第42話 防具屋のお仕事⑥ ラメラーアーマー

「え~~ん、え~~ん!!」


 ものの五分もせぬうちに、


「あ~~……」


 泣きべそかきながらネジュリは帰ってきた。

 それを気の毒そうに向かえるセーラ。

 ――――ぼんっ!!

 そしてブレザの鼻が決壊する。


「え~~っと……どうしてそうなったんですか」


 弟に鼻栓を詰めながら、そうなった経緯を聞き出すセーラ。

 せっかく仕立てたクロスアーマーはビリビリに切り刻まれ、かろうじて乳首は隠れているものの、ほかの全部はむき出しでプルンプルン揺れていた。

 これだったらまだ全裸のほうが刺激が少ない。


「ネアリちゃんにね、ちゃんと防具を整えてきたからさあ手合わせよと抱きついたら、今度はちゃんと武器を握ってくれたんだけど、無言で斬りかかられるばかりで有無を言わずに蹴り出されちゃったのよえ~~ん、え~~ん!!」


「あ……、そうですか……まぁ……うん…………でしょうね」


「こんなんじゃなく、もっとちゃんと相手して欲しいって言ったら『ふざけてるのはそっちでしょ』って。私は真剣なのに~~~~よよよ……」


「いや……その格好で言われてもね……」


「しかも使った武器がただのパン切り包丁だったのよ!? く、くやしい~~~~!!」


 肩からスダレのように垂れ下がっている、変わり果てたクロスアーマーを掴んでセーラは少し困った顔をした。

 布製のクロスアーマーは確かに防具としての強度は低いが、それでも幌馬車に使われるほどの厚手の布を三層にして固めた物だ。数撃くらいならばロングソードの攻撃にも耐えうる硬さはあるはずなのだ……。


「それを刃物ですらないパン切り包丁で……ネアリめ、また腕を上げたわね」


 セーラもやはり防具屋の娘。

 自分の店の商品をこうも簡単にオシャカにされては面白くはない。


「で、ネアリちゃん言うのよ。ちゃんと真面目な格好をして私の攻撃に1分耐えられたら二人目の生徒にしてあげてもいいですよって。よく聞いたら私より先に弟子になった女がいるみたいなのよ!!!!」


 き~~~~っ!! と悔しがるネジュリ。

 弟子と言うか商品説明でしょ、とセーラは思ったが自分にはどっちでもいいことなので黙っておく。

 しかし、そうか……1分耐えられたら、か。


「……むう」


 ならばあの商品をおすすめするかな。

 と思ったところで、


「だから次!! あれを売って頂戴!!」


 先にネジュリが商品を指定してきた。

 指差す先にあったのは、アーマーナイト用のプレートメイルセット。


「あ……あれを着るんですか……?」


 頭からつま先まで、鍛えた鉄板をつなぎ合わせたその鎧は、この店で一番の防御力を誇るが同時に重さも一番を誇る。


「あれは兵士として鍛え抜かれたゴリラ……あいや、屈強な守備兵さんたちの装備でネジュリさんみたいな女性にはとても扱えないと思いますよ?」


 当然の忠告をするが、


「いいの!! とにかく1分耐えきればいいんだから、あれを着てジッと亀みたいにうずくまってるわ。どう、これで私の勝ちでしょ!?」


 ま、まあ……プライドがそれでいいと言うのなら、確かにそれで勝ちかも知れない。

 さすがのネアリでもコレを切るのは無理だろう。

 ……時間があればやりそうな気がするが、とにかく1分では絶対に無理だ。


「お金ならあるわ!! さあその鎧を体に合わせてちょうだい!!」


 ドスンと置かれた革袋。

 中には相変わらず大量のお金が入っている。

 プレートメイルセットの値段は金貨5枚だ。

 ちなみに金貨は銀貨10枚分で、それが5枚となれば上級騎士様一ヶ月分の給料に匹敵する。


「では、調整させて頂きます。こちらへどうぞ♪」


 すべての不安を横に置いて、とりあえず売れるものは売ってしまおうと話を進めるセーラだった。





「……う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 むき出しのパンティーから目をそらし、真っ赤な顔をしてネジュリの太ももに巻き尺を当てるブレザ。

 ぴとっと触れてしまった指が、その艶やかな肌のみずみずしさを敏感に感じ取り、ますます顔が赤くなってしまう。


「ほぉら、ちゃんとメモリを見なさいよ。じゃなきゃ採寸の意味がないでしょ?」

「だだだ、だってお姉ちゃん。なんで下まで僕に測らせるのさ!??」

「だから、訓練よ訓練。ほらちゃんと見る!!」


 グリっと頭を回して強制的に顔を正面に向けさせる。

 とたんにドアップになる薄布越しの下腹部。

 ――――ぼふっ!!

 たまらず吹き出してしまう鼻血。


「あらぁ僕、大丈夫~~?」


 面白そうにニヤけるネジュリ。

 セーラはそんな弟の頭を小突いて、


「そこじゃなくて見るのはウエストよ、ウエスト。踝から腰までの長さを測るのよ」


 視線を上げると今度は形よく縦に割れたおヘソが現れ、これはこれで刺激が強い。


「うううぅ……104センチだよおねえちゃん……」

「はいはい……総丈104センチ、と……」


 記入が終わると、ホッとした顔をして足から離れるブレザだが、セーラはまだまだとそんな弟を押さえつける。


「逃げないの。今度は股下を測るのよ、さあ頑張って」

「ま、股下……?」

「そう、股下よ。踝からこう足の内側をたどって……」


 言って、セーラはつつつ……と指を太ももの内側を這わせる。

 その感触に反応し、短い声を上げるネジュリ。

 そして辿った指先は、彼女の股間へと近づき、その丘にピトッとくっついた。


「ここまで、これが股下。さあ、おやりなさい」

「ムリムリムリムリ!!」


 軽く言うセーラの言葉に、ブレザは首を千切れんばかりに横に振るのだった。

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