第22話 セカンドミッション②チームメンバー
しばらくタブレットを見つめていた矢野が溜息をついた。
「やはり、バラけてしまったね…」
リョウタは一条とカルラと同じチームだという衝撃からようやく抜け出した。
仲間たちのチームを番号の若い順から確認していく。
ナンバー4のアイがAチーム。
ナンバー9の矢野がDチーム。
ナンバー10の後藤がGチーム。
ナンバー44のヤヨイも同じくGチーム。
ナンバー96のレナは矢野と同じDチームだった。
(レナと矢野さんが同じチーム!良かった…!)
リョウタは深く安堵した。
自分のこと以外で一番心配していたのは『レナが1人にならないか』ということだった。
昨日の夕食前にリョウタはレナに聞いていたことがある。
『レナ、どうやってファーストミッションをクリアできたんだ?』
『なんですかぁ、その意外そうな顔!失礼しちゃいますねー。リョウ兄さんは知らないでしょうけど、あたし、運動神経いいんですよ?』
ドヤ顔でそう言った後、『ほあっ!?』と叫んでレナは椅子から転げ落ちた。
リョウタはその話を全く信用できなかった。
「まあ全員がバラバラにならずに良かったと考えよう。だが、アイくんと城戸君が心配だね」
矢野の言う通り、チーム内に仲間がいないのは、この2人だけだ。
「いえ、私のチームには一条さんと月宮さんがいますから。その2人とは顔見知りではありますし。でも黒崎さ…じゃなくて、アイのチームには知っている人が誰もいません…」
リョウタが言う通り、Aチームに所属するナンバーは見たことが無い数字ばかりだ。しかもアイのナンバー4はチーム内では圧倒的に順位が高い。なんと、アイの次の数字は40番台なのだ。
皆の視線がアイに集まる。
アイはいつもの微笑みを浮かべ、こう言った。
「皆様、ご心配ありがとうございます。これも時の運です。致し方ありません」
そう言われると、返す言葉は何もなかった。
先ほどまでの怯え方が嘘のように、ヤヨイが後藤の体を叩きながら話している。
「いやー、後藤っちと一緒で良かったぁ!あ、ウチが危なくなったら、助けてくれる…?」
更には上目遣いでのお願いだ。後藤は真っ赤になりながら答えた。
「ま、任せてよ!」
後藤らしからぬ力強い発言に、リョウタは「おっ!?」と思う。
(これはまさか後藤のヤツ、ヤヨイに気があるな…!)
中年になりかかっているリョウタにとって、微笑ましい光景だ。
それからリョウタは矢野の前に立って頭を下げた。
「矢野さん、レナのことを宜しくお願いします」
「ああ、分かっている。城戸君も気をつけてな」
「リョウ兄さんって、どんだけあたしのこと低く見てるの!?そっちの方がナンバー下なのにさ」
レナはプンスカしている。
「いいから、矢野さんの言うことをよく聞くんだぞ?」
ルナとレナは別人だ。だがそこには確かに兄妹のような絆があった。
各自、それぞれのトラックに向かい始める。
その時、リョウタは声をかけられた。
「リョウタさん…」
アイだった。先ほどとは異なり、悲痛な顔をしている。
「アイ…。やっぱり怖いのか?」
アイは黙って首を振った。
「…怖いのは、あなた様と二度と会えなくなるかもしれないことです。どうか、どうかご無事でいてください。必ず、市街地でまたお会いいたしましょう」
そう言うと、アイはリョウタに抱擁した。
女性の甘い香りが立ち昇ってくる。
リョウタの心臓が高鳴る。頭もクラクラしてくる。
名残惜しそうにアイは離れ、自身のトラックに向かって行った。
Bチームのトラックに向かう道すがら、隣のCチームのメンバーが確認できた。チームにはガルシア・ゴロフキンと如月クレアの姿がある。クレアは隣にいる金髪の男と話している。距離が近づくにつれ、会話が耳に入ってきた。
「あ~もぉ、このリュック重すぎて持ってられないわぁ。ケンジ君、持ってくれないかしら」
ケンジと呼ばれた金髪の男はすぐに答える。
「分かりましたよ、クレアさん。持つんで渡してください」
リョウタはそのまま通り過ぎようとしたが、雷に打たれたかのように立ち止まった。
(あの金髪、昨夜に如月クレアとイチャついていたヤツじゃないか!それに何か違和感が…。……!口調だ。口調が違う!あの時は敬語を使っていなかった!)
別人のようだが、あの金髪を間違えるわけがない。
だがそんなことを質問するわけにもいかない。
納得できないまま、リョウタは自分のトラックに歩き出した。
Bチームのトラックの前には、すでにメンバーが集まっていた。
カルラが勝ち誇った顔で近づいてくる。
「オッサン、だから言ったでしょ?『群れても意味は無い』って」
「……」
反論できないリョウタ。
だがカルラから話しかけられるのは初めてのことだった。
そんなリョウタの姿に満足したのか、カルラは笑顔で戻って行く。
気を取り直して、リョウタはチームメンバーを見渡す。
一条はトラックにもたれ掛かり、目を瞑っている。
一条とカルラを除いたナンバーは30、42、59、63、70、88の6人だ。
ナンバー42は、地味な出で立ちの30代女性。
ナンバー59は、逞しい体つきをした20代男性。
ナンバー63は、20歳くらいの男性だ。目が前髪で隠れている。
ナンバー70は、髪の毛が後退した50代男性。
ナンバー88は、気が弱そうな40代女性で先ほど鈴木に質問した人物だった。
(30位は?)
リョウタがそう思った途端、後ろから声が掛かった。
「へえ、おたくがナンバー99?僕はナンバー30の水野タクミだ。よろしく頼むよ」
そう言って握手を求められた。
日焼けした肌、パーマのかかった髪に髭を伸ばした男だった。
(同い年くらいか?)
リョウタは瞬間的にそう思ったが2人は似ても似つかない、というよりも、真逆の見た目をしていた。
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