第19話

という訳で、普通に城門を通って街の外へとやって来ました。

身分証があるっていいね。

門番の人に普通に止められたけど、傭兵ギルドの認識票を見せたらなんの問題もなかったわ。

まぁ、すぐに通してもらえたのは、背後でミーシャさんが威嚇していたことも要因の1つだろうけど……。


とりあえず今は金を稼がなければいけない。

最低限、食費に宿泊費に読み書きを教わるためのお金に貯金も出来るくらい稼がないといけないのだ。

食費と宿泊費は手持ちの銀貨147枚でそこそこの期間何とかなりそうだし、読み書きを教わるのにどれくらいの費用が掛かるかだな~……。

ギルドには沢山紙が置いてあるけど、1枚1枚がそこそこ高いらしいから、丈夫な紙を使う本なんて軽く金貨が飛んでいくはず……。

モンスターで一気に稼げればいいんだけどなぁ……。


「そういえばウィル君は武器を使わないの~?モンスター相手だとたまに触りたくないやつとかいるから、何かしらの武器は持っておいた方がいいよ~。」


……ナイフじゃ素手とあまり変わらないだろうし、武器を買うためのお金も貯めておく必要があるのか……。

正直そろそろ新しい服も欲しいし、マジでお金の問題が付きまとうわぁ~……。


「お!あそこ!おっきブタがいるよ!お肉がたくさん獲れるから、街に丸ごと持って帰れば結構な金額で買い取ってもらえるよ!ウィル君やっちゃう?」


ミーシャさんの指さす方には、ブタではなくデカいイノシシがいた。

まぁ、狩るのは簡単だと思う。

問題は持って帰る方だよなぁ……。

城門からここまでだいたい15分くらい歩いたけど、デカすぎて引きずるように運ばないといけないだろうから、街へ運ぶ頃には価値が下がりそう……。

台車を持ってくるか、解体を覚えないといけないな……。

解体は覚えて実際になれるまで時間がかかりそうだし、次からは台車を調達しないとだな……。

それも金がかかるやん……。


ミーシャさんと協力してもいいが、その場合は報酬を分けないといけなくなるしなぁ……。

普通に一緒に行動しているけど、まだ正式にコンビを組んでいるわけではないからね。

ミーシャさんが私のことを面白がって、好きで一緒について来ているだけって感じだ。

1人でやれば報酬全取り。

協力すれば山分け。

私はもちろん、出来るだけ全取りを選ぶ。


「どうする~?お金にはなるけど持ち帰るの大変だし、ウィル君は見逃しちゃうのかな~?その場合は私が狩っちゃうよ~。」


……やっぱりウザいなぁ……。


「もう殺してある。どうやって持って帰るか考えてる。」


「……あれぇ~?いつの間にやったの?近づいてないよね?……首に下から攻撃……?土を操って攻撃したのかな?ウィル君はマルチに魔法が使えるみたいだね~。凄いね~!」


……仕方がないことだけど、どんどん私の手札が晒されていく気がするなぁ……。

電気で人を殺せることだけはバレない様にしよう……。

……今の言い方だとミーシャさんは色々な魔法を使ったりできないのかな?

筋力強化魔法が得意だとは言ってたけど、それ以外は?


私は今のところ、時間停止と空間転移以外のやろうとした魔法は使えている。

……あ、重力を減らす魔法でモンスターの死体を浮かせればいいやん。

ちょっと魔力のコントロール下に置いて……。

イノシシにかかっている重力だけを消すようにイメージすれば……。

うん、問題ないね。


冷静に考えてみればそうだよね。

筋力強化とか台車にこだわらず、使える魔法を便利に使えば、だいたいの問題は解決できるんだよね。

思考を柔軟にしないといけないな~。


「……ねぇねぇ、ブタが少し浮いてるんだけど、これってウィル君の魔法だよね?どうやって浮いてるの?魔力の消費凄くない?」


「問題ない。」


「浮いてる……浮かせてる……う~ん?なんで~?普通重い物を浮かせたら魔力消費が激しくなるはずだよね~。」


「先に帰るね。」


どうやっているのか教えるつもりはないが、一応ミーシャさん繋がりで、魔法で重力に干渉できることを思い出せたので、少しだけ感謝しながら街へ向かって移動を開始した。

でも分け前はねーから!




