第17話 食いしん坊の末路

 先生と先輩との放課後の授業は、今までで一番 時間の速度が早かった様に思えた。

 気づけばもうバスに乗っている時間だった。「やってしまった」と後悔はしているが反省はしていない。あくまで勉強なのだから、僕は悪くない。

 誰に言い訳をしているのかはさておき、最終チャイムが鳴ってしまった以上僕達は帰らないといけない。


「ああ、もうこんな時間か。ごめんね、最終チャイムまで居残りさせてしまって… 」

「フフッ、今に始まった事じゃないんだよ、咲衣くん。先生はしょっちゅうこうして時間を忘れて最後まで学校に残ってることが多いんだ」


 僕とは違って反省している相澤先生を横目に、金糖先輩はクスクスと笑っていた。

 二人は僕が思っているよりも仲が深そうだ。

 そして、そんな二人を少し羨ましく思う自分がいる。もっと仲良くなりたい。

 知りたい、聴きたい。


 そうして放課後の三人での授業は始まったのだ。


 *


「おい、おせぇおぞ。何時だと思ってんだ」

「ごめんって、先生に勉強を教えてもらってたんだよ」

「ほう?随分と勤勉になったもんだ」


 いつもより随分遅く帰ってきた僕に、みんな(つむぐも含む)驚いていた。

 勿論、つむぐとぶ僕の会話は二人にはバレないように話している。

 僕は正直に遅れた理由を両親に話した。

 すると二人とも優しい顔をしていた。ホッとしたのも束の間、母さんがもっと笑顔で「じゃぁ、つむぐの散歩お願いね」と断れない圧を出しながら、リードを僕の胸に持ってきた。


「実はまだご飯用意できてないの。それにつむぐの散歩、渉が入ってくれるとばかり思っていたから… 」


 目をうるうるさせながら訴える母を見て僕は妥協させざるを得なかった。

 仕方ない、疲れててもペットを飼う以上責任が伴うものだ。

 つむぐも一日のストレスを発散させ足りないのか、ウズウズしている。

 リードを持ち直しつむぐに「行くよ」と声をかけた。

 つむぐはすぐに「ワン」と鳴いてついて来た。

 人語を話さなかったらただの可愛い犬なのになぁ…。なんて思いつつも、玄関を出た仔犬は本性を表した。


「はぁ、やっと外に出られたぜ。全く、ガキが色気付いてんじゃねぇよ」

「はぁ? 先輩のこと? そんなんじゃないし、何言ってんの。ほら行くよ」

「ハイハイ、思春期は良いなあ」

「アラサーにはもう縁が無いもんね」

「お前、たまにマジで人間の心あるのかってくらい辛辣になるよな」


 人にバレないように話しながら、いつもの公園を目指す。

 着いた後はいつも通りだ。走らせて、ストレス発散させて、少し話して、帰宅する。

 走り切ったつむぐは野生の犬そのものだった。

 ハッハッと口で息をし目は爛々としている。これが野生の狼とかだったら僕は数秒で食い殺されているだろう。子犬で良かった…。

 あらかじめ持ってきてある吸水ボトルに水を入れ、つむぐの口元に持っていく。

 走って喉が渇いていたであろうつむぐはコロコロと音を立てて水を飲んでいる。

 まぁ、あれだけ走れば僕だってゴクゴクと音を立てながら飲んでしまうな。


「ホント、育ち盛りって感じだね」

「ふぅ…。まぁ犬の年齢考えれば今が育ち盛りなのは間違いねぇ。あー、走った走った。帰ろうぜ」

「ようやくだね。じゃぁリード繋ぐから、こっち向いて」

「ん」


 リードを付け直しり帰路へ向かう。

 なんか、今日は長い一日だったなぁ。これが日常になるのか、なんて思いながら引っ張られるリードを掴みながら、ふとボーダコリーの成長スパンが気になりスマホで調べてみた。

 成犬の写真を見る限り、今より凄く大気買った様な気がする。ワンチャン僕が毎回引きずられて散歩をさせるハメになるんじゃなかろうか…。


「ふむ… 」

「何散歩しながら歩きスマホしてんだよ」

「いや、つむぐの成長速度ってどんなもんかなって」

「あー、なんか前に母親が言ってたな。結構大きくなるんだろ? 」

「うん、ほら、背伸びしてると成人と変わらないくらいあるじゃん」

 調べてた記事から、背伸びをしている写真をつむぐに見せるとつむぐは結構驚いていた。

 最初は僕も驚いたもんだ。中々見せがいがあったな。

 ボーダーコリーは生後四ヶ月以降で大きさが結構変わるらしい。

 つむぐはこ食いしん坊だから、きっと写真みたいにおきくなるに違い無いだろう。

 成長が楽しみなような、少し怖いような…。だって大きいつむぐと一緒に寝たら絶対潰されかねないだろう。

 そんな他愛のない話をしながら僕達は家へと向かった。

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