第26話 絶望なんて

「じゃあね、また明日」

私は玄関のドアノブに手をかけながら手を振る。

「うん。じゃね~」

紗矢が手を振る。

私は紗矢に手を振り返すと玄関のドアを開け、家に向かっていく。


楽しかったなぁ……。

ずっと遊んでいたいくらいだけど学校あるし親が心配するし、しょうがないんだよね……。

……正直言うと学校なんて行きたくないんだけど。……あぁ、思い出したくもない……。

早く家に帰ろ。……不安になるだけだし。


「……ただいま~」

「麻実、お帰り。……紗矢ちゃんの家?」

台所で夕食の準備をしていたお母さんが顔を出して私に聞いた。

一応お母さんは紗矢のことは知っていて、紗矢のお母さんとも仲がいい。

「そう。ちょっと遅くなっちゃった」

「……今度からはもう少し早く帰るようにするのよ」

「はぁーい……」

私は弱弱しい返事をするととぼとぼと自分の部屋に戻る。


これより早くって言ったらもう小学生の門限だよ。

……お母さんやけに心配性だからなぁ……。

私は倒れこむようにベットへ腰かけた。

紗矢に言われるがままマカロン口にしたからあんまりおなかすいてないんだけどまぁ……がんばったら食べられるでしょ。

そんなことを思いながら私は天井を見上げた。


そして次の日を迎ええた。

……学校か……。

私はボヤっとする視界を手でこする。

そしておぼつかない足取りで階段を下りてリビングに向かった。

「……おはよう」

「おはよう麻実。もうご飯できてるわよ。テーブルに座って」

「……うん。わかった」

私は寝起きで弱い声を上げるとテーブルの椅子に腰かける。


「……行ってきまーす」

そして朝食を終え、私は靴を履いて家を出た。

……時間は……まだ大丈夫だ。たまに遅れることがあるからみんなが学校に行ってる時間をちゃんと確認してからじゃないとな~……。初めて学校に行く日なんて何時に行けばいいのかわからないしなぁ。

しかも学校近いから自転車でいけないんだよね。


そして校門までやってくると、いつものように紗矢がドンっとすごい勢いで肩を後ろからたたいてくる。

「おはよう紗矢……」

「おっはよ~、麻実ー。昨日は楽しかったね~」

……なんか今日は妙に顔の距離が近い。

「……うん、そうだね……」

いつもこんなに近い距離じゃないのに…まぁ今日だけだろうけど。

「……なんか元気ないね。なんかあったの?」

「まぁ……昨日話した通りだよ。」

私は一言で転校生のことを伝えた。それだけで紗矢は私が何を言いたいのかを察したらしく、「あぁ……」と納得したようにうなずいていた。

……言葉に出さないのは紗矢なりの気遣いだろう。

「……まぁ……教室いこっか。」

紗矢は私の手を引いて学校の教室へ連れて行った。


「……おはようございます~先生」

紗矢が私の手をつかんだままデスクで仕事をしている先生に声をかけた。……なんか機嫌良いな……紗矢。

「……おぉ、おはよう二人とも」

こうして明るくふるまってくれるのも私への気遣いなのかな……自意識過剰?

……まぁいいや。紗矢ってよくわからないから……。


「……あなた。……話したいことがあるんですの。少し来てくださらないかしら」

突然転校生が目の前に現れ不満そうな表情でそう言った。

「……っ。カガミさ……じゃなくて……」

私はついカガミ様と言いそうになったけど、言い切る前に言うのをやめてそこで転校生の名前をまだ知らないことに気づいた。

「……あ、転校生の……」

紗矢もあんまり名前は覚えてないみたいだ。

「……2人そろって名前を憶えてないんですのね。」

そもそも私は聞いてすらない……。

……何が気に食わなくてこんなこと言ってるのかはわからないけどとりあえず不機嫌だということはすぐにわかった。

「……紗矢。ちょっといい?」

「……え、あ。うん」

紗矢が戸惑いながら返事をしながら私の手を離した。

そして私はさっきの紗矢のように転校生の手を強引に引っ張って教室の隅に連れていく。

「……今度は何なんですか?」

私は不満そうな顔をしながら少し声のトーンを落としてそう聞いた。

「なんだか楽しそうにしてるのが気に入らないんですわ。だから次殺そうと思ってるのがあの隣にいた友達だ、なんて言ったらどんな絶望する顔を見せてくれるのか気になったんですのよ」

……次殺されるのが紗矢……?

……それだけは……許せない。

「……なんでですか。幸せにしてるのがそんなに不満ですか? みんなの絶望を見るのがそんなに……そんなに楽しいですか……⁉」

私は思わず大きい声を出してしまった。

……やっぱりカガミ様は嫌い。……もう私が私じゃなくなってしまうくらい、私の心の中は怒りだけがたまっていた。

「……あまり大きな声を出さないでくださいまし。周りのクラスメートの目を引いてしまいますわ」

「……そんなのどうでもいい。いますぐこの学校にかかわるのはやめて」

私はもう敬語でしゃべることも忘れ、怒りに任せた言葉を次々にぶつけていく。

「……ふふ。面白いですわね……。どんどん絶望して怒り狂ってくださいまし。……まぁ、それは学校ではやめてほしいですけどね。」



ただ私はかかわりを持ってほしくなかっただけなのに。

なんでこんなことにみんなが巻き込まれなきゃいけないの?

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