第39話 作戦とカガミ様

「……麻実さん、失礼します」

いつものように藍さんは部屋のドアを鳴らし私に呼び掛けて部屋に入ってくる。

「あ、……藍さん。あの……」

私は本のことを言おうとしてすぐに止めた。

これを藍さんに読ませてしまえば私の考えていることすべてがわかってしまうかもしれない。さっき読んだ通りこの本の作者は私の考えをそのまま本に書いている。だから私がカガミ様を殺そうとしているのも知られてしまうのではないかと心配してしまったのだ。

「……なんですか?」

藍さんが戸惑っている私に問いかけるも、私は顔を横にふり「何でもないです」と笑ってつぶやいた。

私の様子を見て藍さんは少し納得しなかったのか私を少し怪しむようなしぐさを見せったが問い詰めるようなことはせず、素直に身を引いてくれた。

「……あ、作戦……のことですけど……。みんなで逃げるときもし失敗したらどうするんですか?」

私は藍さんにもしものときのことを考え質問を投げかけた。

「失敗したら……何度でもやりますよ。だってここにいても大変な目にあってしまうだけじゃないですか。……だから成功するまで何度でも挑戦しましょう」

そう言って力強い笑みを見せる藍さんに私は思わず安心感でほほ笑んだ。

「何度でも……そうですね。あきらめないことが大切ですよね~やっぱり」

私はしみじみ思った。

私だってあきらめたから死にたいとか思っちゃったんだよね……。

あきらめないで頑張ろうとする藍さんがすごく頼もしい。

「……なんとか成功させましょうね。……私も……努力は……しますから」

この前できなかった分の努力も、ちゃんと。

「そう言ってくれると心強いですよ、麻実さん」

藍さんはにっこりと笑う。

……心強いのは藍さんの方だなんて……ちょっと恥ずかしくて言えないか。

「ていうかおばあちゃんとお父さんともう一人の使用人さん。藍さんの家だけじゃ収まらないんじゃないですか? 養えないと思うんですけど……」

「……家に帰れば私の車でみんなを家まで送ります。自分の家の方が安心できると思いますし」

「送ってくれるんですか?……助かります。それなら安心できますね」

「ただ地図を勝手にとるのはだめなことなのでいくら一緒に逃げるといっても地図は見せず道をしっかり覚えましょう。その日地図を見なくても助かるように。……言っちゃ悪いですがこの火神家の人たちはすぐに怒ってしまいますので」

藍さん、一応私も火神家の人間だってことを忘れてないだろうか。まぁその気持ちも分からなくはないのだけれど……。

「そう、ですね……」

私は微笑しながら藍さんの言葉にあいまいな返事を返す。

そこで藍さんは私の反応を見て火神家の人間だということをはっきりと思い出したのか、突然わたわたと焦りだして動揺した声でこういった。

「あ、ああそ、そそういう意味じゃないんです……! 別に麻実さんのことを言ったわけじゃなくて……あの~その……なんていうか……と、ととにかく! 麻実さんを悪いように言ったわけじゃないので……!」

そう言って藍さんは首を横にブンブンと振って全力で否定した。

「……はは。そんな……私は別にそんなこと言われようが気にしては……ないですから」

私は苦笑いを返すも気にしていたのはバレバレだったみたいで、藍さんは「ごめんなさい……」とつぶやくと、小さく縮こまるようにシュンとする。

そんな反応されると少し罪悪感を覚えてしまう。

藍さんはこんなに傷つきやすいタイプだとは思わなかった。

まぁ使用人と火神家の人間っていう立場だからなのかもしれないけど、藍さんは言ったことを深く後悔している顔をしていた。

なんだか私が藍さんを責めてしまったみたいな気分。

なんか申し訳ない……。

「……ほんとにすみません……。傷つきましたよね……ああ、私は無責任になんてことを……」

藍さん……今から人生終わる……みたいな顔してるけど大丈夫かなほんとに……。

「まぁまぁ……あんまり自分を責めない方がいいですよ。そんなに落ち込まれると私まで罪悪感に浸ってしまうというかなんというか……」

私は場の空気を考えるとこんなことを言うのに突如緊張感がこみ上げてきて私は苦笑いしながら藍さんの方を見つめてそう言った。


「……許して……くれますか。」

藍さんは悲しげな表情で私を見つめてそう言った。

そんな顔で見られると直視できなくなってしまうんだけど……。

「ゆ、許しますよもちろん。なので……いつも通りに接していただけると嬉しいです……」

私がそういうと藍さんは顔をパッと明るくする。

「あ……ありがとうございます……!」

藍さんはまるで神様にでも拝んでいるかのように両手を合わせて何度も頭を下げだした。

「……い、いつも通りに……してくださいよ藍さん~……」

私はさすがに困った声を上げる。

そして藍さんは私が困っていることに気づいたのかハッと我に返るようなそぶりを見せて改めていつも通りに私の前に立ってスッと顔を上げる。


……やっと戻ってくれたみたいだ。


藍さんの意外な一面が見れた気がする。

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