『ネズミ』戦
ゴリアテが倒れた。
首から花が開くように大量の血を吹き出しながら。
それと同時にルドーはさっきの教官の言葉を理解した。
ゴリアテは”頸”をやられたのだ。
それと同時に教官からニアへの怒号。
慌てて杖をかまえ回復の詠唱を始め、ゴリアテの回復に専念するニア。
隣にいるカミナはダガーをかまえ辺りを見渡している。
アルトは後方に立ち、既に銃に魔法を込めていつでも撃てるようにしていた。
その銃は王国軍の使うような金属製のマガジンが付いている銃ではなく、一発撃つごとに火薬と弾を装填しなければならないのだが、複製の魔法をかけることでその煩わしさを解消していた。
そしてヴィルは前方を睨みつけ瀕死のゴリアテに追い打ちをかけ仕留めようとしている未だ見ぬ『ネズミ』を探していた。
教官は落ち着き払って自分たちのことを眺めていた。
しかし俺はそこで立ちすくんでしまっていた。
ピクシーに対する命の略奪はしたことがあっても対等な奪い合いはしたことがなかったからだった。
俺たちを激励するように教官が大きな声を上げる。
「奴らは迷宮の壁にある穴の中に潜んでいる!そのままでは攻撃ができない!出てきた瞬間を狙え!」
直後に自分の背後から音がする。
小さな穴の中から這い出てきたネズミがその小さな体から出来るとは思えない凄まじい跳躍をし頸を狙ってくる。
あ…
銃声が鳴り響き、硝煙の匂いがする。
「おい!しっかりしろよ!中衛さんよ!隣のやつはもう3匹は仕留めてるぞ!」とアルトが言う。
ふとカミナの方に目をやると紐に付けたダガーを穴から這い出てくるネズミに器用に投げつけ、それを引き戻し、一体一体仕留めていた。
俺はそれを見てようやくやる気が出てきた。
いや、やる気とは違う、覚悟のような何かが決まったようだった。
自分は片手で振れる大きさの素朴な鉄の剣を使っている。
小さなネズミ相手には少しやりにくいが仕方ない。
アルトが仕留めてくれるだろう。
飛んでくる黒い影に剣を振りかざす。
ジュッ、というネズミの断末魔のようなものが聞こえる。
俺は穴に近づかず、出てきて跳躍してきた時を狙って叩き切る。
ヴィルは腕に着けた盾で払ってネズミを踏み潰していた。
ニアはゴリアテの治療を必死でしている、おかげでゴリアテは死人にはならずに済んだようだったが、まだ予断を許さない状態らしく、身動きができなかった。
そしてアルトは治癒魔法を詠唱しているニアに近づいてくるネズミを片っ端から撃ち殺し、既に俺の倍は仕留めていた。
せっせと斬っている自分が馬鹿馬鹿しく思えてくるがやらなきゃ行けないことだから仕方がない。
どれだけ自分は戦っていただろうか。もうよく分からないくらい戦った後、ようやくネズミの群れは引き上げ、迷宮に静寂が訪れた。
その頃にはゴリアテもほぼ完治していて、皆に申し訳なさそうに謝っていた。
しかし皆はゴリアテが生きていたことに対してホッとしていた。
そして教官もゴリアテに対して
「前衛としての役目は果たしていた」
と言っていた、本当にそう思っていたかは分からないが、確かにあそこでゴリアテが攻撃を受けずに敵に囲まれていたとしたら四方八方から襲われて全滅していたかもしれない。
そう考えるとゴリアテは確かに前衛の役目は果たしていた。
そして教官からは今日は寮に帰ってゆっくり休むようにと言われ、風呂と歯磨きをいつもの様に済ませ、寮母の干したであろうベッドに眠った。
俺とアルトは相部屋だが、今日は2人とも疲れたためか一言も発する間も無く眠りに落ちた――――――
そしてパーティーは仮のパーティーではなく、本当のパーティーとなった。
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