神が笑って悪夢は始まる

天霧 音優

不気味な森の中で

第1話 不気味な森

「……ここがお屋敷……」

目の前に現れたのは大きなお屋敷で、こんな不気味な森には見合わなくらいきれいだった。

そして吹き抜ける風が、私の顔を撫でるように、そっと流れる。

「麻実、そろそろ中へ入りなさい」

「う、うん。わかったよ。お母さん……」

私はお母さんに言われて慌てて小走りでむかっていった。



2日前

「麻実、あさってはおばあちゃんのお屋敷に戻るからきちんと準備しておくのよ」

「……そう、なんだ」

「麻実は確か行ったことなかったわよね? ……あ、でも小さいころに行ったかしら……?」

「……ううん。行ってないよ」

「…そう」

お母さんは疑うような目でこちらを見ていた。

そんなにも私の言葉が信じられないっていうの?


私は昔からお母さんのことがあまり好きじゃなくて、こういう反応をされるといつもこうして被害妄想にとりつかれていた。

……疑心暗鬼、ともいえるのだろうか。


「……お母さん、おばあちゃんのお屋敷ってどんなの……?」

私は恐る恐るきいた。

するとお母さんは難しい顔をしてうーんと考え込んでから答えた。

「どんなところかって言われたら……森の中にあるきれいなお屋敷よ。その森全部私たち火神家かがみけのものなんだから、すごいでしょう?」

「へぇ~」

私は興味津々にうなずいた。

これは私の思っていたよりもずいぶんと大きくてきれいなお屋敷なのかもしれない。


そんな思いを抱いてやってきた当日。

私は浮かれた気分で車に乗り家族でのおしゃべりを楽しんでいた。

……きれいなお屋敷かぁ。楽しみ……。

一人でこんなことを思っていると車はどんどん進んで不気味で薄暗い森の中へと入っていく。

「……こんな暗いところに入るの……?」

私は、不安になりそういうとお父さんは笑うようなこえでえこういった。

「ああ。お屋敷はここから結構奥にあるからな」

「へぇ……」

やっぱり、私の想像してた通り怖いところなのかもしれない……。

そう思うと突然恐怖に見舞われる。

「ね、ねぇやっぱりこんな暗いところ行きたくないよ……」

私は勇気をもって言ってみた。

……が、やっぱり途中から帰りたいなんて言ってもだれも聞いてくれるはずはなく私が言っていないも同然に無視された。

全員が黙り込む。

シンとした空気がみんなを気まずくした。


「さ、着いたわよ」

「……う、うん」



お屋敷についた。

すると真っ先におばあちゃんが出迎えてくれてこう声をかけてくれた。

「まぁまぁ久しぶり」

「お母さん、久しぶり」

お父さんはおばあちゃんに微笑みを向けながら言った。

私には見せない、心からの幸せそうな笑顔。

「え~と、麻実ちゃん? あなたも久しぶりねぇ~」

「うん。久しぶり、おばあちゃん」

おばあちゃんとは5年くらい前にあったけどそれ以来ずっとあってなかった。

この屋敷ではあったことないけど。

「さ、中にはいりなさいな。すぐそこに一人ずつの部屋があるから適当に使ってちょうだい」

おばあちゃんにそう言われ私たちは靴を脱いでお屋敷に上がった。

入っただけでわかる広い感じ。

入ると目の前には二階への階段があり、赤色のカーペットで高級感がある階段。そして左右には廊下が長く続いていて二人で住んでいるということを疑うくらいたくさんの部屋が並んでいた。

この不気味な森に囲まれていなければ、私は目を輝かせてあこがれの目を向けていただろう。

「お母さんお父さん、先に選んでいいよ」

「……ありがとう。じゃあひとつずつ見て回りましょう」

お母さんは穏やかにほほ笑んだ。

「ああ、そうだな」

お父さんが返事をすると二人は並んですたすたと歩いて行く。


「どこも広いわねぇ~。私はここでいいわよ。二人ともはやく決めてちょうだいね」

「俺もその隣でいいよ。麻実は?」

「私は……どこでもいいよ」

「じゃあまだちょっと見て回ることにしましょう」

そう言ってお母さんは廊下を進み一つ一つ部屋を見ていった。

「……あら? ここだけなんだか狭いわね?」

その部屋は他の部屋よりも半分くらい小さく、大きなベットがおいてあるがそれだけでもかなり狭く感じた。

「……私、ここがいいな」

私にとってはすごく好都合だった。

ほかの部屋みたいにキラキラしてるよりもここみたいに狭くて落ち着いた空間の方が、私は好きだから。

多分、ほとんどのみんなは同じなんじゃないかと思う。

「ここ? こんな狭いところでもいいの? 」

「……うん。こっちの方が落ち着くかなって」

「そう」

「あとから嫌になったとかはだめだからな」

「……わかってるよ。それがわかってて言ってるの」

私は少し強めに言った。

なにか不満なのかな。


「お母さん、部屋決め終わったぞ~」

「おや、ずいぶん早いねぇ」

「……そうだ、なんかやけにせまい部屋があったんだけどあれは何なのかしら?」

お母さんはどうしても気になるのか余計なことを聞いた。

これでダメとか言われたらどうするの……。

最初何かわかっていないような様子だったが、おばあちゃんは何かを思い出したように「あぁ」とうなずいた。

「あそこは昔ちょうど麻実ちゃんくらいの女の子がいてねぇ。すごくおとなしくてかわいらしい子だったのよ~。でもあの広い部屋よりも狭い部屋の方がいいっていうから工事して狭い部屋にしてもらったの。この頃は全然使われてないんだけどね~」

「……その女の子は?」

お母さんは興味を示したように聞いてみた。

「真由美ちゃんっていって……。4年前くらいに……死んでしまったのよ」

おばあちゃんは残念そうに言った。

突然の告白に私たちは固まる。

……4年前ってことは私が一番最近おばあちゃんにあったときはまだ生きてたってことになる。

「……死んでしまった?」

「そうなのよ……。病気でね。でもその病気はお医者さんでも全く分からなくて……。でね、いろんな良い病院を回ったんだけど全然わからなくて。死ぬ直前、真由美ちゃんは不思議なことを言ったのよ。『これは病気なんかじゃない。……カガミ様の仕業だ』って……。どういうことなのかしらねぇ?」

火神……って私たちの苗字だよね。

……原因不明の病気じゃないの?

私は気になって口を開いた。

「おばあちゃん、カガミ様って……?」

「たぶん意識がもうろうとしておかしなことを言ってしまっただけだと思うわ…。あれが病気じゃなかったらなおさらわからないからねぇ」

「……そう……なのかな」

「麻実、そんなこと信じなくていいのよ」

「……うん」


カガミ様自体がどんな存在なのかはよくわからないけど……なんだか嫌な予感しかしない。

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