第20話 学校

「行ってきまぁ~す」

私は靴を履いて台所にいるお母さんに呼び掛けた。

そしてお母さんは私に気づき、にっこりとほほ笑む。


あの悪夢を見てから一日がたった。

今日は学校。

私は靴を履いてノリノリの気分で学校へ向かう。夢のせいで友達のことも考えてなかったから学校へ行くのはすごく楽しみになってくる。


校門を抜けた。

「……やっほ~麻実~!」

後ろから突然肩をたたかれ驚き振り返ると、そこには友達の紗矢の姿があった。

ショートヘアの良く似合うかっこいい女の子。私はいつも紗矢にお世話になられっぱなしでお返ししなきゃなぁ、なんて考えるけどいっつもかしができてしまう。

……ほんとに紗矢はいい人すぎる。……たとえるなら、藍さん……かな。……あぁ、わかった。私が紗矢のことを好きだから夢の中で藍さんが出てきたんだ。

……そういうことか。全部紗矢がいたからなんだなぁ……。


「……どした?」

紗矢が私の顔を覗き込む。

突然目の前に現れた紗矢の顔に私は驚いて慌てて返事をする。

「ううん、何でもない……、考えごと!」

慌てたせいなのか声が裏返ってしまったけど紗矢はたいして気にしてないみたいだ。……その方が助かる……。

今夢の話したって絶対信じないだろうし。

「あー、でさでさ。今日あたしの家来ない? ちょっと見せたいもんがあるんだぁ~」

「……ん? なになに?」

「えぇ……それは来てからのお楽しみよ」

紗矢はいたずらっぽい笑みを浮かべ舌をペロッと出した。

……こういうところが男子の人気を集めるんだろう。紗矢は普通に男子からもモテるし女子からもモテる。……すごいよねこの人。なぜ私がそんなすごい人と対等な空間にいるのかが不思議なくらい。まさに奇跡といえるんじゃないか……。

「……よし、……早く行くよ~麻実ぃ~!」

「う、うわっ⁉」

紗矢が突然私の腕をつかんで走り出した。

そして私の体は引っ張られて頭がぐわんぐわんと揺れる。

紗矢の走るスピードで引っ張られたら私吹き飛んじゃう…。



私はぜぇぜぇと息をきらしながら席に着く。

まったく……まだホームルームは始まらないってのになんであんな急いでるんだろう。


そして私は周りの生徒たちの会話に「転校生」というワードが入っているのを聞き、その会話に興味本位で耳を傾けた。

「……なに言ってんだろうね。みんな。転校生がくるって」

「……わっ、紗矢……」

私は隣に突然現れた紗矢に驚いて椅子をがたっとならした。

盗み聞きしてたのを言われたのかと思った。……まぁ最悪の場合紗矢ならいいんだけど。

「今日転校生が来るんだ……。へぇ~。珍しいねこんなキリの悪い時期に。まだ冬も迎えてないのに……」

私はごまかすように苦笑いを浮かべてそう言った。

「……そうだよねー。ま、あたしたちには関係ないけど」

そういって紗矢は興味がなさそうに、話しているクラスメートから目をそらした。

今まで何度か転校生は来たけど、いつも紗矢はこんな反応なんだよなぁ。

ほとんどに興味示さない。唯一興味を示すとしたら、クラスメートの恋愛事情とか。一回うわさを聞いたらすぐ私に言いに来るから……。もう慣れっこ。


クラスのみんなはどうせ美少女や美少年を期待しているかもしれないけど……私も結構どうでもいい……かな。だってどうせ話せる自信がないし……。仲良くなれないよ。

話すの苦手だしなぁ。

「……みんな美男美女を求めるのよねぇ。まぁカップル疑惑の二人がまた誕生するかもしんないし……。そこは見逃しておいてやるか」

「相変わらずその思考は変わらないんだね。……噂好き」

「え~だって楽しいじゃん。……ねぇねぇ、今度は誰と誰が付き合うと思う?」

「……あ……、うん。ごめん。その話ついていけなくなるから…」

紗矢がこの話をしだすと止まらなくなるのは知ってる。

……たぶんいつまでも。


キーンコーンカーンコーン

教室内にチャイムの音が響いた。

「……あ、チャイム。早く席座って紗矢」

「はぁーい……」

紗矢はさっきのことを話せなかったのが気に食わなかったのか不満げな顔で自分の席へと戻っていった。


「全員席に座れよー」

先生がそういうとみんなはガタガタと物音を立てながら席に座りだした。

あの先生は怖そうな見た目をしてるけどすごく優しい先生だ。

まぁでもあの見た目をしてて優しいってなってもみんなギャップ萌えはないみたい。最近の女子高校生は顔だからなぁ。顔がよければ何でもいいって感じだ。

「……今日、転校生が来るのは知ってる人が多いとは思うが……」

みんなは興味津々にうなずく。

やっぱりクラスの大半はみんな知ってたんだ。

「……入ってきていいぞ」

先生がドアの向こう側にいるであろう転校生に声をかけた。

そしてドアがゆっくりと開いて「失礼します」となんだかぎこちない声を上げながら入ってきたのは……


見覚えのある声とその容姿。

私は体が震えるようだった。私は両手で肩を抑えて震えないようにがっしりとつかむ。そして転校生を見つめた……。


……あれは……、カガミ様……だ。


体が震える。

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