私にチャンスを

第35話 巻き戻した先

私は、ゆっくりと目を覚ます。


……光のない、静かな部屋。

どこかで見覚えのあるこの感覚……。


多分私は、お屋敷に戻ってきてしまったのかもしれない。


「麻実ちゃん朝だからはよおきなさいな~」

ドアを開ける音とともにおばあちゃんの声が聞こえる。

「……おばあちゃん?」

「……おや、起きてたかい。もう朝ご飯できてるよ」

おばあちゃんはそれだけを言い残すと、部屋のドアを閉めて去っていく。


間違いない……ここはお屋敷の中なんだ……。

そう確信し、そう思うだけで、なんだか寒気がした。お屋敷だと身内が殺される可能性が高くなってしまうのだから。

……でも、時間を戻したのにどうしてお屋敷に来てしまったの? あっちの世界では私はお屋敷にはいっていないはずだったのに。……紗矢の記憶がないだけで、このお屋敷に来たのはずいぶん前のことだったのかもしれない。だけど、お母さんが生きているのはおかしい……。

私じゃ……、なにも分からない……。


「……おはよう」

私はみんながいることを確認するために周りをきょろきょろと見渡す。

そこで私はあることに気づいた。

……お母さんがいない。

「ねぇ……お母さんは?」

私は隣にいたおばあちゃんに話しかける。

私の質問に答えようとしたおばあちゃんは、少しの間固まり予想通りのことを言ってしまった。

「お母さんは……この前、死んでしまっただろう……? 忘れたのかい?」

おばあちゃんが悲しげな表情でこちらを見つめる。

「……そ、そう……だったね。ごめんね……変なこと聞いて」

動揺が隠し切れなかった。


……お母さんが死んでるってことは、私がいつもの家に戻るその前?

それならお母さんが死んでてもおかしくはないけど、どこなのかによってみんなの知らないことを言っちゃうかもしれないから……。




そして私は朝食を終え、うろ覚えで自分の部屋を見つけベットにころがる。

こうしてみると、本当にこのお屋敷は広い。この小さめの部屋でも私の部屋より大きいくらい。


「……麻実さん、いますか?」

コンコン、とドアをたたく音が聞こえて、藍さんが廊下から部屋に入ってくる。

「あ、藍……さん。久しぶり……じゃなくて……! お、おはようございます」

私は「久しぶりです」と言おうとしてしまってとっさに言い直した。ずっとあっていなかったからすごく久しぶりに感じてしまう。

「……久しぶり……?……ふふ、何言ってるんですか麻実さん」

藍さんは笑いを含んだ声でそう言った。

「……あはは……。ちょっと言い間違えただけです……」

「そうですか。……で、あの作戦のことなんですが……」

「作戦?」

「……はい。あの……みんなで逃げよう、っていう……。おぼえてません?」

「……あ、あぁ。いえ、憶えてますよ、もちろん」

私はあからさまな嘘をつく。

もう1,2週間前のことだからすっかり忘れてた。

「……おぼえてなさそうですね。ほんの数日前ですよ」

藍さんは苦笑していた。

まぁ数日前のことをもう忘れたとか言ったらさすがの藍さんでも苦笑しちゃうよね。……その気持ちは少しわかる。

「いやぁ……私は数日間が一週間くらいに感じるんですよ~……なんて。あはは……」

私はふとそんな冗談を言ってみるも、藍さんは私に「そんなわけないじゃないですか」と少しの間笑っていた。

私の渾身のボケがウケていて何より

「……あ~。で、作戦、っていうのは……?」

「数日前、みんなで逃げ出そうっていう作戦を考えたんです。そしてこの深い森を抜けるためには地図が必要で……この屋敷の中にある地図を見つけ出そうっていう話……です。」

「……はいはい……大体わかりました。それでその地図は手に入るんですか?」

「はい……実はもう見つけてるんですよ。……とってくることはできなかったのですが……そこはすみません」

藍さんはそういうと小さく頭を下げ申し訳なさそうな表情をした。

「いえいえ、見つけてくれただけでもありがたいです……」

私は手を合わせて拝むように頭を下げる。

私にとっては藍さんは何でも知っていて神様そのもの……なのかもしれない。……藍さんだったら拝んでもいい。もうおがんでるけどね。

「そ、そんな拝んでるみたいな体制やめてください……。私はそんなことされるような身分じゃ……」

藍さんはそういうとあわあわと動揺しながらしながら心配そうに私を見つめていた。

「……藍さんは拝めますよ。まぁでも、そんなこと気にしないでください……。私、そういうの気にしたくないので」

「そう……ですか?」

納得していないような表情を見せる藍さんは「う~ん?」といいながら考えを改めているようだった。

「……あ、そうだ。その地図二人で取りに行きませんか? 二人ならできると思うんですけど……」

私は場の雰囲気を変えるために思いついたことをとっさに口にする。

「いいですね。じゃあそうしましょうか。明日くらいに……」

「……そうですね~。どこにあるかはちゃんと教えてくださいね」

「わかってますよ。ちゃんと確認もしておきます。……あ、じゃあ麻実さんにはばれてしまった時のいいわけでも考えてもらいましょうか」

「……えぇ~。……まぁ、わかりました」

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