【そのはち】 - 月夜の光
5歳になったある日のことだった。
仄暗い部屋の中で目が覚め、暗闇で目をこらすと父と母の姿がない。
恐々起き上がり、廊下を歩きながら「パパぁー、ママぁー。」と、二人の姿を探すが見当たらなかった。
少し怖くなって横で寝息を立てている3歳の弟を揺り動かす。
「ねぇ、ねぇ、起きて。ねぇ、ねぇ。」
だが、何度声をかけても肩を叩いても一向に目を覚ます気配がない。
心細くなった私が月明かりの差し込む窓辺に視線を向けた時だった。
何かが私の視線に映る。
それは心の奥深くを疼かせ愛おしさを覚える人の姿だった。
「おじいちゃん!!」
あの日以来会えずにいた最愛の祖父がそこに立っている。
「おじいちゃん!おじいちゃん!」
駆け寄ろうとしたが、いつもと何かが違う。
動くことができない。
光に包まれた祖父は足元が透けていた。
呆然としながら白い光を見ていると、祖父が懐かしく暖かい笑顔でこちらを見つめる。
幼い私は、何が起きているのか説明する言葉を持ち合わせていなかったが、祖父が何か大切なことを伝えたいのだということは直感的に感じていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
祖父の足元が不意に発光した。
すると、その輝きは徐々に上昇していく。
空中に溶け込む光は、あの日に祖父と見た海の煌めきのようだった。
「おじい…ちゃん…。」
光の粒子が祖父の肩まで昇ったところで、私は吸い込まれるように眠りに誘われ意識を失った。
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