第17話 魔術師のお仕事⑨ 魔法具
「では、こちらの人なんていかがでしょう?」
ミアが名簿のとあるページをマーシアに見せた。
そこには一人の男らしき名前と年齢、職業、ランクなどが記されていた。
バイラ・ゴンゴ 男 33歳 戦士 ランクC 銀300~
「ほうほう。……まあ普通やね。どうやこの人なんて」
名簿を覗き込みながらデネブはマーシアに聞いてみた。
「う~~ん……年齢がちょっとあれかなぁ……この銀300~って言うのは何かしら?」
「これか? これはあれや、年収や。最近一年間に稼いだ平均が書かれとんのや」
「……え?」
ものすごく変な顔をするマーシア
「え……じゃあこの人、一年間で銀貨300枚くらいしか稼げてないって言うの?」
「……くらいしかって、冒険者なんて大体そんなもんやで? 駆け出しやったら100稼いだらええほうとちゃうか?」
「100……そんなんで一体どうやって生活すれば……」
目をまんまるにして汗をかくマーシア。
「どうもこうも……そこはヤリクリやなぁ。基本生活は野宿で、飯は狩猟とそこらの雑草とか食うてはるみたいやし、それで意外とやっていけるもんやで?」
「……いやいやいやいやムリムリムリムリ!!」
「無理って……あんた冒険者になるんやったらそれくらいで……」
そこまで言ってデネブは思い出した。
「……そう言えば目的は男漁りやったっけか?」
「そうそうそうそう」
こくこくこくこくと頷くマーシア。
「せやったら、このおっさんはキツイか……」
う~~~~ん……と唸りながらデネブはミアから名簿を取り上げる。
適当にページを捲って良さそうな物件を探す。
「これはどうや?」
カタス・バメラ 男 26歳 剣士 ランクD 銀250~
「いや……年収が……」
「ほならこれは?」
ドイロ・カカギ 男 45歳 盗賊 ランクC 銀600~
「いや……年齢が……」
「じゃあこれは?」
マリア・シーモア 女 27歳 弓使い ランクC 銀450~
「いや……性別が……」
「あの~~……ウチは結婚相談所じゃないんですけど……」
盛り上がっている二人に物申すミア。
「なに言うてんのや職場結婚こそ出会いの王道やないか? 目的が目的なだけに、ここは慎重に選ばんといかんのや」
「そうよ。こっちは残り少ない青春をこれに賭けてるんですからね!! ……ちょっとこれ、似顔絵的なものは描かれてないの? 顔がわからなきゃ選びようがないわよ!?」
青春って歳なのかしら……とミアは思ったが、それを聞いたら頭をかじられそうな雰囲気だったので汗だけ浮かべて黙っておくことにする。
「しかし……どいつもこいつもパッとせえへんなぁ!!」
どのページを捲っても、いまいちコレと言う人材が見つからず自然とぼやきが出てしまうデネブ。それに乗っかってマーシアも愚痴をこぼす。
「……ここに載っている人ってあれでしょ? 他じゃなかなかメンバーが見つからないから、わざわざここで募集かけてるって事でしょ? 本当に優秀な人なら黙ってても人材は寄ってくるはずだから、この名簿で探してもラチがあかない気がする!!」
「ほんまやなぁ……言われてみればなぁ……結局は余りもんの寄せ書きみたいなもんやからなぁ……。ほんなら有名どころに直接直談判でもしに行くか?」
「そうね!! 妥協して選んでもしょうがないものね!!」
「ちゅうわけで、ミアすまんな手間かけさせて。邪魔したで」
そう言って名簿を返し、踵を返そうとしたデネブたちだったが、
「あ……あの……その…………」
ミアの表情が強張っているのに気が付いた。
汗ダラダラで引きつり笑いを浮かべながら後ろを指差している。
「なんやねん?」
その指の先へと振り返ると、そこには数人の冒険者風の男女が憤慨した表情で立っていた。
「おお!? びっくりした、な、なんやねんあんたら!??」
「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって……」
そのうちの一人。やたらガタイのいい、剥げた中年男が笑顔を引きつらせて歩み出る。
「俺の名前はバイラ・ゴンゴって言うんだ」
と、笑わない目で自己紹介してくる。
次いで後ろの者たちも、
「カタス・バメラ」
「ドイロ・カカギ」
「マリア・シーモア」
と次々名前を言ってきた。
それを聞いてデネブはつつつ……と視線をそらし、
「お~~とぉ? なんや聞き覚えのある名前ばかりやなぁ~~? えらい偶然もあったもんやで~~」
誤魔化し笑いを上げて、この場を取り作ろうとする。
「正真正銘本人なんだよ。いまお前たちがボロクソ言ってくれたなぁ??」
「あ~~? そやったんか?? そりゃあえらい失礼しましたなぁ、まさかこんなところにご本人たちがいるとは思ってなかったんや、堪忍してや??」
まさか今見たばかりの名簿の人たちがここにいるとは思わなかった。
こりゃマズったなと素直に謝るデネブだが、そんなことで罵倒された本人たちの怒りは沈まない。
「いいや許せねぇな。AクラスやBクラス冒険者に言われたならまだわかるが、お前らみたいな冒険者ですらねぇド素人に馬鹿にされちゃこっちも面子ってもんがあるからなぁ??」
「そやからゴメンって言うとるやんか? 堪忍やで? 悪気は無かったんやて」
ペコペコ頭を下げてマーシアと共に退散しようとするデネブだったが、その行く手に素早く回り込む影がひとつ。
ランクC盗賊のドイロ・カカギであった。
「だめだなぁお嬢ちゃんたち。人の面子潰しておいてタダで帰ろうとしちゃ……。こういう時はなぁ、ちゃんと出すもの出さないと収まらないもんなんだぜ?」
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