第2話 火神家
「……い、いったん昼食といたしましょうか」
お母さんが場の空気を換えるため、少し慌てたような声で言った。
「もう使用人たちも準備はできてるから部屋へ行こうかね」
……使用人とかもいるんだ。やっぱりお金持ちはすごい……。
私が感心しているとお母さんは「早くいくわよ」と私の腕を引いておばあちゃんのもとへ小走りでかけよった。
「適当に座っててちょうだいね。今使用人たちが持ってくるから」
私の家とは比べ物にならないくらい大きな食卓。
椅子は合わせて10席くらいあった。それくらいお客さんが来ることが多いのだろう。テーブルの上には赤いカーペットのようなものが敷かれ、真ん中には上品に赤いバラバラの花やユリの花などが花瓶に添えられていた。正直言うと、あまりセンスがいいとは言えない。だって赤いバラの花言葉は「あなたを愛しています」ユリは「純粋」。二つともあんまりこの場に似合わないものだ。でもまぁ高級感を出すのにはちょうどいいのだろう。
すると大きな扉の向こうから「コンコン」というノックの音が聞こえ、2人の使用人らしき、大柄で渋い男性と小柄でメイド服を身にまとった女の人が豪華な料理をもって入ってくる。
「お料理をお持ちしました」
男性は見た目どおりの渋い声でそういうと、大きなお盆のうえにのった料理をテーブルの上に丁寧においてくれた。
そして女性も同じようにテーブルに料理を置く。
あんないっぱいの料理を女の人一人と男の人で運ぶのは大変だろう。
おばあちゃんを悪く言うつもりはないけど、さすがに少しかわいそうだなと思った。だからと言って気を使ってあげられるほどのもんじゃない。
そしてテーブルに置かれたのは、よくパーティとかで見るタイがまるまんま乗せられてるやつ。アクアパッツァ? だっけ。あんまり料理に詳しくないからよくわからないけど。
そして食事を済ませた後、自分の家でいうリビングのような広いところで、お母さんは紅茶をたしなんでいた。私たちは三人でテーブルを囲み話をする。
「ねぇお母さん。さっきのカガミ様のことなんだけど……」
「……その話はよしなさい。あんなの噓に決まってるわ」
「あれさ。私たちの苗字と同じだよね?」
「……よしなさいって言ってるでしょう?」
「……ご、ごめんなさい」
私はお母さんの鋭い目つきに思わず身を引いた。
…いますごく、怖い顔してた。そんなにあの話が嫌なのかな……。
「だいたい火神家はね、有所正しき高貴な家系なのよ? そんな家系の人以外カガミ様にかかわることなんて不可能……!」
「言うんじゃない!」
お父さんの鋭い声が、お母さんを止めた。
……カガミ様にかかわることなんて不可能……?
どういうこと? おかあさんはカガミ様を知ってるの…?
「お、お母さん。それってどういう……」
「麻実、今は黙ってろ」
「……はい」
すると、ドアをノックする音が聞こえ、ゆっくりとドアが開く。
「そろそろそれぞれの部屋に戻りなさいな。ここは掃除するみたいだから」
おばあちゃんはそれだけを言うとドアを閉めて帰っていった。
「……もう、部屋に戻りましょう」
「ああ」
「う、うん……」
私とお父さんが返事をすると、お母さんは逃げるようにしてこの場を去った。
そして私も部屋に戻った。
やっぱり狭いのは落ち着く。
私はベットに座ってぼーっとドアを眺めた。
お母さん、やっぱりカガミ様のこと知ってるんだ。「様」がついてるくらいだから神様?……まぁ、さすがに違うか。神様なんているわけないし。
お母さんはカガミ様にあったことあるのかな? でもあんなに怒ってたからカガミ様ってえらい人なんだろう。だからその偉い人の名前を出すなって怒ってたのかもしれない。……それならわかるけど。それ以外だったら何も思いつかない。
「お邪魔します麻実様。……紅茶をお持ちいたしました」
ドアが開く音とともに、ティーカップを片手に持った女性の使用人さんが頭を下げて入ってくる。
「……ありがとうございます」
私は素直にお礼を言うと紅茶を受け取った。
そして使用人さんは部屋を出ようとしたとき
「ちょっと待ってください……!」と私は使用人さんを引き留めた。
「なんでしょうか?」
使用人さんは不思議そうにこちらを見る。
「あ、あの、このお屋敷のことでちょっと話を聞きたくて……」
「……はい。なんなりとお申し付けくださいませ」
使用人さんは私のそばに立った。
「あ、その前に、名前を聞いてもいいですか?」
使用人さんはその言葉にびっくりしたのか驚きの表情を見せていた。
「……私なんかが名乗ってもよろしいのですか?」
「え、あ、はい。いいですよ……?」
名前を名乗ることすら許されてないってことかな……。
「……私、このお屋敷の使用人、『藍』と申します。何でもご命令ください」
「あ、頭を上げてください。私は藍さんよりも年下なのですから……」
「……いえ、火神家のご家族にも礼儀正しくするのが使用人の使命でございますので。そんなことは致しません」
「……そう、なんですか。……じゃあ、いくつか質問していいですか?」
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