第3話

 にこ、とフランチェスカは頬に力を込めて微笑む。


(いけない。迂闊なことを言ってしまった)


 ララは背中を冷や汗が流れるのを感じつつ、「会いに行ければいいんですけどね~!!」とことさら明るく言ってみた。

 すん、と鼻を鳴らしてフランチェスカは一口サイズのフィナンシエを食べると「そうね……」と思案げに呟く。


「わたくし、周りが気をもむほど自分の容姿に興味関心がないの。それはたしかに、マリアベルと並ぶと『似ているけど、残念』なんて言われるけれど、余計なお世話。それでお母様もマリアベルもちょっと気まずい空気になるのがいたたまれないだけよ。たしかに、世間の『ご令嬢方』に関しては、不満もわかるの。『あれで王太子妃なら、自分だって』と考えてしまうのじゃないかしら。譲れるものなら譲ってあげても一向に構わないのだけど、こればかりは。顔で、選ばれたわけじゃないので」


「だけどマリアベル嬢に話がいきかけたってことは、顔で選び直そうとはしていますよね、王家」


 フランチェスカから鋭い視線を投げかけられ、ララは自分の口を両手で覆った。しかしフランチェスカは特に咎めること無く、続けた。


「だから貴族のご令嬢方がざわつくのよ。どうかしていると思うわ。姉と妹、同じ公爵家だし婚約者交換しても良いかも、だなんて。いったい誰の発案だったのかしら。まさかの王太子?」

「だったらどうするんですか?」

「控えめに言って、ゆるさないわ。そんな些末なことで国を揺るがしてどうするつもりかしら」


 フランチェスカは、ぱらりと扇を開いて自分を軽く仰ぐ仕草をする。

 ララは、静かにカップのお茶を飲んだ。


 王太子妃が誰であるかは「些末」なのかどうか少しばかり悩んだが、それを口にすることはなかった。

 そもそも、フランチェスカは高位貴族の中でも未来の王太子妃であり、ほとんど頂点に位置しているはずなのに、鷹揚で細かいことを気にしないところがある。

 そうでなければ、男爵などといった下級貴族の令嬢と分け隔てなく付き合ったりはしないだろう。

 それでいて、父親譲りの一本筋の通った性格ゆえに、頑固な面も持ち合わせている。


 今現在本人が気にしているのは「自分が軽んじられたこと」ではなく、「王太子が軽々しい振る舞いをすること」らしい。本人がそう言うのなら、そうなのであろう、とララは結論づけた。


「どうにかして真相を確認できたらいいですね。今はカール殿下とまったくお会いできていない状況なので、ここで何を言っても憶測だけです。できればご本人様の意向を確認できたら良いかなと。まだ結婚まで間がありますので、いまのうちに」


「婚約破棄するなら、早い方がいいってこと?」


「そこまでは申し上げておりませんが」

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