台風の目
4人を逃さぬようにとウォールアイは目玉を限界まで動かす。自らの位置と相手の距離を正確に測る。「巨人の居間」は弱肉強食の世界だ。センチピード達に獲物を奪われてしまっては王の怒りに触れてしまう。
下顎の目玉を閉じ、右方の味方への合図を送る。一斉に叩き、反撃の暇も生まれさせない。腕を目玉の間から取り出す。組み伏せ、喰らう。一匹、また一匹と味方が肉塊へと変わって行く。投げ斧により包囲網が突破されているのだ。
腕が弾き飛ぶ。敵は強い。鉄の拳が怪物の体を粉微塵にする。無数に居た仲間も消え去っていた。
「まあ、こんなもんだろ。2階層だからな」
「魔法の剣は使わなかったのか? パトリシア」
「あせっちゃって… 」
「そうか、次は見せてくれよ。気になっている」
「うん!」
「早く次のフロアへ急ぎますよ。ウォールアイが死んだことでセンチピード達が活発化します」
4人は足早にベッドフロアから抜け出そうとしたが、センチピードの鳴き声が動きを止めた。気色の悪い虫型の化け物が巣から這い出る。
「こいつは… 連戦になっちまうか?」
「擬似血管を再起動している。それまで耐えろ」
「つくづく運がありませんね。仕方ありません。パトリシアさん、剣を使ってください」
「はい!」
パトリシアが皮でできたホルダーから剣を抜き、センチピードに向かって振り下ろす。紋章が輝き、辺りを炎が覆い尽くした。
「マジか」
吉村がその光景を見て唖然とする。センチピードは影も形もなくなっていた。後に残ったのは少量の灰のみ。
「くらくらするの… 」
「この剣は使用者の魔力を吸収し、炎を刃から射出するようですね。魔剤を彼女に打ち込みます。私のバッグから2本取り出してください」
「了解した。パトリシアに耐えられるのか? 魔剤は副作用が強いと聞くが」
「耐えてもらうしかありません。私に持たせておけばこんな事にはならなかったのですが」
「すまん… お嬢ちゃん。次からは俺が持つ」
「貴方は剣の扱いに慣れていないでしょう? 意地を張らずに私に剣を渡しなさい」
「吉村、奴に剣を渡すぞ。センチピードはまだまだ追撃してくる。まだ擬似血管の再起動も終わっていない」
吉村が渋々三井に剣を手渡す。キイルトースはパトリシアの心臓に直接魔剤の針を刺し込んだ。ビクン、ビクンと小さな体が揺れる。2本刺し終えた頃には、パトリシアの意識は消えていた。
迫り来るセンチピードを三井が剣を振り焼き尽くす。吉村が細長い四肢を斧で切る。キイルトースが強化剤をシリンダーに差し込み、擬似血管を起動させる。気絶したパトリシアを中心とした布陣が組まれた。
巨大なベッドが崩れ、生き残りのウォールアイまでが飛び出る。更に戦闘は激化するだろう。
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