第2話

 新築の一番風呂を頂いた僕は頭をタオルで拭きながら自室に戻った。

 改めて段ボールが積まれてる部屋を見て改めて片付けを覚悟する。転勤族だから慣れてる…はずだけどやっぱりめんどくさい。

 まぁ、ちまちまやっていこう。

 椅子に腰をかけて一息ついた。それにしても今日はどんでもない一日だった。

 おそらく人語を喋る犬に疲れるって僕だけだろう。

 疲労の余韻に浸ってたら元凶がスッとドアから入ってきて煽り気味でコイツは言った。


「風呂上がりはもっとリラックスしてる顔するだろ普通〜」

「元凶が何を…。つむぐは人をイラつかせるプロでも目指してるの?」

「プロの世界は厳しいからな…今のうちにスキルを積んでおかないといけねぇな」

「ドア閉めるねおやすみバイバイさようなら」

「冗談だ、開けろや」


 静かにドアを閉めたが渋々ドアを開けて改めてつむぐを部屋に入れた。

 そういえばもう一回夜話そうとか言ってたっけ…すっかり忘れていた。


「お前、明日は休み?」

「いや、学校だよ。引っ越し翌日からってハードだよ、もっと余裕持って手続きして欲しかった」


 不満を吐きながらも明日は金曜日だっけ、と思いクローゼットのハンガーに掛かっている新しい制服を眺めた。

 今までは学ランだったが最後の制服はブレザーだった。

 それも紺色じゃなく白いやつで、琥珀色のボタンがよく映えている。

 そんな新しくもあり白のブレザーを着るのが楽しみだと柄にもなくちょっとだけワクワクしている自分がいる。


「まぁ、ドンマイ」


 苦笑いしているような声色でつむぐは慰めの言葉を僕に投げかけてくれた。

 時刻は午後十時半を指している。


「さて、作戦会議再開しますか」


 なんてセリフ、漫画みたいだな。己の中の中二病が潜んでいるのかもしれない。

 まぁ作戦会議って言っても突撃先なんていないけど。


「じゃあもう一回整理しよう。つむぐは二六歳の時に何者かによって殺害された。そして現世では犬に生まれ変わり前世の記憶を持っていてさらに人語が喋れる。と言うことだよね?」

「ああ、問題ない」


 なんともおかしな話だ。一番おかしいのは犬が喋ると言うことだ。

 もしかして僕の妄想なのではないかと疑ったが実際に今も聞こえているし会話もできている。もう諦めよう、我が家の犬は喋る。それでいい。


「それで、僕がつむぐを殺した犯人を捕まえようとでもするわけ?」

「馬鹿か、そんな簡単にいくわけないだろ」

「じゃぁなんなんだよ、なんでそれを僕に話してどうするのさ」


 確かに犯人を捕まえるとしても僕はミジンコよりも役に立たないだろう。

 …自分で言っといて悲しくなってきた。


「犯人の顔は分からないの?」

「…俺の親友だった」


 思いもよらない回答だった。ていうか覚えてるんかい。

 親友に殺されたなんて、なんか、並々ならぬ理由があったんだろうな。


「親友…。なんで親友なのに殺人なんて」

「分からねんだ。ただの喧嘩だとしてもあんな殺意に溢れた目なんかしねえ」

「殺された原因は分からないってことか…」


 別ベクトルで厄介だな。


「そうだ、親友さんは誰か分からないの?そしたら犯人一発で分かるじゃん」

「…ハッ…!思い出せねぇ!は?親友なのに名前思い出せねぇ!」

「なんでだよ!そこだけ三途の川にでも置いてきたの?」

「うるせえ!でもまじでそうかもしれんな…」


 つむぐしては珍しく冗談に乗ってきた。

 親友の名前を三途の川に置いてくるなんて…。謎すぎる。

 それにしても焦ってるつむぐを見るのは家に来て初めてだな。くるくる回って自分の尻尾を追いかけてるみたいだ。本人はそんなつもり無いんだろうけど。


「ああクッソ!まるで親友に暗示でもかけられた気分だ」


 暗示にかけられた、か。ありそうでさなそうな…。絶対無いとは言い切れないかもしれない。

 名前が分からないとなると話は最初に戻ることになる。

 徐々に眠気が大きくなる。今日はもうここまでにしよう、とつむぐに話しかけて犬用のベッドをリビングから持ってきた。


「なんだ、一緒に寝たいのか?」

「なんとなく、だよ」


 特に意味はないけど一匹にリビングで寝かせるのは寂しいだろうなって思っただけだ。

 僕は布団を敷き直し電気のリモコンのボタンを押し部屋を暗くした。

 その日は眠たいのにうまく寝付けなかった。

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