イノシシを引っ張ってイサドの街へ戻ると、当然ながら城門で止められた。

このサイズをそのまま持ってくる常識知らずは、今まで1人しかいなかったそうだ。

イノシシの死亡をしっかりと確認して貰い、傭兵ギルドが城門近くに設けている出張買取所の場所を教えて貰ってから、無事トラブルもなく街へと戻ることが出来た。


それにしても出張買取所か……。

トスターの街では聞いたことがないな~。

傭兵ギルドも探索ギルドも、城門からそれ程離れていない位置に建っていたし、もしあったとしても、あまり足を踏み入れることのなかった街の反対側にあったのだろう。


周囲の人にガン見されながら街を歩き、教えて貰った場所に着くと、空き地にデカいテントを建てて机を並べただけの様な、いかにも簡易出張買取所といった感じのところがあった。

傭兵ギルド職員の制服を着ている人もいるので、ここで間違いないだろう。

だがなぜ、周りにいる人は全員私から距離を取ろうとするのか?

街に入れたんだから、イノシシが死んでいることくらい分かるだろうに……。


「ここで買い取ってもらえるって聞いたんだけど、合ってる?」


「は、はい。ギルドの認識票はお持ちでしょうか?」


「はい。」


イノシシを置いて、傭兵ギルドの認識票を手渡す。

私を怖がるような態度はともかく、仕事はちゃんとしてくれるようで安心できそうだ。

さて、これがどの程度の金額になるのか……。


「ありがとうございます。……え~……少々お待ちください。査定員を呼んで参ります」


「分かった。」


査定か~……。

肉の値段ってグラム当たりいくらって感じで売られていることばかりだったけど、こっちだとどんな基準で値段を付けるんだろうね?

やっぱり重さ?

それとも大きさ?

肉の種類によっても値段は変わるよね?


そんなことを考えていると、受付してくれた職員さんが、エプロンを付けた髭面のおっさんを連れて来た。

査定員というよりも解体人と言われた方がしっくりくるのだが、とりあえずエプロンについている血の様なものが汚い。

出来ればあまり近づかないで欲しいね。


「……なかなか立派な大きさのモンスターだな。……ミーシャが倒したわけではなさそうだが……。」


「私は一切何もしてないよ~。いつの間にか倒してるし、1人で普通に運んじゃうし、ホントに凄いよね~。私が見つけてきたんだよ!」


「そうか。目測から考えると金貨2枚くらいになると思うが、それで問題ないか?」


「そんなもんだけどウィル君の初仕事なんだよ!傭兵デビューなんだよ!もう少し色付けて~!」


「……金貨2枚に銀貨50枚だ。多めに見積もってもそれが限界だと思う。」


ミーシャさんのおねだりで銀貨が50枚も増えた。

私もおねだりすればもう50枚上乗せしてもらえるだろうか?


今更だが、この国では銅貨100枚で銀貨1枚となり、銀貨100枚で金貨1枚となる。

非常に覚えやすい。

感覚的に銅貨1枚が100円くらいの価値だと思うのだが、その場合は銀貨1枚で1万円、金貨1枚は100万円の価値があるということになってしまう。

つまり今回の売却額である、金貨2枚に銀貨50枚は250万円くらいの価値があるということだ。


……片道15分で稼いだとしてはちょっと半端ないのでは?


