【そのろく】 - 蝋燭の灯り

「ふーん。そうなんだ。」


母の話を聞いた私は、幼い頃に感じた違和感に納得がいったように感じた。


入院中の母に変わって、祖父が私を寝かしつけるために愛娘を受け渡した時の父が見せた硬い表情である。


父は、苦学生だった。


定職を持たない祖父の代わりに、重たい荷物を抱えて行商に出かける母親を助けたい一心で、自動車工場の溶接バイトをこなし学費を稼いで医療の道に進んだ。


工場の爆音で患った耳は、今でも父の周りにある音を奪っている。



そして母のためと、みかん箱を机に見立て蝋燭の灯で学んだ苦労の末、国家試験に合格した父に待っていたのは、実母の死だった。


行商先で荷物を背負った途端に倒れ、還らぬ人となったのだ。


脳卒中だった。


父は、最愛の母親を失ったのは実父である私の祖父が原因だとひどく恨んだという。



そして、父の実母である妻の葬儀の際に涙を流さなかった実父のことを



「あの人は冷たいんだよ。」



ポツリと私の母に打ち明けたのだ。

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