第2話 武器屋のお仕事② バスタードソード
「いらっしゃいませ~~♪」
「ありがとうございました~~~~♪」
「いらっしゃいませ~~♪」
「ありがとうございました~~~~♪」
「いらっしゃいませ~~♪」
「ありがとうございました~~~~♪」
今日もこの言葉を何度繰り返しただろうか。
商売人のネアリにとって、この二つの言葉は商売繁盛の証。何度言っても飽きないものである。
「さて、そろそろお昼にでもしようかな?」
午前中の売上は、
修理の受け渡し5件 ―――― 銀貨10枚と銅貨30枚
調理用ナイフ2本 ―――― 銅貨70枚
薪割り斧1本 ―――― 銀貨2枚
の、しめてちょうど銀貨13枚である。
「上々、上々♪」
順調な売上に気分を良くして、彼女はカウンターの下から朝のうちに用意したお弁当を引っ張り出した。
奥に引っ込めば自宅キッチンがあるのだが、そこで食べていてもお客さんが来るたびに出ていかなければならないので、いつの頃からか店番をしながら食べるようになっていた。
今日のメニューは干し肉とトマトと葉野菜のサンドイッチである。
「ミルクを準備してぇ~~っと、いっただっきまぁ~~~~す♪」
はむっ、と食らいつくと同時に店の扉のカウベルが鳴った。
――――カランカランッ。
いい音を立てて開かれる扉。
入ってきたのは若い女性一人だった。
――――んがゴッゴっ!??
「ちょっと武器を見せてもらいに来たんだけどって……あなた大丈夫?」
タイミングの悪戯か、パンを喉に詰まらせてもがいているネアリを、呆れ顔で見つめている客の女性。
「んげほ、げほん――――ごくごくごく……ぷはぁ~~いらっしゃいませぇ!!」
ミルクで強制的に開通し、白いお髭をたくわえて営業用
「……ええ、ちょっと武器が欲しくて……見せてもらっていいかしら?」
「はい、もちろんごゆっくり。試し振りも出来ますから、その時はご遠慮無くおっしゃって下さいね♪」
「そう? ありがとう」
そう言うと女性は店内にある数々の武器を眺め始めた。
彼女の身長は170センチ弱くらいか? 女性にしてはかなり大柄だ。
気が強そうだが整った顔立ちに、後ろで結った長い金髪がとても凛々しい。
筋肉もしっかりついているが、太いわけではなく、しなやかに研ぎ澄まされた印象を受ける。
身にまとった皮の鎧と、背中に背負っている同じく皮で出来た小型の盾を見るに新人の傭兵さんか、駆け出しの冒険者だろう。
そんな風に彼女を観察しながら昼食をパクついていると、
「ねえあなた。これ、ちょっと試し振りさせてもらえる?」
と、彼女が一本の剣を持ってきた。
それは店の大型剣のコーナーに立て掛けてあった一振り。
バスタードソードであった。
戦闘用剣の中ではわりと使われている種類の剣だが、刀身が150センチくらいあって厚みもあり、重量もあるので使い手は選ぶ武器である。
確かに彼女も体格に恵まれてはいるが……。
「ん? なに、ダメなの?」
身体をジロジロ見ながら思案するネアリに訝しげな目を返す彼女。
「あ……いえ!! ……そうですね、ではこちらへ」
そう言ってネアリは店舗の横にあるもう一つの扉を開ける。
そこは店の脇にある訓練場につながっていた。
縦に長く整地されたその場所は、剣や槍の訓練に使うカカシや紐でくくられた木片が吊るされており、奥の方には弓矢用の的まで設置されていた。
ネアリは毎朝ここで訓練をしているのだが、営業時はお客様用の試し振り場へとその役割は変わる。
「へぇ……いいじゃない。まるで冒険者ギルドの試験場みたいね?」
なめし革の切れ端をワラで包んだ剣撃用のカカシをみて彼女は満足げな顔をする。
なるほど……駆け出し冒険者さんでしたか。
ネアリはその言葉尻を拾って彼女の正体を推測した。
「じゃあ、ちょっと試し切りしてもいいかしら?」
ウズウズしてバスタードソードを構える彼女。
片手持ち、両手持ち、両方出来るように柄は長く作られている。
彼女はどうやら両手で使うようである。
「もちろんいいですよ。やってみてください」
「ふふ……じゃあ……」
舌をペロリと、腰を低くして足場を固める――――しっかり握りしめた両腕を振り上げて、
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
と、思いっきりカカシに切りかかった。
――――ゾンッ!!
刃はカカシに10センチほど食い込み、そこで止まる。
「……く、あ、あれ? 抜けない……??」
皮との摩擦で刀身が抜けなくなってしまい慌てる彼女。
思いっきり力を込めるとようやく抜けるが、その反動で剣ごと後ろにひっくり返ってしまった。
「あいたたたたた……もうっ!!……カッコ悪い……」
赤面して起き上がる彼女。
しかし、切ったカカシの断面を確認して納得したように目を細める。
「……さすがバスタードソードね。こんなに深く抉れるなんて……」
そして彼女は惚れ惚れするようにその剣を眺めて、
「気に入ったわ、これを売ってくれるかしら?」
高揚した頬でネアリを振り返る。
だがそんな彼女にネアリはきっぱりと言った。
「申し訳ありませんが、これはあなたには売れません」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます