第8話 最後のページ

「……カガミ様? 私たちと同じ名前……」

私は驚きの表情を見せながらつぶやいた。

「私が言いたかったのはこのことです」

「これ……ですか。内容を見れば納得ですね」

「そうですよね。もうカガミ様の存在を知ったら話しても問題はないので詳しいことを話します」

そういうと藍さんは私の手から本を取ってある文章を指さした。

「ここの『カガミ様を他人に話してしまったものが惨殺されるか原因不明の病気で倒れるという事件が次々と起こり、火神家は混乱に陥っていた』っていうところありますよね。麻実さんは知ってますか? 火神真由美さんの話は……」

そういえば初日におばあちゃんに聞いた気がする。

「はい、その話は知っています。原因不明の病気で亡くなったんですよね……?」

「……はい。そして真由美さんは言葉を残しましたよね。『カガミ様のせい』だって。私はこのことを真由美さんが誰かにカガミ様のことを話してしまったんじゃないかとにらんでいます。……ただの予想なのですが……」

私もこの本を読んだらそうじゃないかとは思ったけど……、藍さんと思ってることは同じだったか……。

「私もそうだと思います。……あ、カガミ様ってもしかしたら今日おばあちゃんと散歩したときに言ってた神様のことかもしれないです」

私はふと思い出していった。

「なんていってましたか?」

「願いをかなえてくれる神様だって……。……あ、おばあちゃんはあったことがあるって言ってました。」

「本にも書いてましたね。年寄りの方は願いをかなえてくれる神様だと考えている人もいるって。……でも会ったことがあるっていうのは……?」

藍さんは本のページを隅々と見ながら言った。

「信じていたら現れて願いをかなえてくれる、そういってました」

「信じていたら、ですか」

「ほんとかどうかはわかりませんけどね」

私が笑ってそういうと藍さんはどこかのページに目をやり、その文章を読んで大きく目を見開いた。

「ま、麻実さん、もしかしてこれのことかもしれないです……」

そういって藍さんが指さしたのは、ページの隅に書いてあった文章。

「『カガミ様は自身を信じる者にだけ姿を現す。』……っておばあちゃんが言ってたことと同じですね……」

「そう……ですね。もしかしたらほんとに現れるかもしれないです」

「……じょ、冗談はよしてくださいよ~。人を殺しちゃう神様なんて……いるかもしれないけどひどすぎますもん……」

私はうつむきながら言った。そしてふと、窓を見る。

図書室に来てから大した時間はたっていないような気がしていたが、あたりは茜色に包まれていた。

「もう夕方……。ずっと話し込んでたんですね、私たち」

「ほんとですね。ある程度のことはわかりましたし、とりあえず戻りましょうか」

「そうですね。藍さんもご飯の準備があるでしょうから」

こうして私たちは図書室を出て、藍さんは調理場に、私は自分の部屋へと別れた。



ほんとにおばあちゃんがあったのはカガミ様なのかな。

その時私は不意に、おばあちゃんの言うとおりにカガミ様を信じようとおもった。

たぶんその時私はそれが一番カガミ様について知れることだと思ったのだと思う。


隣では、古くなったランプがちかちかと点滅していた。

真由美さんがいた時に作られたものだから相当な時間変えてなかったのだろう。

ランプは今にも消えそうだ。

おばあちゃんに知らせないと。


「……そういえば」

あの本持ってくればよかった。

……今からとってこよかな。

私はそう思い部屋を出て図書室に向かう。


「あった」

私は一人でそうつぶやくと本の間から真っ黒な表紙の本を見つけるとそれをひきだし、自分の部屋へもっていく。

本は相変わらず不気味な雰囲気を身にまとっていてなんだか近寄りがたいものだ。

私は改めてページをぺらぺらとめくった。

そしてふと違和感を覚える。

……文章の書かれたページが、二ページに増えているのだ。最後のページには、こう書いてある。

『あなたは、これ読んでくれたのですね。おわびにカガミ様に会えるとっておきの情報をお教えしましょう。……それは、「信じること」です。あなたもきいたでしょう。でも信じてはいないはず。この方法でやればきっとカガミ様は現れます。心の中でこう唱えてください。「カガミ様、どうか姿を現してください。」いたって単純なことです。そうすれば、カガミ様はきっと降りてきてくれるはずです。ただ一つ注意が。けっしてカガミ様の気を紛らわすような余計なことは言わないこと。言えば……火神家の人間ならどうなるかはおわかりでしょう。……では、素敵な推理ゲームをお楽しみください。これが現実かどうかを信じるかはあなた次第ですよ』

端の方に名前らしきものが書かれていたが、小さすぎてよめなかった。


何これ……あるで私たちの状況を知っているみたいな気味の悪い文章…。

しかもゲームって何よ。推理ゲーム? まだ何も推理するような事件なんて起きてない……。

最後の文章、現実かどうかを信じるかはあなた次第。いっけん普通の推理小説に出て来そうな文章だけど、何か引っかかる。

「現実かどうか」って言われても……あ、もしかしてこの前見た夢って本当にあったことなの? でもそれだとこれも夢ってことにはならない……か。


でもこの本の作者の言う通り、この方法を実践しよう。

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