「この青がいいね」と君が言ったから八月七十七日はバナナ記念日
URABE
「この青がいいね」と君が言ったから八月七十七日はバナナ記念日
オッス!オラバナナ。しかもまだ青いバナナだ。
おっと。青いってオマエ緑じゃん!なんて野暮なこと言うなよ。日本では平安時代末期まで緑のことを「青」って呼んでたんだ。その当時は4種類しか色がなかったんで、赤、白、黒、そして青だけ。赤白黒じゃないやつは全部「青」にされてたって話だから、その適当さには笑っちまうよな。緑色の信号まで「青」とか呼んでて、海外だったらバカにされちまうぜ。
ちなみにオラはエクアドル産まれ。地図でオラの母国を一発で指させる奴はいるか?まぁ無理だろうな。エクアドルは南米の北西部に位置していて、右上がコロンビア、右下がペルー。って説明しても、腑抜けた日本人には分かんねーだろうな。
そうそう。なんでこんな真っ青な状態のオラが日本人の家なんかにいるのかっていうと、オラは昨日、横浜港にたどり着いたばかりなんだ。で、検疫を通った後に箱から落ちた。そこをたまたま通りかかった日本人に拾われて、ヤツが自宅へ持ち帰ったわけ。
・・・つまり窃盗だな。
この日本人が恐ろしいのは、バナナを食ったことがないのか知らんが、どう見ても青緑色のオラを房からもぎ取ると、強引に皮をむいて食べようとしたんだ。思わず「まだ食えるわけねーだろ!」って突っ込んじまったよ。コイツ、マジクレイジー。
で、皮がむけないんだから諦めればいいだろ?もしくはググるとかさ、青いバナナをどうしたら食べられるのか調べりゃいいじゃん?
ところがいきなり包丁取り出して、オラを真っ二つに切り始めたんだ。オイオイ!!半分にしたところでオラは食えねーぜ!
しかもまだまだ硬いオラには包丁もスムーズに入らねぇ。鉈(なた)で木片をぶった切るみたいに、オラをまな板に叩きつけてたっけ。
公開処刑はまだまだ続く。半分に切ったオラの皮をむこうとするんだけど、何度も言うけど熟してないからむけないんだよ。
それをバカなコイツはなんとかしてむこうと必死。てかむけるわけねーんだよ!オラ本体と皮はピッタリくっ付いてて、爪をくい込ませたって剥がれやしないんだから。
しばらく悪戦苦闘したヤツは、おもむろに何か取り出したんだ。なんだと思う?
答えは、ピーラー!!
エクアドルにもバカはいたけど、日本人は相当イカレてんだな。それでもアイツは真面目な顔して、ピーラーでオラの皮をむき始めたよ。たしかに皮むき使えばオラの皮も剥がれるけど、その前に「バナナの皮をむくのに、ピーラー使うヤツはいないだろ」ってことに気づけよ!
オラ本体と皮に隙間はないから、完全に皮を取り除くなら、本体も削らなきゃならない。アイツ、忌々しい顔しながらオラ本体も削ってたな。おかげでちょっとホッソリしちまったぜ。
んで次にどうするのかと思ったら、フライパンでオラを焼こうとするんだ。たしかに青バナナのベーコン巻きだの、青バナナのカレーだの、料理としては存在するけどな。
しかしコイツんちは「調味料」ってもんがまるでねぇんだ。あっても全部賞味期限切れ。それも2年以上前って・・・!!
最終的には油も引かず、オラはダイレクトにフライパンへと放り込まれた。
――強引に服を脱がされ、無駄にダイエットさせられたあげく火炙りの刑なんて、オラにとったら不本意マックス。何よりオラは1ミリも悪くない。すべてこのオツムの足りない日本人が悪い!
しばらくするとアイツは、オラをフライパンから直接つまみ食いしたんだ。で、なんて言ったと思う?
「かたっ!!マズっ!!」
信じられるか?!完全にオマエの間違えでこうなったっつぅのに、「マズっ!」はないだろ!オラのポテンシャルは甘くて美味いがウリなんだよ!
すると今度はスプーンでオラを潰しはじめたわけよ。とはいえ超絶硬いオラはそう簡単には広がらねぇ。たとえるならタイの屋台で売ってる「焼きバナナ」の感覚で、オラは強引に引き伸ばされたあげく、業火で熱せられたフライパンへ放り込まれた。
*
とりあえず残りのオラは健在だ。あと一週間もすりゃ食べ頃だろう。しかし、焼いたオラを食べたアイツの一言が、どうしても引っかかる。
「これ、イモじゃね?」
オラはイモを食べたことはないが、イモよりオラのほうが圧倒的にオシャレで美味いはず。アイツらは土の中で育った世間知らずの田舎者。対するオラは、太陽をたっぷり浴びて育ったクールでイケてる果実だからな。
とにかくイモなんかと一緒にされたかねーよ。本当に似てるのか似てないのか、それだけが気がかりだ。
「この青がいいね」と君が言ったから八月七十七日はバナナ記念日 URABE @uraberica
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます