再会 4
「そっか……」
話をひと通り聞いた
「昔からお前にあった不思議な力は、
啼義は黙って、海を眺めている。気持ちが落ち着いたというより、ひどく空っぽだ。イルギネスも、再び結えた髪先をなんとなく整えながら、黙っていた。しばしの沈黙の後──
「一人になりたい」
啼義がいきなり立ち上がり、二人を待たずにさっさと歩き出した。
「おい、ちょっと待て」
朝矢も立ち上って声をかけたが、聞こえていそうにない。後を追おうと、横をすり抜けたイルギネスに、朝矢が慌てて言った。
「俺、一度船に戻らなきゃ。そっちの奥に停泊している
やや鎮痛な面持ちで頭を下げた彼に、イルギネスは柔らかく微笑み、短く答えた。
「わかった」
すでに人垣の向こうに消えてしまいそうな啼義を追いかけて、銀髪の青年の姿もすぐに小さくなった。朝矢は彼が見えなくなるまで立っていたが、意を決して踵を返し、足早に自船へと走った。もうかなり、言われた時間を過ぎている。船長に説明したら、出来るだけ早く戻って、あっちの方をまた探してみよう。せっかく会えたのに、これで終わってしまうなんてことがあってはいけない。
啼義は桟橋で腰を下ろし、波打つ水面を見つめていた。潮の匂いを含んだ風が、頬と髪を撫でる。心地良い。ここは港の中心から外れているせいか、ほとんど人の姿も見当たらなかった。波の音と、海鳥の声がする以外は静かだ。
喧騒から離れて、青々とした景色を眺めているうちに、思考がゆっくりと巡り始めた。
彼は今初めて、自分の存在を疎ましく感じていた。どうして噴火の時、一緒に消えてしまわなかったのだろう。そしたら、こんなに酷いことにはならなかったのに。
蒼空の竜も何も、もうどうでもいい。別に俺じゃなくたって、誰かがなんとかすればいい。それに──
<もう、苦しい>
途端に思った。
<苦しい>
これ以上、耐えられない。食いしばった歯の間から、嗚咽にも似た声が漏れた。顔を覆って俯いたその時、
「啼義!」
イルギネスの声が耳を打った。こちらへ向かってくる見慣れた姿を確認した途端、心の奥ではほっとしたにも関わらず、意志とは裏腹に、啼義は反射的に腰を上げて彼と逆方向へ駆け出した。イルギネスが「あっ」と声を上げる。
「待て! そっちは──」
言われて足元を見た時は遅かった。勢いづいた啼義の足先に、続く地面はなかった。
咄嗟にイルギネスが手を伸ばす──が、到底届く距離ではない。
──バシャーン!
何が起こったのか理解する間もなく、啼義の身体は桟橋の向こう、海へと飲み込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます