第15話 強がり
こんどは、起きたらお母さんが生きてる……なんてことにはならなかった。
お母さんが死んでしまってから一日をむかえ、まだみんなの心は晴れず、暗い顔のままだった。私も実際暗いことしか考えてない。
まぁ……あたりまえだろう。身内が死んだのにすぎに立ち直ることができる人なんてそうそういるはずもないのだ。
だから私は、暗くなってしまった場の空気を明るくするためにいろいろやってみて入るもののなかなかうまくいかず失敗続き。
まぁ、大体予想はついていたけど、ここまでだとは思わなかった。みんな、感情を示さないのはおろか、反応すらしないのだ。無言で朝食を食べてそのままみんなは自分の部屋に戻っていく。
それだけお母さんの死は重かったいうことだろう。
私は部屋でベットに座り、考えた。どうしたらみんな反応を見せてくれるだろう。このおままではみんな人形同然になってしまう。
すると突然、「コンコン」とノックの音がひびいた。おそらく藍さんだろう。そしてドアがそっと開き、珍しく手ぶらの藍さんが少し微笑んだような顔を見せ部屋の中に入ってきた。
「……藍さん。最近みんなあきらかに反応ないですよね……」
「そうですね……。まぁ仕方がありません。身内が死んでしまったら私もこうなると思います。家族の死というものは何よりも重く、つらいものですから。あぁなることは普通のことですよ」
そういって藍さんは悲しげな表情を見せると、私の隣に腰かけた。
私の気持ちに寄り添って答えてくれる藍さんの気持ちがすごくうれしく、何より心地よかった。
「まぁ、そうですよね……。正直に言えば私もこんな笑顔じゃいられません。ただ、強がってるだけなんですよ。……本当は顔が涙でぐしゃぐしゃになるくらい泣きたいほどつらいのに……。強がりなんですね、私」
私はうつむき気味に弱弱しい笑顔を見せそうつぶやいた。
……私だって、お母さんが死んで平気なわけじゃない、強くないから。だから、強くなりたいの。早く立ち直ることができるように。
それがおさまるまではカガミ様に対しての恨みはすぐには消えてくれないだろう。
「……そんなことはありませんよ。麻実さん。ここで笑顔でいれてそこまでみんなを元気づけようとするその心はとても強いです。……だから、家族を……守ってあげてくださいね」
藍さんが悲しげな顔で、少し微笑んだ。
藍さんがほほ笑むのは、本当に笑った時だけ。愛想笑いなんてしない。…とてもやさしそうなその笑顔は、すぐに私の心を楽にしてくれた。
……私なんかよりも絶対藍さんの方が魔法的な何かがある気がするんだけど……。カガミ様ちょっと間違ってるよ。一番心強くて優しいのは正真正銘藍さんだから。
それに勝る者なんて……絶対にいない。
「……藍さん、すごいですね。私、これから藍さんに支えられなくちゃ生きていけないかもしれません……」
「え……? いや、私は……そんな……。なにも支えてなんていませんよ……! 麻実さんの支えになるにはふさわしくありません…!」
藍さんはあわてたようにほほを赤くしていた。
やっぱり藍さんはこういうところがすこしかわいいと思ってしまう……。
……藍さん、いいところしかない……。
「……藍さん、お願いがあるんですけどー……」
「はい……。なんですか?」
なんだか藍さんのいろんな一面が見たくなり、私はこういった。
「猫の鳴きまねしてみてください」
「……え、え?」
藍さんはわけがわかっていないようだ。
……ただ藍さんのこういう姿が見たかったから…なんて誰にも言えない。藍さんってかっこいいイメージだけどかわいい一面はすごくレアだから……。
「これで私がんばるので……! お願いします!」
何とかごまかして理由を付けたが、本当にやってくれるだろうか。
でも最終的に命令だって言えばいける……!
……何に必死になってんだ私。……まぁいいや。
すると藍さんは頬を赤らめながら招き猫のようなポーズをとり、こうつぶやいた。
「……にゃ、にゃ~……」
藍さんの顔はすでに真っ赤だ。
……やっぱかわいいこの人。何でも持ち合わせてるんだなぁ……まさに完璧。
藍さんのおかげでさっきの重たい雰囲気とは一気に変わり、途端に私がふざけだしておかしなテンションにしてしまった。
これは私の責任だ。
「……元気出ました。ありがとうございます藍さん……」
美人はすごいな…。その中でも藍さんはやっぱりすごい人だ。
「な、なんなんですかこれぇ……。恥ずかしすぎますよ、どうしてくれるんですか……!」
「……ごめんなさい。……やっぱり藍さんはすごいですね」
「……え、あれのどこがですか……!?」
「私にとってはあんなことできるのすごすぎて見惚れますよ…。」
なんて笑顔で男みたいなことを言う私に藍さんは苦笑いを返すばかりだった。
……さすがにひかれた。
でもまあ……。元気出たし、このままみんなも元気づけられるような気がしたからオッケー!
気づけばお母さんのことなんて考えることもなかった。
これもきっと藍さんのおかげに違いない……。
さすがに私気持ち悪いかな?
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