第109話「オーディン様と謁見」

アース神族主神オーディン様の謁見はOKが取れた。

さっそく二柱ふたりを伴ってヴァーラスキャールヴ城に登城する事になった。


城に着いた私達は二手に分かれさせられた。

何仙姑かせんことジブリールは城の使用人達に囲まれ、貴賓室に通された。


私はオーディン様の下で事情説明をするために、別室へ案内された。

応接室だろうか、最奥にはアース神族主神のオーディン様が待ち構えていた。

私は御前に呼ばれ、説教タイムが始まった。



「ヒルトよ、如何にして異国の女神と知り合ったかは報告書で解った。

 今まで何処にお泊り頂いたのだ?」


「社員寮にお招きしました」


「何だと! 社員寮だぁ?」



オーディン様は立ち上がり、顔色を変え激怒し始めた。

その勢いで後ろに圧された椅子は派手な音を立てて倒れる。



「この莫迦者があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 お前は無断で異国の女神様方を寮に泊めたのか‼‼‼

 何て事をしてくれた‼‼‼」


「いえ、彼女達がそこで良いと言ったから」


「言われたからと言って、そんな所に御泊めしてどうする!

 あの方々をお前は何と心得ている」


「はぁ、何仙姑かせんこさんは食いしん坊仙人だし、ジブリールはお子様だし」


「莫っ迦者―――――――――!!!!!!!!

