる模様。

  そのため、ユードリヒア帝国とメリカ王国間を渡るには、一定以上の強さが必要らしい。

  バビロン大陸の貴族の間では獣人族をペットとして奴隷化するのが流行っているらしく、獣人族が多く住む東のキナリス大陸の国々に敵視されているという。


 ・ポルデクク大陸


  バビロン大陸の南側に位置する大陸。

  人族のみならず、他種族も多く暮らしていることで有名。

  地形は、バビロン大陸に似ているが道の整備がそれほど進んではおらず、南側は暑さのためか砂漠と化しているという。

  国は九ヶ国存在し、全ての国は同盟関係。

  九ヶ国は「ポルデクク連合」として、北のバビロン大陸と対立しているという。

  ポルデクク大陸には宗教が存在し、九国全てがイスナールという神を信仰している。

  イスナールの教えには様々なものがあり、代表的なものとして、

  ・他種族との友好を重んじるべし

  ・あらゆる生物の隷属化の禁止

  ・婚姻相手は一人まで

  などがあるという。

  そのため、人族以外の種族も多く生活していて、あらゆる人種が入り混じっているという。

  一夫多妻や人の奴隷化を許すバビロン大陸の国々はイスナールの教えに反するということで敵視していて、バビロン大陸との国境線付近は紛争地帯になっている。

  また、ポルデクク大陸の中心には、九国全てと繋がるイスナール湖という巨大な湖があるという。

  その湖の中心には小さな島があり、イスナールを祭る祠があるのだそう。

  各国の衛兵が守護しているため、一般人が簡単に近づけないようになっているらしく、著者のアルフレッドも祠にはいけなかったようだ。


 ・テュクレア大陸


  妖精族エルフが多く住む、ポルデクク大陸から見て海を挟んで東側にある大陸。

  地形は、植物や木々が多い大森林地帯だという。

  国というよりは村が各地に点在しているという感じらしく、村同士助け合って生活しているため、妖精族エルフ同士の対立もあまりなく平和なのだとか。

  妖精族エルフは、魔力が高い者が多く戦闘能力が高いため、森の魔物を狩って生活しているという。

  また、大陸南東には黒妖精族ダークエルフが住む地域があるらしい。

  黒妖精族ダークエルフは攻撃的で妖精族エルフの中でも群を抜いて戦闘力が高く、妖精族エルフはあまり近づかないようにしているため孤立しているという。

  近年は、魔族による妖精族エルフレイプ事件が多発しているため、かなり魔族には警戒を示していたとのこと。  

   

 ・キナリス大陸


  バビロン大陸から見て海を挟んで東に位置する、獣人族が多く住む大陸。

  この大陸はポメラニア帝国という一国一強で成り立っているという。

  ポメラニア帝国には、獣人王ガラシャーク・ポテマが即位しているらしい。

  このガラシャークは恐ろしく強いらしく、血気盛んなキナリス大陸の獣人族達を一人でまとめあげたのだとか。

  ガラシャークは英雄としてキナリス大陸内では認知されていて、数々の伝説を残しているという。

  なにやら、一人で龍神族ドラゴンを追い払ったとか、陸に上がってきた海人王を海に追い返したとか。

  著者のアルフレッドは、ガラシャークに会うことに成功したらしく、そのときのことについても詳細に書かれていた。

  ガラシャークは身長二メートルを超える大男で、顔は狼で眼帯をしているらしい。

  背中には大きな斧を担いでいて、とにかく威圧感がすごかったようだ。

  そのとき話していた内容によると、近年のバビロン大陸の貴族達が獣人族を奴隷にしていることに酷く激怒していたとのことだ。


 ・魔大陸


  バビロン大陸やポルデクク大陸と海を挟んで西に位置する、魔族が多く住む大陸。

  地形一帯が岩で覆われた荒廃した土地が多い。

  大陸の大きさはバビロン大陸とポルデクク大陸を合わせた広さと同等かそれ以上あると言われるほど広い。

  かつて、最悪の魔王「パラダイン・ディマスタ」が魔大陸全土を支配していて、東のバビロン大陸とポルデクク大陸に住む人族に戦争を仕掛けたとき、あと一歩で勝利というところでイスナールによって封印されて敗北してしまったという。

