第52話 一条マコト
「皆さん、次が最後のミッションとなります。クリアできれば、皆さんは『救済』されます。今回と同じように、ファイナルミッションまでは、かなりの期間が空きます。存分に英気を養っておいてください。それでは解散といたします。お疲れさまでした」
鈴木ツグルの言葉でサードミッションは閉幕した。
リョウタは黙ってそれを聞いていた。
サードミッション合格者は34人。
14人死亡。重軽傷者多数。
上位3名は一条マコト、ロジャー・ゴロフキン、ガルシア・ゴロフキン。
既にレアアイテムの選択も終わっている。
(次でデスゲームは終わる。だがサードミッションを生き抜くことができたのは、カルラのおかげだ。あの修行が無かったら、俺は死んでいただろうな…)
そう思いながらリョウタは床に寝かしてあるカルラを見た。
彼女の意識は、まだ回復していない。
リョウタは【自己治癒】を制限しながら使用し、一条から受けた傷とダメージをほとんど修復していた。能力の副作用である倦怠感は身体の芯に重く残っているが。
(厚かましいけど、矢野さんにカルラを診てもらおう)
そう思った時だった。意外な人物から声を掛けられたのは。
「…城戸、少しいいか」
一条だった。
「…ああ、この場所でいいなら。何の用だ?」
カルラの傍から離れるわけにはいかない。
「ヨシヒロさんのことだ。お前に伝えたいことがある」
「父さんの?」
「そうだ。ヨシヒロさんの死について、お前はどう聞いている?」
「え?」
唐突な質問だった。
リョウタの父親が死んだのは10年前。リョウタが答える。
「通り魔を取り押さえようとして、刺されたって聞いている。父さんの上司の人から」
「ああ、それは正しい。そして、その通り魔が捕まっていないことも知っているな?」
「もちろん知っている。母さんが死んでからは、日々の生活に追われて犯人どころじゃなくなったけどな」
「…そうか。俺はヨシヒロさんを尊敬していた。新人の俺にイロハを叩き込んでくれたからだ。だからヨシヒロさんを殺した犯人を許せなかった」
「…なんだ?一条、何を言いたい?」
「世間には公表していないが、犯人は子どもだった。それも10歳前後の」
「!!」
全く知らない情報だった。驚きながらリョウタが問う。
「ちょっと待て!あの事件の犠牲者は父さんだけじゃ…」
「そうだ。ヨシヒロさんの他にも3人殺された。時刻は23:45。事件は夜勤のヨシヒロさんがパトロールしている場所の近くで起きた。運悪くな」
「信じられない…。そんな子どもが大人を殺せるものなのか!?」
「証拠は防犯カメラの映像だけだ。夜中で薄暗く、距離もあったので顔は分からなかった。だが被害者は全員、頸動脈をナイフで断ち切られた。ヨシヒロさんも含めて一瞬で、だ」
驚愕に染まるリョウタ。
「…ますます信じられない話だな」
「だが事実だ。何事にも天才と言われる者が存在する。そいつは『殺しの天才』だ。特筆すべきは捜査本部が組まれ、500人体制で捜したにも関わらず、逃げ切っている点だ。10年間もな」
「知らなかった…。でも何故、その話を?」
「犯人が分かったからだ。この島に来て」
「なにッ!?どういうことだ?」
リョウタの語気が強まる。
「…ナンバー6の双葉トオルの死体をお前も見ただろう?通り魔と同一犯だ。手口と傷が完全に一致していた」
「ッ!!」
運命というパズルのピースが組みあがっていく。
「それじゃ…父さんを殺したのは、アイ…?」
「双葉トオルの犯人に気付いていたか。そうだ、黒崎アイ。ヤツがヨシヒロさんの仇だ」
レナと父親を殺したのは同一人物。
ここまでくると、偶然を超えた運命を感じずにはいられない。
リョウタは素早くミッション会場を見渡す。
しかしそこにアイの姿は見当たらなかった。
「…お前はヨシヒロさんの息子だ。伝えておいた方がいいと思ってな」
そう言って一条は去ろうとした。
が、立ち止まった。
「…気付いているか?このプログラムのことを」
「何に?」
一条の質問が抽象的過ぎて、返答に困るリョウタ。
「今までのミッションには意味がある、ということだ。運任せではなく、正しい選択と行動をした者が生き残るようにできている緻密な設計。このプログラムは恐らくは―――」
そこで一条は言葉を区切った。
「…いや、やめておこう。憶測を口に出すのは性分じゃない」
そう言って、今度こそ一条は去って行ってしまった。
一条と闘い、リョウタにはまだまだ距離があると感じた。
しかし、以前のような絶望的な距離ではなくなっている、とも。
(考えることは沢山あるが、一度冷静になろう)
そう思いながら、数回深呼吸する。
(…まずはカルラを診てもらわないとな)
カルラを抱きかかえる。所謂、お姫様抱っこで。
その軽さにリョウタは驚いた。
あんなに強いカルラが、こんなにも軽い―――
やるせない気分になる。
美しいグリーンの瞳は閉じられている。
シルバーの髪の毛が数本、鼻にかかっていた。
(待っていろよ、カルラ)
カルラを抱えたまま、リョウタは足を踏み出した。
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