第4話 武器屋のお仕事④ バスタードソード
「相性ですって? ……それは、女の私じゃこの剣は重すぎて扱えないって事かしら……?」
リンが口惜しそうにネアリを睨む。
「いいえ、腕力の問題ではありません」
「じゃあ何だって言うのよ!?」
「戦闘スタイルの問題です」
「戦闘スタイル!?」
「はい」
そう言うとネアリは「ちょっと失礼」とリンの腕や足の筋肉を揉み始める。
「な、な、な、なにをするの!??」
「筋肉の弾力を見せて貰ってます……はい、やはりそうですね」
「????」
一通りリンの体を揉んで、ネアリは確信した表情でうなずいた。
「リンさん、本当は短剣使いですね?」と。
「なっ!!」
驚くリンの顔はそれが正解だと語っていた。
ネアリは理由を話す。
「筋肉の質がですね、重いものを持ち上げる筋肉ではなく、身体を速く動かす為の筋肉をしているんですよ。それに武器の扱い方も間違っていましたし」
「なんですって!?」
「バスタードソードやロングソードといった比較的大きな剣は、相手を切りつけるのではなく、本当は叩き殺す為の武器なのです」
「え??」
「相手が人間の兵士とかですと鉄の鎧とか装備しているじゃないですか? それだとどんなに切れ味のいい刃物でも切れはしません。なので実践では鎧の上から叩きつけ、その衝撃で相手にダメージを与えるのです」
「そ、そうだったの……」
まぁ、これは武器を扱う上での初歩の初歩なのだが、駆け出しの……それも傭兵ではなく冒険者志望ならば知らない人もいるだろう。
だが、それを言うとお客様の自尊心を傷つけてしまう事になりかねないのでネアリはそこは伏せて説明を続ける。
「でも、リンさんはカカシを攻撃した時、その切れ味に感動していましたよね? それであなたは元々、大型剣使いではないんだな、とわかったんですよ。
そして後は間合いの取り方ですね、私が剣を絡み取ろうとした時、リンさんはそれを防ぐ為に躊躇いなく前に出ましたよね? それは完全にインファイター……特に短い武器を扱う者の特徴です。だから短剣使いだと思ったんです」
ネアリの説明を聞いたリンは返す言葉もなくうなだれた。
それを見てネアリは慌てて言葉を続ける。
「あ。あわわわ……いえ、私は決してお客さんを落ち込ませたくて言っているわけじゃないんです!! だた、合わない武器を売りつけて、お客様の身を危険に晒したくないだけなんです。冒険者ってとっても危険なお仕事ですから……」
正直、この商売をしていると、自分の身の丈に合っていない武器を求めてくる人間は多い。やはり防具や道具と違って武器というのはその人間の強さを現す象徴でもあるから出来るだけ見栄を張りたい気持はわかるのだが……しかしそれを扱うプロの側から言うと、お客さんがそんな虚勢を優先して実力を出しきれず、命を落としていくのをみすみす黙って見ている訳にはいかないのだ。
まぁ店によっては、客に合っていようがいまいが金さえ貰えれば売る、という所もたくさんあるが、少なくともネアリはそんな商売をする気は無かった。
なので、多少もめるだろうとは思ったが、このバスタードソードは売れないと言ったのだ。
「と言うことで……それでもどうしても武器替えをお望みならば、まずはこのショートソードから慣らしていくのがおすすめです。いかがでしょうか?」
ネアリは手にしていたショートソードを逆手に持ち替え、リンに勧めた。
しかし、リンは悔しそうな表情で、
「…………めなの」
と唇を噛みしめる。
「え?」
「それじゃ、ダメなのっ!!!!」
叫ぶと、目に薄っすらと涙を浮かべてネアリを見返した。
どうやら事情がありそうだ。
ネアリはまずそれから聞いてみようと思った。
リンはつい先週、冒険者資格に合格したばかりだった。
冒険者になるにはギルドが認定する訓練学校で、ある程度の期間訓練を受けて試験に合格しなければならない。
リンはその訓練所で常にトップの成績をおさめていた優等生であった。
生まれつき身軽で運動神経の良い彼女は短剣を武器に選び、相手の死角に回り込み攻撃すると言うスタイルで、特に戦闘訓練では、負け無しの成績だったという。
そんなリンが冒険者への認定試験本番で初の黒星を付けられた。
相手は同じ訓練学校で学んだ同期の男。
その男は訓練学校ではけっして目立った成績ではなく、戦闘訓練でもリンには全敗していたはずの男だった。
結局その男は認定試験を主席で合格し、その特権としてDランク冒険者として登録される事となった。
対してリンはかろうじて試験は合格したものの、最底辺のFからのスタートとなったのである。
ではなぜ、リンがその男に負けたのか?
答えは武器の差であった。
訓練所ではみな備品の武器を使う決まりだった。
シュートソード、短剣、ショートスピア、ショートボウなどの、どれも初歩的な武器ばかりだったが、認定試験では自分の武器で戦うことを許されていた。
それでもリンは訓練で使い慣れた短剣がいいと、それで挑んだのだが、件の男は全く違う武器を用意していた。
それが、バスタードソードだったのだ。
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