夢転移〜夢で得た力をふんだんに使いまくる

@jujupagm

第1話

 オルス・ジット

 この物語の主人公。

 異世界転生を夢見る男の子。

 年齢は12歳。


 オルスは、昔から夢の話をよくする子供で、母からはいつも「はいはい」と聞き流される、そんな毎日を送っていた。

 大概の人は夢を見てもすぐに忘れる。

 しかし、オルスは全ての夢を覚えており、しかも夢で習得したことは現実でも使うことができた。


 1人だけパンツ一丁で授業を受けている夢、モンスターを従え地球を守る夢、怖いお化けに追いかけられる夢、アナコンダに生贄にされる夢。

 数えればキリがない。


 最大のデメリットは、今いる場所が夢の世界なのか現実世界なのかをオルスは区別できないのである。

 もちろん、現実世界に戻ることができれば、今見ていたものが夢だったと自覚できる。


  

---夢の世界---


 「うわぁああ!!」

 (オルスが叫ぶ声)


 オルスは目が覚めると、目の前には異世界が広がっていた。

 ギジラベラル王国。

 早口で言えば噛みそうな名前の王国。

 その王国から少し離れた場所で目が覚めた。

 しかし、オルスの表情筋はピクリとも上に動こうとしない。


 目の前には真っ暗の異世界が広がっていたことから、オルスはあまり喜べなかった。


 「なんだ、ここは!?」


 彼は気がづくと、目の前が見えないくらい真っ暗な部屋に閉じ込められていた。

 周りの壁は鉄でできていて簡単に壊せるようなものではない。

 そして、出入口の扉にはドアノブもなければ鍵穴もない。


 オルスは真っ暗な部屋の中でただ呆然と立ちすくむしかなかった。

 周りに何があるかわからない状況での行動は死に直結するからである。


 オルスは9歳の頃、登山で遭難した夢を見たことがあった。

 その夢でオルスは初めて遭難を経験することになったのだが、日が暮れてからの遭難活動はオルスにとっては過酷なものとなった。 

 夜になると、身動きがとれない。それはオルスにもわかっていた。

 しかし、辺りが全く見えなくなる頃、ちょうど横の茂みからバサバサという音と「おーい」という声が聞こえたような気がした。

 それで、オルスは「こっちだよー」と叫んだ。

 その瞬間、オルスは熊に食われたのだった。


 こういう経験があるからこそ、オルスは、現在置かれている状況での判断能力が一般人より遥かに上回っていた。


 ちょうど目が暗闇に慣れてきた頃。

 オルスは自分の置かれた状況を把握した。 

 だけどオルスは思考停止した。

 この状況下でのオルスの判断能力は一般人のそれと変わりはなかった。

 もしかすると、それ以下である。


 ところで、彼の目の前にあるのは扉。

 しかし、扉は開けることができない。

 外側からしか開けれないタイプの扉だと気づくのにはそう時間はかからなかった。

 彼は5歳の頃に見た夢で、拷問されるという経験をしたことがあり、この部屋は拷問に使われていた部屋の構造とよく似ていたからである。



 「もうダメだ。魔法とか使いたいけど、鍵開けの呪文なんて知らないんだよ。」


 実は、オルスは未だに魔法を使えるような夢を見たことがないのである。

 そのため、魔法を使うコツや魔法の呪文を全く知らないのである。


 「あぁ、どうすればいいのかなー」


 ゴォぉおお!!!


 (ん!!?なんだ!?助けが来たのか??)


 オルスの考えは的中しなかった。

 実は、オルスのいる世界では、今現在、大雨が降っており、その雨が下水道を勢いよく流れる音だったのだ。


 オルスが閉じ込められていた部屋は、ギジラベラル王国から少し離れた場所の地下の下水が流れる下水道の側にあった。

 偶然人が通ってもバレないようなところにオルスを閉じ込める部屋があった。


 オルスは「ゴォぉおお!!!」という音を聞いて助けが来たのではないかと考えていた。


 「ここだよぉー!!」


 オルスは、夢で、助けが来たと思って叫んだら熊に食われたことがあったのに、全く反省していなかった。


 オルスの叫びの声に対してなんの反応もなかった。

 そして、オルスは助けは来ないことを理解した。


 「俺の名前は、オルスだよー。ここはお留守ですかー?ジットしてても退屈だよー」


 助けが来ないことを理解したオルスは、オルス•ジットという自分の名前でジョークを始めたのである。

 もちろん、聞く者は誰もいないはずなのにだ。

 オルスは現実を受け入れることを拒絶したのだった。


 それから、オルスは頭で考えることをやめた。

 そして、口を閉じピクリとも動かなくなった。

 熊が冬眠するように、彼も熊と同じように自分のジョークで冷きった体を冬眠させようとしていた。

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