  魔王がいなくなったことで魔大陸は無法地帯になり、内戦が激化した。

  その結果、新たに五人の魔王が誕生し、それぞれの魔王が自分の領土を持ち、魔大陸を支配し始めて、それが現在まで続いているという。

  魔大陸には最低でもB級以上のモンスターが生息するらく、そこに住まう魔族達の戦闘能力は恐ろしく高いという。

  魔大陸の魔族達が攻めて来たら、現在の人族では勝てるかも分からないが、幸いなことにイスナールが魔王パラダインを封印したことで魔大陸内は分裂して内戦が始まったため、攻めてくることはないようだ。

  著者のアルフレッドは、魔族の仲間と共に魔大陸も探検したが、何度も死にかけたという。

  「人が一人で生きられる環境ではない」と書かれていた。



ーーー



 これらが、アルフレッドの探検記から読み取れた五大陸のおおまかな情報だ。

 

 とても貴重な情報で溢れている。

 特に俺にとって重要なのが、魔大陸には魔王がいる、ということだ。

 生前の復讐を遂げたい俺にとって、魔大陸に魔王がいる、という情報はかなり嬉しい情報だった。

 まあ、生前俺を罠にはめた魔王と同じ魔王であるかは分からないが、調べていく価値はあるだろう。


 それから、この世界の大まかな歴史についても多数の本を読んでまとめることに成功した。

 とはいえ、この世界に暦ができたのはつい二百年ほど前のことらしく、現在は渋川歴二百二十三年らしい。

 この一年を計測する暦を作成したのはポルデクク大陸に昔いたハルミ・シブカワという天文学者らしく、その名前からとって「渋川歴」という名前で、世界に暦という概念が広がったらしい。


 当然、それ以前の歴史に関してはあまり正確な年数は分かっていないようである。

 だが、人族が関わった大きな事象に関しては大まかに記録がされていた。


 俺がまとめたこの世界の歴史の情報は以下の通りだ。


 ・約五千年前

  

  魔大陸の魔王パラダイン・ディマスタの指示で、多くの魔族が人族の住むバビロン大陸を攻撃する。

  しかし、バビロン大陸はメリカという村にいたオールスディア・ディパウロとユードリヒアという村にいたイカロス・オリハルコンによって完全防衛される。

  