「討伐報酬は出てないの~?」


「そっちのことは俺は知らん。どうなんだ?」


ミーシャさんとおっさんに睨まれて、ギルド職員さんが完全に委縮してしまっている。


「え、え~っと……。討伐報酬も確か出ていたはずですが、ここでの確認や精算は出来ないのでギルド建物で確認していただければ……。」


討伐報酬とモンスターの売却は別なのか……。

それなら売却価値の低いモンスターは、討伐したことを証明出来る部位だけ取って、残りの死体は放置しても、討伐報酬は貰えるということになっていそうだな……。

食うことも、毛皮などの素材を取ることも出来ないモンスターは、持ち帰る手間を省いて討伐報酬だけ貰って稼ぐやり方がありそうだ。

まぁ、儲かるのは今回の様に食えるモンスターを狩って売るのが1番だろうけど……。


「この後はどうすればいいの?」


「金貨2枚と銀貨50枚でいいのならこいつに木札を貰ってくれ。その札をギルドの受付に持って行けば金を受け取れるはずだ。死体はここに置いたままでいいぞ。」


「分かった。お金はそれでいい。」


「で、ではこちらに……。直ちに木札を用意させていただきます。」


……このギルド職員さん、ちょっとビビり過ぎなのではないだろうか?

頭のおかしなミーシャさんや、髭面で顔の怖いおっさんとは違い、私のぷりてぃ~フェイスに怖がられる要素など皆無のはずだが……。


本当に素早く用意された木札を受け取り、私は傭兵ギルドの建物へと移動した。




傭兵ギルドでの換金は素早く行われた。

イノシシモンスターの売却額が金貨2枚と銀貨50枚。

イノシシに出されていた討伐報酬が銀貨25枚。

計金貨2枚と銀貨75枚だ。

手持ちの銀貨147枚を考えると、金貨4枚と銀貨22枚の資産がある計算となる。

当分は宿暮らしでも普通に暮らせそうだ。


問題なく暮らしていけるだけの余裕が出来たので、読み書きの勉強をするための教材はどこで手に入るのか、お金を受け取りながらギルド受付のお姉さんに聞いてみることにした。


「ちょっと聞いていい?」


「何でしょうか?」


「読み書きを覚えたい。どこに行けばいい?」


「それでしたら毎週1回、ギルドで講習を行っております。次回は明後日の夕方、あちらのスペースで行われます。傭兵ギルドのメンバーであれば教わるのは無料ですが、紙やペン、インクを必要とされる場合は有料での販売となるのでお気を付けください。」


へ~。

それなら文字を読めるくらいにはなれそうだね。

教材は買わなくてもいいのかな?

本が一番、お金がかかると思っていたんだけど……。

文字が読めるようにさえなればいいと思っているから、無料で覚えることが出来ればありがたいね。


「分かった。紙とペンとインクは全部でどのくらいになるの?」


「紙1枚が銀貨2枚、ペンとインクはそれぞれ銀貨1枚ずつとなっています。今ご購入されますか?」


「当日でいい。」


「ウィル君はお勉強するの~?真面目だね~。どうしても覚えたいのなら、私が毎晩教えちゃうよ~?……そうだねそうしよう!私が毎晩教えてあげれば、一緒の部屋で過ごすことになるじゃない!紙とペンをちょうだい!あとインクも!」


……ショタコンの変態がうるさい。

でも、2日待たなくても教えて貰えるのはいい様な気がする。

それに1対1で教わることになるだろうから、分からないところはすぐに質問できそうだし……。


でも、ミーシャさんと一緒の部屋って言うのがなぁ……。

今日から普通に1人で泊まるつもりだったんだけど、文字を教える代わりに一緒の部屋に泊まることを条件にされて、文字を教えながらあ~んなことやこ~んなことをしてきそう……。

昨晩は何もしてこなかったが、今晩も何もしないとは限らないのだ。


「ご飯を食べて帰った後は一緒にお勉強をするよ~!文字の読み書きから3桁の計算まで教えちゃうよ~!これを覚えれば仕事に苦労はしないからね~。これはもう決定事項だよ!」


……デメリットを感じない場合に強く抵抗できないの、どうにかした方がいいのかな?


若干の身の危険は感じるが、今晩も大人しくお世話になることにした。

今晩だけで文字を完璧にマスターしたいね。

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