《修行中の半亜人》:日常①
「ちょっ、ちょっと待って。早い、早すぎる!」
膝に両手を乗せ、肩で荒く呼吸をしながらティルが先導し続けている少女に叫ぶ。
「……」
少女が若干、不服そうな表情を見せたものの、限界を超えかけているティルを一瞥しこれ以上走り続けるのは無理だと判断し、停止する。
「もう、ちょっと、待ってて。息を、整え……整えてから、ね」
未だに収まらない胸の動悸、この場合は激しく打ち鳴らす心臓の静脈、に苦しみつつ、息も絶え絶えにティルが言葉を紡ぐ。
汗一つかいていな少女が石畳の上を片足で跳びながら近づいてくるのを視界の端で捉え、ティルが尋ねた。
「なんで、そんなに、走りたがるの。周りに人はいないんだし、走った方が、怪しまれちゃうと思うよ」
それに、とティルは続ける。
「どう考えても君のほうが身体は細いし筋肉もないのに足は僕より早い。たぶん、レベル10なんだろうけどそんなに離れてはないんだろうな」
見たところ、少女はヒューマンである。
ドワーフの血筋によって素体が良いティルを遥かに上回る体力。
もはや、異常といっても問題ではない。
家を出発したころから少女は一気に変貌した。
それまでは、しおらしくしていた思えばいきなり全力で5分ほど走り続けていた。
何とか見失わずに済んだのは奇跡に等しい。
ティルは息をようやく整え、額に浮かんだ汗をぬぐった。
「……」
無論、少女がティルの独り言に答えることはなく、ただティルを静かに見つめている。
「もしかしたら、僕よりも遥かにレベルが上なのかもしれない……」
無表情なままの少女を観察したとしても何の答えも得られまい。
跳びはねる事に飽きたのか、それとも待つ事に疲れたのか少女が先に向かおうとする。
「ほら、手を貸して。次、走られたら、今日は地帯に行けなくなっちゃう」
ようやく息が整い、歩き始められるほどまでに体力を回復させたティルが提案した。
戸惑っていた少女だが、おずおずと左手を差し出す。
「じゃ、ウォーロックさんのパン屋に行こう。朝は焼き立てのパンが沢山あるだろうから、それを買ってどこかで食べよう」
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