  その戦況を確認したパラダインは、目標をポルデクク大陸に変更。

  今度はパラダイン自ら兵を率いてポルデクク大陸を攻める。

  ポルデクク大陸の半分以上の村を占領したところで、イスナールがパラダインの前に現れ、パラダインを封印。

  魔王を失った魔族達は完全敗北に喫する。


  これらの戦争は「パラダイン戦争」と言われているらしい。


  その後、オールスディアは大賢者、イカロスは剣王、イスナールは神として、それぞれの大陸で崇められたという。


 ・約四千年前


  ある日、この世界の最北島と最南島である北龍島と南龍島から同時に、おびただしい数の龍神族ドラゴンがバビロン大陸とポルデクク大陸をめがけて攻めてきたという。


  このとき、パラダイン戦争のときにいた大賢者・剣王・神の三人はすでにいなくなっていたため、人族は苦戦を強いられた。


  そのとき救世主として現れたのが、刀匠マサムネ・キイだった。


  マサムネはバビロン大陸とポルデクク大陸を渡り歩き、各地の王に自分が打った魔剣を授けたという。

  使ってみると恐ろしく強いその魔剣のおかげで各国々の軍事力が増大し、龍神族ドラゴンを撃退することに成功したらしい。

  これを俗に「竜戦争」という。


  刀匠マサムネが各国々に授けた魔剣は全部で九十九本あるため、魔剣九十九刀として各国で重宝されるようになる。


  そして、後に魔剣ををめぐって各国が対立することとなる。


 ・約三千年前


  バビロン大陸では、九十九魔剣をめぐって二つの大国ユードリヒア帝国とメリカ王国の間で戦争が起きる。

  この戦争は五百年という長期に渡り続いたが、決着はつかなかったという。

  これを俗に「魔剣戦争」という。


  決着のつかなかった両国は休戦をし、同盟を結んだという。

  その際、「ディーグル協定」と言われる協定を結び、今後は協力関係としてやっていくことを決めたのだとか。


  その後、ユードリヒア帝国はバビロン大陸の東側、メリカ王国はバビロン大陸の西側を占領することとなる。


  そのころ、ポルデクク大陸の国々はすでに魔剣をめぐる内戦を終えていた。

  「イスナール条約」という条約が各国で結ばれ、各国が互いに争うことをやめ協力関係になることと、イスナールの教えに従うことを決める。


  イスナールがパラダイン戦争後に言った「それでも他種族を愛しなさい」という言葉にならい、トゥクレア大陸の妖精族、キナリス大陸の獣人族、海底に住む海人族、魔大陸の魔族といった他種族との交流を深めていったという。


 ・約二千年前

  

  ユードリヒア帝国とメリカ王国で組織されたバビロン連合軍と、ポルデクク大陸の九国で組織されたポルデクク連合軍とで大戦争が起きる。

 

  バビロン連合軍は、剣王イカロスが残した剣術と大賢者オールスディアが残した魔術によって兵力は上がっていた。

 特に、ユードリヒア帝国の三剣帝の兵隊とメリカ王国の魔導隊の連携戦術により、非常に強力な軍になっていたという。

  

  そんなバビロン連合軍に対抗するため、ポルデクク連合軍は他種族に助けを求めた。

  ポルデクク連合軍を助けるため、獣人族、妖精族エルフ、海人族が参戦したという。

  魔族は、当時から内戦がひどく参加することはできなかったようだ。


  バビロン連合軍とポルデクク連合軍と獣人族・妖精族エルフ・海人族が参戦した大戦争は苛烈を極めたという。

  強力なバビロン連合軍に対して、ポルデクク連合軍だけでは太刀打ちできないところを、獣人族・妖精族エルフ・海人族の力を借りてなんとか互角になったという。

  

  この大戦争のことを俗に「世界大戦」と言われている。

  

  そして、世界大戦は百年で終えたという。

  理由はお互いに消耗しすぎて、限界がきたからだ。

  戦い続けても変わらない戦線に疲弊してしまったのだろう。

 

  その後、バビロン連合軍とポルデクク連合軍、それから獣人族・妖精族エルフ・海人族を交えて協議し、休戦協定に調印したという話だ。


  この休戦協定は、協議が行われた場所が海人族が住む海底なことから、「海底協定」と言われているらしい。



ーーー



 以上が、この世界の大まかな歴史である。


 これ以降について記述されている文献はあまり見つからなかった。

 おそらく、本を制作するのに多大な時間とコストがかかるため、最近のことについて書かれてある本はあまり出回っていないのだろう。


 さて、これらが俺が一年間羊皮紙にまとめたことであり、書庫の本を読破した成果だ。

 これで、この世界の基本情報というものが大体は理解できたような気がする。


 しかし、得られなかった情報もある。

 現在の世界情勢や有力人物に関してだ。


 大まかな世界の歴史を理解することはできたが、千年前までのことだ。

 現在、世界がどのように動いているかは全く分からない。


 情報を知らない以上、メリカ王国がどこかの国から攻められる恐れがないとは限らない。

 特に危険視するべきは、魔大陸だろうか。

 内戦をしているため外部の戦争にかまけてられないという話だったが、それは千年前の話である。

 現在どうなっているかは、全く分からない。


 俺は書庫で得られる情報はなくなった。

 すぐにでも、現在における各国の情報を得られるようにするべきだ。


 それから、各国の有力な人物の情報もとにかく欲しい。

 俺がこの世界で生きるためにも仲間が欲しいからだ。

 しかし、そのような情報が本から得られるはずもないだろう。


 四歳になった俺の目標は決まった。


 現在の各国の情勢と各国の有力者の情報を集めよう。

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