第19話 feat.ローズベリー伯爵家使用人

【とある執事の話】



 伯爵家についてお伺いしたい、ですか。


 しかし、一介の執事である私にお楽しみいただけるようなお話はとても……おや。これを本日の案内のお礼として私に、ですか。いえ、これが私の仕事ですので、こんな貴重なワインはとてもいただけません。

 ふむ、お嬢様方の幼少期を知りたいだけ、でございますか。




 ……これは、老人の独り言ですが。

 アマリアお嬢様は小さいころからとても賢くてお優しい方でした。しかし、それゆえに何かと一人で溜め込んでしまうところもございました。

 ええ、だからこそ、伯爵家の少々厳しい教育と気ままな妹君がまかり通ってしまったんです。旦那様方がもう少しオリビアお嬢様を気にかけていれば良かったのですが。



 はい、オリビアお嬢様は小さい頃からあんな感じでした。特に学ぶことがお嫌いでして、どんな家庭教師も一日でやめさせられていたほどです。



 いいえ、旦那様や奥様がオリビア様を咎めたのは最初の一度だけでした。アマリアお嬢様は大変勤勉でしたので、お二人はその落差に失望したのでしょう。

 突然オリビア様の継承権を直ちに取り上げ、成人すればすぐに他家に嫁がせるつもりだったようです。

まあ私もいい年ですので、もしかしたら空耳だったのかもしれませんが。



 今の様子ではとても嫁に行けるとは思えない?そんなことまでご存じだったんですね。その話、一応極秘情報なんですがね。

 お恥ずかしい話ですが、旦那様方のオリビア様への関心が薄かったせいで、発覚した頃には手遅れだったんです。幸い、当時はまだ当家の使用人に被害が留まっていましたので、なんとか外に漏れるのを防ぐことができました。


 それから、本人から漏れるのを防ぐため、対外的にはオリビア様が難病を患っていることにしています。ですので、オリビア様が社交界に出ることはそうありません。この話はアマリア様も存じ上げませんので、内密にお願いいたします。



 ええ、ご了承いただけて何よりです。そうそう、オリビア様のことでしたね。



 ご存じの通り、純潔を失ってしまっては他家に嫁がせることもできません。それに、オリビア様が他家に嫁いだとして、嫁ぎ先で恥を晒さないはずがありません。


 そう考えた旦那様方は、アマリア様が成婚した後、「姉の幸せな姿が見られたから静養に専念する」ということにして存在を隠すことにしたそうです。

 あの方たちならためらうことなくやり遂げるのでしょうが……いえ、言葉が過ぎました。今のは忘れてください。



 はは、この年になるとどうも口数が多くなるのがいけない。所詮老人のつぶやきですので、あまり本気になさらないでください。それでは、お先に失礼いたします。




【とある侍女の話】



 お話は伺っております、お荷物を……これは。


 まあ、奥様に仕えている時点でプライドはほとんど捨てました。いいでしょう、メイドが来るまでの間だけならお話しましょう。しかしその様子では、すでに執事のセバスから大体はお聴きになっているのでは?



 ああ、確かにあいつは奥様のことには詳しくないでしょうね。先に言っておきますが、タノシイ家族話はありませんよ。いいんですね?



 ……物好きですね。ところで、もう奥様とオリビア様の関係性は予想ついていますね?



 はい、流石でございます。奥様の中でオリビア様の処置はすでに確定事項です。オリビア様が家を継ぐ以前に、

存在しているだけで伯爵家の恥だと考えていらっしゃるので。

 だからこそ、ウィリアム様との不倫が発覚しても婚約を破棄しませんでした。愛のない結婚なんて珍しくもないですし、そんなことより自分が考えた筋書きから外れることの方が恐ろしいでしょうから。



 あんなに遊んで懐妊の心配はないのか、ですか。

 ……オリビア様のモーニングティーには、その……薬を混ぜられています。妊娠しにくくなるという……すみません。メイドが来ましたので、私めはこれで。




【とあるメイドの話】



 ヒッ、あっ、大変失礼しました!

 あの、顔色が少し悪いように見えますが……い、いえ!何もないのでしたらそれが一番です!メイドごときが差し出がましいことを、え?



 もっと気楽にして構わない……?ですが……いえ、分かりました!お嬢様をお探しですよね?案内いたします。



 私はウィリアム様のことが嫌いです!いつも優柔不断で、肝心なことはなにもおっしゃらない!自分からは何もなさらないのに、自分は愛されて当然だとでもいうような本心が態度からビシバシ伝わってきます!侯爵の三男坊だからって、調子に乗っているんです!

 ……お嬢様は、ウィリアム様のことが好きだったようですが。でも今朝は少し違いましたよ!



 ふふっ、きっと公爵様のおかげだと私は思います!お嬢様専属メイドの私がそう言うんですから、間違いありませんよ!



 ……あの。



 失礼ですが、公爵様のようなお方がどうして接待を断って伯爵家を散策しているのかなって、思ったりして……というかどうやって騒がれずにお屋敷に入れたんです?



 ええ!?昨日のうちにセバスさんにお話をつけていたんですか!?ソウナンデスカ。



 な、なんでもありませんよ!あ、お嬢様はこのグレート・ホールの中にいらっしゃいます。今は少し立て込んでいますが……すみません、お嬢様をお願いします。私はここで控えておりますので、何かあればお申しつけください。



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