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「ん!美味しい。」


やっぱり、美味しい。そして、美味しい(ここ大事)。


「そうか。気に入ってくれるならよかった。」


これ、本当に生姜焼き?ってくらいには、美味しい。うん、びっくり。ご飯がススムくんもびっくりなくらいだ。びっくりしすぎてススムくんのお母さんが現れるかも。うん、私のお母さんのことは今は忘れよう。怖いから。


「朱莉さん、これ毎日食べてるんですよね?いいなあ。」


「ふふん。冬樹くんですからね。」


(なんで朱莉が自慢げなんだ。)


なんで……まあいいや。美味しいから。


「ふゆにい、おかわり、貰っていい?」


ここは(一応)私の家じゃないから、勝手にご飯よそったりはしない。……しないよ?ほんとだよ?


「ああ。食べてくれ。少し炊きすぎたくらいだから。」


「ありがとー。」


それにしても、ふゆにいのやつ、料理の手際が良すぎる。時間の使い方が上手いのかなぁ?ふゆにい毎回夏休みびっくりするほど早く宿題とか終わらせてたし。私?私には無理だよ、最終日まで持ち込むんだから。


そう私が軽く絶望していると。


「冬樹くん、私もおかわりを貰ってもいいですか?」


「ん?んぐ、んぐ。ああ。構わん。」


いや、行儀良いなぁ、ふゆにい。私だったら食べ途中でも話しかけられたら喋っちゃうな。















「ふゆにいや、私は思うのです。」


そう、この家に来た時から、ずっと思っていた。


「何か心配事でもあるのか?それなら俺じゃなく朱莉の方がいいと思うぞ。」


キッチンから洗い物をしているふゆにいが答える。


「ううん。違う。悩みは特にない。そのね?この三人、なんか家族みたいじゃない?」


「ブフッ」


びっくりした。だって、お茶吹き出すんだもん。朱莉さんが。私?私は何もしてない。びっくりして朱莉さん見てるだけ。


「ごほっ、げほっ、紗希、さん?びっくりしたじゃないですか。ごほっ、げほっ。」


な、なんか、私そんな変なこと言った?


「……はあ……着替えてこい。ここは片すから。なんなら風呂入ってこい。」


「はい……、お風呂いただいて来ます。」


な、なんか気まずいんだけど!?












「じゃあ、何があったのか聞こうか。」


ひえっ。怖いってもんじゃないよこれ。怒りを通り越して「無」だよ。多分私が感知できる限界を通り越したのねっ!


「え、そ、そのね?なんだか、こうやっていると三人って家族みたいだよね、って言ったら…、ブフォって麦茶吹き出したの。」


「……。」


無言やめて。怖い。


「それは…どういう意味だ?」


声音が、声音が!


「ふゆにい、怖いよ。」


言っちゃったよ。私、死ぬ。さよなら。


「ああ、悪いな。ごめん。」


あれ?死んでない。というか、謝られたんですけど。意味が分からないよ。誰か助けて。ちょっと待って?なんで顔逸らすの?


「ふゆにい?どうかしたの?」


「いや、なんでもない。……今は顔を覗こうとしないでくれ。………顔に出ているかも分からん。」


ははーん。これはアレですな。アレだよアレ。言えよって、言ったら今度こそ御陀仏だから。言わないの。無理。やめて。圧ぅぅぅ。


「朱莉さんのこと、どう思ってるの?」


圧に負けた。言っちゃったよ。いままでありがとうパパママ。


「え?あ、いや。ただの同居人、だ。」


さらに顔を背ける。


「本当に?」


私はさらに攻撃を仕掛ける。昼間はふゆにいと朱莉さんの戦いだったけど、私は勝てるかな?


