27
——西園寺桐人は自室に籠もっていた。
「よく考えれば新堂さんに対して、どうして恋愛感情を抱いていたのかな?」
俺は自室で籠もって、あのときのことについて考えていた。
「……彼女の胸とか、顔しか見てないじゃないか。」
下品な自分に、今更恥じるのがさらに恥ずかしい。
よくよく考えれば、彼女の性格とか好きなものとかほぼ知らないじゃないか。
「知ってるのは彼女が皆から好かれていることだけ、あとは告白されても全部断ってることくらいか?」
考えれば考えるほど、自分の愚行と直面してしまう。
「俺はただ単に調子に乗ってバカやっただけじゃないか。俺がもし他の奴だったら『馬鹿じゃん』って思うな。つまり、俺の評価は現在ダダ下がりってことか。」
落ち込んでいても何も始まらないのは分かっている。が、来週学校に行ったとして100%俺の居場所はない。その事実を受け入れるのは難しいのだ。
「......まずは二人に謝ることからだな。」
この前謝罪に行った時は今のように冷静だったわけではなくて、言うなれば逆ギレしていた最中なのだ。その謝罪だけで済まそうとするのは、とても居心地が悪い。
俺は彼らに謝らねばならないという義務を感じた。
「……。」
「……。」
二人で同じ布団の中で寝るというのは些か落ち着かないものだ。全く眠れない。
「冬樹くん……起きてますか?」
やはり眠れていなかったらしい朱莉が、俺の名を呼ぶ。
「どうした?」
「ふふふ、やっぱり寝れてなかったんですね。」
起きているだろうと思われていたようだ。
「誰かと一緒に寝るという経験自体あまりなかったからな。」
「その言い方だと、誰か一人くらいは一緒に寝た人がいたんですか?」
彼女はすすすっとこちらに寄ってくる。寒いのだろうか?まあ別に嫌な気はしないので避けないが。
「だいぶ昔のことだ。」
「そんなことじゃないですよ。誰と一緒に寝たんですか?」
「誰となんて、気にするようなところか?」
こんな俺に彼女やら友達がいるわけないだろう。
「私は知りたいんですよ。冬樹くんのことが。」
「俺のことを知りたいだなんて物好きもいたもんだ。」
「もう、話を逸らそうとしてもダメですからね?」
話を逸らそうとしたのがバレていたらしい。
「一緒に寝てくれた人は、叔母だ。」
「由紀さんですか?」
「そうだ。」
「お母さんとお父さんとは寝なかったんですか?」
「俺の父と母は5歳の頃に、死んでしまった。それに、その出来事より前のことはよく覚えていないんだ。もしかすると父や母とも一緒に寝たりしたのかもしれないがな。」
「やっぱり、もう御両親がいないのですね。」
やっぱり?知っていなかったけれど予測していた事が当たった風な返答に、俺は違和感を感じる。
「これくらいのことは叔父や朱莉の御両親から聞かされていないのか?昔はよく会っていた、みたいなことを言っていた気がするんだが。」
「私だって聞きたかったんですよ、冬樹くんが突然いなくなって、お父さんやお母さんにだって問い詰めました。つい先日だって優一様にお会いした際だって、聞こうとしましたよ。でも、誰に聞いても同じ返答ばかりでした、『冬樹くんから聞きなさい』って。」
彼女はずっと俺を心配してくれていたらしい。
「……優しいな、朱莉は。」
「どこが、ですか?」
「俺の心配をしてくれて、ありがとう。」
俺はゆっくり寝返りを打って彼女のいる方を向く。
「!」
朱莉の顔は見えないが近くにいるということだけは分かった。
「交通事故で俺を庇った父と母が死んで、親戚達から『お前のせいだ』と言われたよ。世間からも間接的に叩かれた。北代家はだいぶ大きなグループなんだ、そこをまとめていた父が死んだとなると経済にも少なからず影響した。ニュースを見ていても、そのことばかり言われて、俺は笑っていいのか、幸せでいていいのか、何もわからなくなったよ。唯一残っていた保険金も、一度は引き取ってくれた親戚が全て取って行った。途方に暮れていたその時に拾ってくれた叔母が、『安心しなさい、もう大丈夫よ』って言ってくれて、一緒に居てくれたよ。」
「そうだったんですね。」
「まだ俺の中で収拾がついてないんだろうな。笑えないんだよ、あれから。淡々と一人で作業するように生きるだけだった。今も、本当に幸せで居ていいのか悩んでるよ。」
「冬樹くんは、どうしてお父さんとお母さんがあなたを助けてくれたと思いますか?」
俺は答えられない。
「分からない……。」
必死になって考えても、その答えは分からなかった。
「簡単ですよ。冬樹くんを死なせたくなかったんです。」
両親は俺を助けたかったということなのか?
「冬樹くんだけでも、幸せになって欲しかったんですよ。自分の命を
「利益も全部捨てて、俺の為にか?」
「親ってそういうものなんですよ。って、お父様が言っていました。」
ニコッと笑いかけてきた朱莉。
「俺は、幸せでいいのか……。」
いつも沈んでいて何も感じなかったのに、今は少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
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