通じ合う心(終わらぬ戦い)
そしてまた欄干にそろって立って、下に見える隠れ里を眺めた。
今度は二人で寄り添いながら。
「新川さん、せっかく恋人になったんですから、呼び方も変えてみませんか」
ミコさんの体温が、直に右半身に伝わってきて緊張していて、「う、うん。そ、そうだね」と変な返事になってしまった。
「修平とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「は、はい。どうぞ、呼んでください」
「修平、緊張していますか?」
「あはは。分かる?」
「分かりますよ。凄いドクドク言っていますから」
俺の心臓の鼓動を聞かれているようだ。
こんなに近い距離にいるんだから、当然か。
「私のことは、同じようにどうか名前を呼び捨てでお願いします」
「じゃ、じゃあ、み、ミコ」
「はい。何でしょうか、修平」
少しテンション高めなミコが可愛くて、また少しだけ鼓動が早くなった気がする。
「こんなことを聞くのもあれかもしれないけど、どうして俺なんだ?レベル1だし、何もかっこいい所を見せられていないと思うけど。ほとんどアリスが戦っていたし」
俺がミコに見せられたのは、アリスに戦いを任せて、単に剣の荷物がカリのようなことをしていた姿でしかないと思うけど。
「何を仰っているんですか。例え、後ろにいようと戦いの場にいたことは変わりません。むしろレベル1であの場にいたという事を誇るべきです。本来ならば、逃げて当然ですよ」
それは俺がいないとアリスが戦えないし、もしアリスが戦えなければ俺は死ぬしかない。
だからあの場にいただけだ。
「誰が戦っていたか、誰が倒したかではなく、どう立ち向かったかです。だから修平は、とても強いんですよ。私でさえ、恐怖に呑まれてしまう相手にも、最期まで逃げませんでした。それに……」
俺の手をミコは握った。
「私を励まし、その手で私を支え続けてくれた。そして私の心の淀みを、受け止めて下さりました」
ミコの小さな手と指を絡めあい、恋人つなぎに自然となった。
「それだけでは、私が修平をお慕いする理由にはなりませんか」
見つめられると、恥ずかしさで目を逸らしてしまう。
「い、いや、分かった。なんていうか、恥ずかしいからもうやめてくれ」
「そうですか。恥ずかしがる顔も可愛いです」
逆の方向を向いて、自分の顔を整える。
ミコに翻弄されてばかりだ。
カッコよくリードするなんて、俺にはまだまだだった。
「それに、役目や価値観に囚われずに自由にしている姿は、私のようなものには眩しいんですよ」
「俺だって、全然囚われているよ」
「ふふ、どこがですか。王族であるアリスに気後れもせずに文句を言ったり、レベル1で魔王の幹部と戦ったり、私の汚い所にも平気で綺麗なことを言ってくださったりしているじゃないですか」
「それは、常識知らずというんじゃないか」
俺が意識せずにやっていたことは、実は自由奔放に見えていたのか。
次からは気を付けよう。
「修平、私は自由になりたい」
ミコは隠れ里を見下ろして、そういった。
「修平とアリスと共に、外の世界を巡ってみたい」
俺にしか聞こえない声でつぶやく。
「役目があるんだろう」
「はい。とてもとても重い役目が」
「それを投げ出して良いのか」
「いいえ」
沈黙が下りる。
しかしそれは嫌なものではない。
恋人つなぎをしている手から、ミコの感情を読み取ることができるような気がしたから。
「投げ出して、自由になっても、きっと後悔するでしょうね。私はそういうエルフです」
「ミコは生真面目だからな」
「そうですね。いつか、きっとかなわないですけど、役目が終われば一緒に里の外の世界を見て回ってくれますか?」
「もちろんだよ。ミコのためなら、俺のできることを全力でやってやる」
「頼もしい。お願いしますね」
恋人つなぎの手を、お互いに強く握りあう。
それが一番の約束の方法だと、理解し合っていた。
そんな自然とつながっているような感覚が、心地よくてくすぐったい。
お互いに顔を見つめ合って、そして同時に笑いあう。
そのミコとシンクロした動作に、少し嬉しく思った。
その時、ゴゴゴゴと地鳴りがして、展望台が揺れる。
「なんだ!」
ミコを引き寄せて、咄嗟に彼女をかばう。
「わ、分かりません。地震でしょうか、滅多にないんですけと」
「地震なら、しばらくしゃがんで待っていれば……」
しかし地震ではないことは、近くに生えた何かによって証明された。
その何かは、暗闇の中でビュンビュンと動き回る。
そしてユグドラシルの幹や里の飾りに当たって、それを壊していく。
展望台よりも高い所まで伸びたそれは、高さ100メートルほどのしなやかな円錐状のをしている。
しかも表面に何かの模様が、怪しい紫色に光っていた。
鞭のようにそれは右に左に振り回され、そこにあるものを薙ぎ払っていく。
下でエルフたちが慌てながら、迅速に避難しているのが見える。
「俺たちも逃げよう」
俺はミコに言うが、彼女はその紫色に光る何かを目を見開いて凝視していた。
何があったのか分からないが、あれがここを壊したらミコはもしかしたら助かるだろうが、俺の助かる保証はない。
呆けているミコを引っ張って、展望台の階段を駆け足で降りていく。
タタタタと会談を下りて、後ろでダンと大きい音がする。
振り向くと、展望台は粉々に砕けていた。
良かった、逃げだしておいて。
それでもまだ安心はできない。階段を降り切らないと。
「ミコ様、新川さん!」とカエデさんの声が下からする。
「ここです!」と声を掛けながら降りると、カエデさんはすぐに表れた。
「大丈夫ですか」
「はい。ただミコが、こんなで」
何か小さく呟きながら呆けているミコをカエデさんに預ける。
「新川さんもつかまってください。ここから飛び降ります。ここは危険です」
差し出されたカエデさんの手を取ると、カエデさんは近くの壁を蹴り破り、外に飛び出した。
アリスのジャンプを事前に経験しておいてよかった。
そうでなかったら、俺は間抜けな叫び声をミコに聞かせる所だ。
着地して、そこで集まっているエルフたちと一緒にあの暴れている何かから逃げる。
ユグドラシルが良く見える高台まで、全員で避難して、やっとそれが何か見えた。
相変わらず、それが何か分からないが、ユグドラシルの生えている地面から生えた高さ200メートルはある巨大な触手みたいなものが暴れている。
ユグドラシルの幹に当たるが、何かで守られているのか、幹には何のダメージも入っていないようだ。
ガリアさんはまるで鬼のような顔で、あれを見ていた。
「ガリア、あれは、確かにそうですよね」
呆けた状態から、やっと元に戻ったミコはガリアさんに尋ねた。
ガリアさんは大きく頷く。
「はい。間違いありません。あれは自分の記憶とも合致しています」
何を確認したのか、いまいちわからないが、二人の記憶にあるものならば、何か解決方法を知っているのかもしれない。
「ミコ、あれは何なんだ。何故、ユグドラシルからあんなものが生えてきているんだ。ユグドラシルっていうのは、何なんだ」
俺が尋ねると、ミコは答えた。
「あれは、邪悪龍ディアボロ。私たちが、生き残ったエルフが魔王との戦いから離れ、この隠れ里を作った本当の理由です」
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