「ほんとう、だ。」


「あんなに気にかけて、気にしてもらってるのに?」


「……。」


おっと。こっち向いて来た。顔は、赤くない……。つまんないの。


「どうしてだろうな。彼女は、朱莉は、俺の中で何か、引っかかる。彼女もまた、何か抱えている。」


ふゆにいは、お父さんもお母さんもいないんだよね。だから、人の悲しみ、苦しみには敏感なんだ。私はそんな人生を送って来たわけじゃないから分からないけど、今思えば、どこかふゆにいに……ん?あれは期待の目じゃないかなぁ。


「俺は彼女と昔に会ったことがあると言った。でも、俺はそんなこと覚えていない。その辺の記憶が必要なのかもな。今度、俺の昔の写真があるだろうからお邪魔することになるが、いいか?」


いや、ふゆにい、それ違う。たぶん私、名推理してると思う。そして、合ってると思う。絶対そうだ!あの目と、今のその言葉を聞いて分かった。間違いなく面白いから、ここはふゆにいの迷走を見てよう。


もしも、それ迷走に気がついた時は、私はこの瞬間に気がついていたんだと、自慢してやるのだ。


「うん。朱莉さんの悩み、解決できるように頑張ろ!私はふゆにいを助けられるように頑張るね!」


ぐへへ(悪者っぽい笑いのつもりだけど、違うのかな?)。これからどんな方向に迷走するのか、楽しみだなぁ。


————こうして、紗希は、二人の関係を巡って冬樹の迷走を笑う……否、冬木を見守ることになったのだった。果たして、冬樹が、紗希の気がついたこの真実に気がつく日は来るのか。














「うう……。紗希ちゃん……なんてことを……。意識しちゃうじゃないですか……。」


顔が風呂の温度よりも高くなったような気がしたのでそれを治そうと、湯船に浸かります。とりあえずここで、頭を冷やそうと思います。


その後の結果はお分かりの通りですけれど。












おかしいな。朱莉が1時間経っても出てこない。いつもは30分程度で出てきて、洗面台からドライヤーの音が聞こえるはずなのだが。


「朱莉さん、随分長風呂だね。」


「いつもはこんなに長くないぞ。」


「それって大丈夫なの?」


「分からない。分からないから、怖いんだ。」


彼女を失うのが。怖い。


「見て来たら?」


「そうしよう。一応、紗希も来てくれ。」


「よしきた。レッツゴー。」









朱莉は、のぼせているのか、湯船に浸かった状態で、顔を天井に向けて少しぐったりしていた。


「朱莉!?大丈夫か!?」


一応息はある。


「紗希、彼女を湯船から出してバスタオルを巻いてやれ。そしたら俺が運ぶ。」


「う、うん。でも、私一人じゃ無理だよ。手伝って。」


朱莉が生まれたままの姿であるから、紗希にお願いしたのだが、無理そうだ。仕方なく、俺は朱莉の体から目を逸らしながらも湯船から出して、紗希にバスタオルを巻かせる。俺は少し前にやった「お姫様抱っこ」をして、彼女を運ぶ。


「紗希。玄関から1番近い部屋の、1番奥の扉の中に団扇があるはずだ、洗面台からバスローブと一緒にもってこい。」


「おっけー、ちょっと待ってねー。」


多分朱莉は、のぼせているだけだ。呼吸もしっかりとできているところを見れば、あの体勢のままだったのだろう。湯船に顔を突っ込んで窒息していなくてよかった。


「持って来たよ。バスローブは私が着せるね。」


「頼んだ。着せたら言え。あとは俺がみるから、寝ろ。明日はお前を帰すからな。」


そして俺は反対を向く。朱莉はソファーに体を預けさせている、今は紗希がバスローブを着せている音がする。


「うん。何かあったら呼んでね?朱莉さんは女の子だし、私がやった方がいいこともあるだろうから。出来たよ。あとはふゆにいが見てあげて。」


こんな時に何故か紗希がニヤニヤしている気がしたが、気のせいだろう。


「ありがとう、おやすみ、紗希。客間が一つ空いてるから、そこに布団を敷いてもいいし、俺の部屋のベッドで寝てもいい。」


「うん。じゃあ、ふゆにいの部屋で寝てるね。お願いだよ、ふゆにい。」


俺は朱莉にぱたぱたと団扇を当て、彼女の孕んでいる熱が冷めるのを待った。












———追記———

なんすかアイロンて。……ドライヤーですね、ハイ。

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