 良いか? 崑崙八仙というのは、崑崙仙界を治める八柱の王とも言うべき存在なのだ。

 ジブリールは豊宇気姫とようけひめ様の分御霊だと言うではないか。

 言うなれば、国家元首名代にも等しい方々なのだぞ。

 それほどの方々にお世話になりながら無礼を働かなかっただろうな?」


「普通にフレンドリーでした」


「ああぁ、何たる事を、ヒルト、お前は異国の大臣にも等しい方々と肩を並べておったと言うのか。

 途中で先振れを走らせれば、迎えを出したし、貴賓室だって用意出来たものを。

 儂はあの方々に何とお詫びしたら良いのか………………」



オーディンは倒れた椅子を直して座り、頭を抱え込んでしまった。

室内の従者達もオーディンの大声に気が気でない。



「それで旅の途中でお世話になったドゥルガーチャンディー女様にはお礼を申したであろうな?」


「う~ん、どうだったかなぁ、御礼はしたような、忘れた様な」


「それで、どうする気だ?」


「お呼びして改めてお礼をすれば良いかと」


「お前が上級女神を呼び出すだと!!!!!!!!」


「何かあれば、いつでも呼ぶように言われてます」


「呼べるのか?」


「はい」



私はチャンディードゥルガー様を呼んでみた。

教わったように独鈷印の印契を結び、マントラを唱える。



सलेईオン श्रेयीシャレイ चंडीシュレイ सोवाकाチャンディ परソワカ



途端に近くの空間が歪む。

歪みは光のポータルを形成し、空間が繋がっている事が判る。

強い光を発する彼方の空間から、女神がやって来る。

余りの光景に呆然とするオーディンは再び立ち上がった。



「ヒルト、やっと私を呼びましたね」


「うわぁ! 本当にドゥルガーチャンディー様が!」


「おや、久しぶりですね、オーディン殿。

 どうしました? 顔が引きつっていますよ?」



二柱ふたりは旧知の間柄だったようだ。

そりゃぁ、どこの神界も鎖国している訳じゃないから、上級神どうし会合だってあっただろう。

そして御多分に漏れず、最強女神チャンディードゥルガー様もデーヴァ神界の重鎮だったりする。



「ヒルト、どうしました?」


「私が皆さんに無礼を働いたんじゃないかって怒られていたんです」


「そうでしたか。

 オーディン殿、御心配は無用です。

 ヒルトは私共の生徒として旅をしながらよしみを結んだり、教えや歴史を学ばせていたのです」



どうやら修学旅行と感じてたのは間違いじゃなかったようだ。

私のリフレッシュ旅行がいつの間に利用されてたの。



「ヒルト、それは本当か?」


「はい、例えば神聖ルーンの源流は言霊だったとか」


「神聖ルーンの源流だと?」



オーディン様は神聖ルーンが言霊の下位グレードだった事に驚愕する。

神聖ルーンを習得するための、あの苦労な何だったのかという顔だ。

更に話を進め、仙道を修した私は上級神に匹敵する事にも驚かれ、つぶやかれた。



「どうしてこうなった……」


「私と日本の国の神々が協力して、アース神族の進歩を促すためにヒルトを生徒としたのです。

 彼女が学んだ事は時代に沿うために、大いに役立つ事でしょう」



……おぃおぃ、何を勝手に。

  まぁ、今回の旅は私の為になってるんだけど。

  アース神界が時代に沿そぐわなくなっているのも確かだし。



「そうなのか? それは誠であるか?」


「何か不服が御座いますか? 文句があるなら私が受けて立ちますが?」


「それは勘弁してくれ、ドゥルガーチャンディー様。

 それよりヒルト、言霊について後で教えてくれ」


「はい、構いません」



この後、皆は襟を正して謁見の儀に臨む事になった。









謁見の間に続くドアが神騎士によって開かれ、私達はフリズスキャールヴという玉座に向かう。

フリズスキャールヴに座るオーディン様に拝礼の姿勢を執る時、ジブリールが素っ頓狂な声を上げた。



「あれぇ? チャンディードゥルガー様がいるです」



オーディン様の座から右横の列にチャンディードゥルガー様は城の者に混ざって立っていた。



「私も先程来たのですよ」


「なら私も本格的にご挨拶しなければなりませんね」



急にジブリールの口調が変わり、七色の光と共に大きさが変わっていく。

ジブリールの本体、豊宇気姫とようけひめがやって来て分御霊と入れ替わる。


驚いたね、こんな事も出来るんだ。

と言うか、これが最初から分御霊ジブリールの役目だったのかも。



「お久し振りですね、オーディン殿」


「貴女は豊宇気姫とようけひめ様……⁈」



何仙姑かせんこ豊宇気姫ジブリールがオーディンと謁見をする。

互いに挨拶を交わした後旧交をしたため合う。



「私達は旅のヒルトとよしみを結びました。

 歴史を教えて来り、神として上に上がれる様に導いて来たつもりです。

 今後とも良しなにお願い致します」


「今改めて儂からもヒルトの御無礼をお詫びしたく思う」


「お詫びは無用です。

 ヒルトは私共に無礼など決して働いていませんので」


「その様に仰られてはヒルトをこれ以上叱る事は出来ませんな。

 皆様のお心遣い、感謝の至り」


「アイヤー、ヒルトさんは叱られたんですか?

 それは気の毒です、師匠として看過出来ませんね。

 私も一緒に謝罪しますので、それで何とか」


「あ、いや、それには及びませぬ」


「なら良いのですが」



三柱さんにんは私を擁護してくれている。

今まで上級神に対する敬語や態度は成っちゃいなかったと思う。

けど四角四面で硬くなっていたら、一緒の旅なんて楽しめなかったよね。



「皆様には城内に賓客室を用意しているから、今後そちらにお泊り頂きたい」


「お手数お掛けします」



この後場所を移してチャンディードゥルガー様も合流して歓迎の宴が開かれた。


その宴席に私も同席させられる。

主神オーディン様の宴会に呼ばれるなんて、私には初めての経験だよ。

『異国の女神歓迎の宴』というのがこの宴会の御題目らしい。


この広いパーティー会場に異国の女神を歓迎するため、殆どの神々が集まっている。

そんな中にやっぱりいるんだよね、ミーミルの泉の三女神ノルニルが。

今回はビュッフェ形式のパーティーだから、自由に料理を取り、何処で誰と会話をするのも自由だ。

しかし珍客のチャンディードゥルガー様、豊宇気姫とようけひめ様、何仙姑かせんこに人気が集中する。

私は一応彼女達のサポート係として呼ばれてるのかな。



「ヒルト、あの方々は何時いつお出でになるのかしら?」


「スクルド様、それはまだ判りません」


「そう、お帰りの際には絶対に寄るのですよ?

 良いですね? 絶対にですよ」


「はいはい」


「それと情報ですけど、とある霊界でヒルトを待つ者がいるらしいですね」


「私をですか?

 誰だろう…………あ!」



そう言われて思い出した。


『アルレースはひとまず元に戻って、人としての人生をまっとうしなさい。

 寿命を迎えた後、私に対する忠義心がまだあるなら、改めて私のエインヘリヤルとして迎えます』


と伝えた人物がいた事を。


きっと私が迎えに行く事を信じて待ってるのかぁ。

一途でい奴よのぅ。

いやいやいや、そんな事思ってる場合じゃない。



「誰なのか知っているようですね」


「はい」


「実は察知したワルキューレを向かわせたけど、貴女、ヒルトでなければ応じないそうですよ」


「はあぁ? 何ですか、それは」


「貴女に迎入れてもらう事だけを願い、寿命後も待っているようですね。

 だから他のワルキューレでは駄目で受け入れないのです」


「これは早く迎えに行かなくちゃなりませんね」

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