第4話
物騒な単語が出てきたことに縮こまりながら、ララはひきつった笑みを浮かべた。フランチェスカは自分が言ったことなど気にした様子もなく明後日の方を見てぶつぶつと呟く。
「そうねえ……。幸いにしてわたくし、婚約者殿に顔を知られているわけではないみたいだし、素知らぬふりをしてお側に上がってみるのもいいかもしれないわ」
「お側にって。まさか、身分を明らかにしないまま近づいて誘惑するんですか。どうなんでしょう、それは浮気に入るんでしょうかね」
「あら、わたくし自分の地味さと女としての魅力についてはよくわかってるわ。誘惑だなんてそんな身の程知らずなこと、するもんですか」
「そうですよね。びっくりしました」
自分でけしかけてはみたものの、何を言い出すのかと焦ってしまったララは、返事をしてから(いまの相槌はかなり失礼ではなかっただろか)と振り返りかけたが、そんな暇はなかった。
「潜入捜査よ。地味なら地味でやりようがあるの。王太子付きの侍女の一人として、身辺を調べにいってくるわ」
意気揚々と、フランチェスカが何かとんでもないことを言い出した。
「え? フランチェスカ自らがですか?」
「身分を偽って誘惑するより、よほど現実的よ」
「それで侍女をするんですか? 働くんですか、王宮で」
公爵令嬢が? と疑問符いっぱいに聞き返したララに対し、フランチェスカは何をいまさら、とばかりにいたずらっぽく微笑んで言った。
「もちろん。わたくしこう見えて、結構仕事ができるわよ。どこにいてもたびたび侍女と間違われてきたけど、いちいち注意するのも面倒になってしまって『はーい、かしこまりました』って御婦人方のお世話をしてきたこと、一度や二度じゃないの」
「一度や二度じゃないって。どこで何をなさっているんですか」
「しかもね、聞いて。地味であるというのは、なぜか『真面目だけが取り柄』とセットにされやすくて、『陰日向無く働くひたむきな努力家』であることを期待されるものだから。つい、その期待にこたえるべく真面目に働いて、仕事覚えちゃった。わたくし、旅行に出ても自分のことは自分でできると思うわ」
「正体を知った皆さん、生きた心地しなかったでしょうね」
最小限の相槌にとどめたララに対し、フランチェスカは微笑んだまま言った。
「ほとんどバレたことないから大丈夫よ。まず、誰も気づかないまま終わったわ。わたくしの侍女スキルはそのたびに磨かれてきたから、信用して」
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