反省会(魔法)
ガリアの治療をしている間、俺たちは神社の初めて会った部屋に集まっていた。
アリスは胡坐をかき、ミコは礼儀正しく星座をしている。
「申し訳ありませんでした。私のせいで……」とミコが一番に口を開いて、頭を下げて謝ってきた。
「謝らないで。ダークナイト・グランドに、ミコたちを攻撃させるすきを作ったのは、私だもの」
「でも……」
「俺もミコさんに頼り切っていて、避けられる時に避けていなかった。ごめん。ちゃんと自分の身は自分で守るべきだった」
最後のダークナイト・グランドのナイフの攻撃も、自分は最初から最後まで見ていたのにちゃんと対処できていなかった。
お互いに自分の反省点を言って、反省会のようになってしまう。
「ダークナイト・グランドの戦闘能力を見誤っていたわ。まさか新しい力を手に入れてくるなんて、思ってもみなかったわ」
「アリスは精一杯戦ってくれました。あの時追い詰めていたのに、私が防げなかったせいで逃げられてしまいました。私の責任です」
「そんなことないって、ガリアさんも言っていただろう。ミコさんだけが責任を感じる必要なんてないんだよ」
どよんと顔を曇らせて、自分の責任と繰り返すミコさんを慰める。
「それにしても、ガリアにあんな秘策があったとはね。先にってくれれば、一緒に戦えたのに」
アリスはポリポリとお茶菓子を食べながら言う。
「でもガリアさんが言うには、あの一本だけしか効果はないみたいだった。他の奴はダークナイト・グランドの飛ばしてきたナイフを落とせないくらいのモノだったし。何か制約があるのかもしれない」
「そうね。それに、あの肩だと次のダークナイト・グランドとの戦いでは弓を使えないから、もう頼りにはできないわね。何とか別の手を考えないと……」
ダークナイト・グランドには逃げられた。
現在はエルフたちに、ダークナイト・グランドの潜んでいる場所を捜索している所だ。
ダークナイト・グランドはあの後、影を使ってどこかへ移動したというそうだ。エルフ達は跡を追ったが、逃げられてしまったらしい。
「別の手って何かあるのか」
「ないわね。とにかく、ダブルっていう分身技が相性が悪いわ。どうにかして封じる手立てを考えないと。あるいはダークナイト・グランドを確実に当てて、一回で吹き飛ばせる技を手に入れるとか」
「魔法というのか技というのか分からないけど、あれって封じたり発動できなくできるのか?」
そもそも俺はこの世界の戦いについて知らな過ぎる。
「魔法は魔力がないと発動できないわ。魔力を消費させるっていう手もあるけど、それを狙って起こすのは難しいわ。強い魔法を発動するためには、その条件がある場合があるのよ。例えば、私の場合は剣を持っていないと発動できない魔法があるわ」
「あのプロミネンス・エクスプロージョン・セイバーとかいうやつか?」
一振りで巨大な岩石の巨人の半分を吹き飛ばすほどの威力の魔法。
「そうよ。それだけじゃなくて、他にもあるわ。それと同じようにダークナイト・グランドにも何か条件があるはずだわ。それが分かれば、もしかしたら封じられるかもしれないわ。新川、戦いを見ていたのでしょう。何か気づいた事ってある?」
「ないな。魔法を発動する時に、何かを使っているっていう事だよな」
「そうよ。何か感じなかった?」
ダークナイト・グランドとの戦いは激し過ぎて、何が何だか分からなかった。
影の魔法を使っているのは分かったが、それが何の条件で発動しているのか。
「分からない。アリスと同じように大剣を使っていたり鎧を着ていたりすることが条件だったりしないのか?」
「あり得るわね。だとしたら、ダブルを封じるなんて不可能ね」
アリスは呑気な声色で言った。
「それはまずいんじゃないのか。ゆっくりしているけど」
「そうねぇ。ダークナイト・グランドが何を目的としているのか分からないから、何とも言えないのよね。私の予想だと動かないって思っていたのに、今日森の中で何かをしていた。もしかしたら、ダークナイト・グランドには時間がないのかもしれない。何をしようとしているのか、分からないけど」
