躍動の物語

《修行中の半亜人》:邂逅

 苦しくなったお腹を抱え、ティルは帰路についていた。


途中で眠ってしまったシエラをソーイの家に預け、リーエスと途中で別れて夜道を一人で歩いている。


中央広場に寄ってから帰ることも考えたのだが、流石に出店はもう閉まったと思い、疲れた身体を引きずりながら家に向かっていた。

決して治安が良いといえない外周地域ではあるが、レベルという概念が世界を支配している今、外見だけで人の強さを測るのは愚かなことだ。


愛剣の柄に手をかけ、ティルはあえてゆったりと歩くことで余裕感を醸し出し、強者としての驕りを影からこちらを見つめている幾人かの影に見せつける。

何分かしてようやく気配が消え、額に浮かべている玉のような汗を手の甲で拭う。

恐らくは盗賊や強盗などを生業としている連中だろう。数人で襲われでもしたら一巻の終わりだ。


家につく頃には緊張のため首筋に痛みを感じるほどで、自分の部屋に入ることでようやく緊張感から解放され、着の身着のままでベッドへと身体を投げる。

そのまま手放しそうになった意識を既の所で保ち、なんとか服を着替える。

シエラと市場で買った服に皺が寄らないように梁に吊るし、濡らした布で身体を拭く。


お湯を使えるのは限られた人間のみで、石鹸なども高級品である。

よって一般的には水霊系統の洗浄魔法などを使って身体を清めるのだが、魔法の使い方分かったとしても魔力を温存するために、こうして身体を拭いているのだ。


元々あまり汗をかかない体質や、肉食ではないのも相まって何とか人を不快にさせずに一週間ほどは体臭を抑えられるのだが、週に一度、大衆風呂へ行き身体を洗うことは忘れない。


身体を隅々まで拭き終え、布を洗って干した所で外がいつにも増して騒がしい事に気がつく。

野良犬の遠吠えや酔った労働者の叫び声ではなく、何人かの人々が定期的に何かを大声で話しているのだ。


ヒビが幾筋も入っている窓ガラスから外を覗くと、白い服を着た男たちが向の家の主人と何かを話している。


すると突然、部屋の扉が激しく叩かれ、ティルを飛び上がらせる。


「ど、どちら様ですか」


答えはなく、乱暴に扉が叩き続けられている事に恐怖したティルは剣を引き抜き、扉へと近づく。


「あ、あの。どういったご用件でしょうか」


次第に激しさを増していくノック。

このままでは扉が破壊されると直感したティルは扉を勢いよく引き、来訪者を留まらせようと剣を構える。

だが、来訪者は勢い余ってティルの部屋に転がり込み、そのままベッドの下に潜り込む。


その身のこなしがあまりにも素早く、動物が部屋に入ってきたと勘違いしたティルは大慌てでベッドの下を覗き込み、正体を確かめる。

だが、そこにいたのは……


「え……女の……子」

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