第28話

「・・・『昇華』完了」

 首元の鈍い光が消えたのを見て、有夢は小さく呟いた。


「『ためい気』の素となる後悔が消えた時点で、私を含めた修正前の記憶が消える」

 でも、と彼女は付け加えた。

「アオイは、これで本当に幸せになったのかしら?」



 屋上の階段塔に登っていた有夢は、足元から一組の男女が出てくるのを見ていた。

 どうやら男が呼び出した様だ、この前の返事はどうかと聞いている。


 すると、女の子はペコンと頭を下げた。

「ごめんなさい、大友君の事は、友達としか見れない」

 深々と頭を下げられた男は、動揺を抑えながら訊いてきた。

「どうして?」


「私、結婚してるの」


「そ、か・・・え!?」

「じゃ、そゆ事で」

 ポカーンと口を開けている男を尻目に、アオイは踵を返すと軽快なステップで階段に向かった。


 階段塔に腰掛けている有夢と目が合う。


「今度から見学料とるわよ、覗き魔さん」

「ども」


 有夢の敬礼を見ないうちに、何かを呟いたアオイは階段室に飛び込んだ。



「・・・ありがとう」


 有夢の耳に、彼女の言葉はそう聞こえた気がした。



 まさか、ね。

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