「だったら、今日は一旦引いたけど、もしかしたら明日また何かをしに来るという事か」
「そう。今日、ガリアが当てた矢が良い感じに入ったから、あれはかなり痛いと思うわ。だからダークナイト・グランドは動こうと思っても動けないかもしれない」
曖昧な言い方だった。
「ダークナイト・グランドは動くかもしれないし、数日は傷が癒えるまで動かないかもしれない。どちらを取るのか、今のところは全く分からないっていう事か」
「そうね。ミコ、ここ数日で何かがここで起こるか分かる?」
アリスは申し訳なさそうに小さく身体を縮めているミコに聞いた。
まださっきの戦いの事が気になっているみたいだ。
「分かりません。ただ3日後に、お祭りがあります。隠れ里ができた日の事を祝う祭りです。ですが、そこで何かをするという事はないです。ただ飾り付けて、みんなでごちそうを食べるだけのお祭り」
「そんなお祭りがあるのね!どんな屋台が出るの?」
アリスがミコの言葉に興奮して、関係ない事を聞き始める。
「いや、待って。祭りは、本当に何も関係はないのか。もしかして、何かを陰でやっているとか。実は魔法で何かを行っているとか」
「ありませんよ。ただのお祭りです。ちょっと豪華な食事をみんなで食べて、楽しく話すだけのものです」
ミコは祭りには何もないと言う。
本当にそうだろうか。
「でもこんな騒ぎになっていますし、今年は中止にした方が……」とミコが言うと、「ダメよ」とアリスが言った。
「こういう状況下だからこそ、そういうみんなで楽しむ行事はちゃんとやった方が良いわ。大丈夫だと思っていても、精神はすり減っていくの。お祭りは、それを回復させてくれるわ。戦いに参加していない人たちは、今戦いがどうなっているか分からないから、知らない内に精神を削っているの」
「そう、なんでしょうか。こんな時にやるのは、攻撃されるすきを作ってしまうのでは?」
不安そうにミコがアリスに聞くが、「その分、警備を厳重にすればいいのよ。特にエルフたちは遠くから察知する能力に優れているから問題ないわよ」とあっけらかんと言った。
「それは……。アリスが言うからには、そうなのでしょう。分かりました。お祭りについては、予定通りするめることにしましょう」
ミコはそれで納得したようだ。
「そうした方が良いわ。美味しいものをたくさんお願いね」
「もちろんです。ぜひ、楽しんでください。アリスが参加するのは、初めてですよね」
「もっと早くに教えてくれればよかったのに」
「ごめんなさい。お誘いするタイミングがなくて、一国の王女をお祭りに誘うなんてなかなかね」
ミコとアリスは仲良く話している。
「お祭りは良いけど、他にないのかよ。他に!何かダークナイト・グランドが狙いそうなもの!
本題からそれ過ぎていて、俺は強引に割って入って軌道修正をした。
「ごめんなさい。ただ本当に知らないのです。私には心当たりがユグドラシルしかありません。そして占いでは、お祭りの辺りの日に何か黒い影が、この里を襲うというのです」
「じゃあ、結局分からないっていう結論なんですね」
「そうです。しかしユグドラシルは絶対に壊されてはいかないもの。だから何としても守らないといけないわ」
ミコさんは強い口調で言った。
「結局狙いがユグドラシルでユグドラシルを守らなきゃいけないなら、ここで待ち構えるのが一番よ」
「それって、ここが戦場になるかもしれないってことか?」とアリスに聞く。
「それをどうにかするのが、私達でしょう。とりあえず、疲れを取って明日に備えましょう」とアリスは伸びをした後、立ち上がった。
「私はどこかで腹ごしらえをしてくるわ」
そう言って、とっとと部屋から出て行ってしまう。
「ちょ、待てよ!まだ全然話はまとまってないんだけど!」
俺はアリスに声を掛けながら追いかけようとすると、「待ってください、新川さん」とミコに呼び止められた。
「え?なに?」
「少し、お時間をいただけますか?」
目を伏せて、どこか苦しそうな声色で言う。
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