影と光(ダブル)
アリスとダークナイト・グランドは一歩も動かず、戦いの素人には分からないものを測っている。
とりあえず俺は今更『レベルック』と唱えた。
そして明らかになるレベル。
あれ、と思う。
確かダークナイト・グランドは4000後半と言っていたはず。
だけどダークナイト・グランドの黒く禍々しい鎧の胸元に出た数字は、5203と出ていた。
3年前の情報だったけど、こんなにも早くレベルが上がるのか。
「儂はあの時敗北した。だから鍛えなおした。少しばかり暴れすぎて、魔王様にやっかいなことを押し付けられたが、まあいい。こうして儂を敗北させた主とまた戦えるのだからな」
ダークナイト・グランドが独り言のように言う。
「へえ、光栄ね。でも私だって、強くなっているのよ。鍛えなおしたから勝てるなんて、甘い妄想を語らないでよね」
「良いものを見せてやる」
『シャドウ・ダブル』
ダークナイト・グランドが唱える。
するとダークナイト・グランドの足元の陰から、まるで何かが立ち上がるかのように盛り上がった。
ズルズルと影から伸びあがり、ダークナイト・グランドと同じ背丈になると止まる。
そしてドロドロと表面は徐々に形を整えていく。
「な、なに?」と俺は目の前の光景に目を疑った
ダークナイト・グランドが二人いる。
まったくそっくりの鎧を着て、同じ大剣を構えていた。
「行くぞ!」
ダークナイト・グランドが動く。
同時にダークナイト・グランドの影も走り出した。
そしてアリスも剣を受け取って、ダークナイト・グランドへ飛び込んだ。
激突する。
アリスは二人のダークナイト・グランドが振り下ろす剣を受け止める。
『シャドウ・ソー』
偽物の方の影からとげが、アリスの顔に向かって射出された。
それをアリスがかがんで避けると、ほんもののークナイト・グランドは一歩も動かず、戦いの素人には分からないものを測っている。
とりあえず俺は今更『レベルック』と唱えた。
そして明らかになるレベル。
あれ、と思う。
確かダークナイト・グランドは4000後半と言っていたはず。
だけどダークナイト・グランドの黒く禍々しい鎧の胸元に出た数字は、5203と出ていた。
3年前の情報だったけど、こんなにも早くレベルが上がるのか。
「儂はあの時敗北した。だから鍛えなおした。少しばかり暴れすぎて、魔王様にやっかいなことを押し付けられたが、まあいい。こうして儂を敗北させた主とまた戦えるのだからな」
ダークナイト・グランドが独り言のように言う。
「へえ、光栄ね。でも私だって、強くなっているのよ。鍛えなおしたから勝てるなんて、甘い妄想を語らないでよね」
「良いものを見せてやる」
『シャドウ・ダブル』
ダークナイト・グランドが唱える。
するとダークナイト・グランドの足元の陰から、まるで何かが立ち上がるかのように盛り上がった。
ズルズルと影から伸びあがり、ダークナイト・グランドと同じ背丈になると止まる。
そしてドロドロと表面は徐々に形を整えていく。
「な、なに?」と俺は目の前の光景に目を疑った
ダークナイト・グランドが二人いる。
まったくそっくりの鎧を着て、同じ大剣を構えていた。
「行くぞ!」
ダークナイト・グランドが動く。
同時にダークナイト・グランドの影も走り出した。
そしてアリスも剣を受け取って、ダークナイト・グランドへ飛び込んだ。
激突する。
アリスは二人のダークナイト・グランドが振り下ろす剣を受け止める。
『シャドウ・ソー』
偽物の方の影からとげが、アリスの顔に向かって射出された。
それをアリスがかがんで避けると、本物が横薙ぎに剣を振るう。
辛うじてアリスは、その剣を危な気に避けた。
休む暇もなく、ダークナイト・グランド二人がかりでアリスを攻める。
これはまずい。
一対一で互角だったのに、ダークナイト・グランドが二人に分裂してしまったら、圧倒的に不利だ。
『プロミネンス・エクスプロージョン・セイバー』
そしてアリスはまとめて吹き飛ばそうとして、攻撃を放つ。
しかしそれはどちらにも当たらず、遠くの森の中で爆発するだけだった。
左と右から挟み込むように、アリスに切りかかった。
『シャドウ・ダブル・キラー』
おどろおどろしい声と共に、大剣に黒い影が絡みつき、さらに巨大な両刃の剣となった。
それは分身体でも同じだった。
禍々しい黒い大剣2本がアリスに襲い掛かる。
『シャイニング・セイバー』と剣に光をまとわせる。
光と影がぶつかり合う。
バチバチと光と影が対消滅していく。
しかしそれは同量ではない。
二本の影は光を飲み込まんばかりに、大きく巨大化していく。
光は影に押され、徐々に小さくなっていた。
押されている。
アリスは二本の影の剣に、圧倒されていた。
「どうだ。儂の力は、これが新たに手に入れたものだ」
勝ち誇りながら、ダークナイト・グランドが振り下ろした大剣にさらに力を籠める。
光の剣で受け止めているアリスは、『シャイニング・セイバー』ともう一度唱えた。
剣の輝きは取り戻したが、しかし影の大剣には遠く及ばない。
「やああああああ!」とアリスは雄たけびをあげる。
影と光りはぶつかり合い、光が激しく輝き、影を両断した。
しかし影は圧倒的な質量を持って、光を飲み込んだ。
「きゃあああああ……」
アリスはぶつかりあった衝撃で吹き飛ばされる。
光と影の衝撃が俺たちの所にまで届く。
ミコと手をつなぎ合いながら、吹き飛ばされないように身をかがめる。
アリスの『プロミネンス・エクスプロージョン・セイバー』と同じくらいの衝撃があった。
それほどまでにダークナイト・グランドの攻撃が激しかったのだろう。
衝撃による土埃や風がやんで、ダークナイト・グランドがいたところに視線を向けると、そこにはダークナイト・グランドだけいた。
「なるほど、ダブルを先に消したか」とダークナイト・グランドが呟いた。
最後の『シャイニング・セイバー』は、攻撃を受けたとしてもダブルを消すために放ったものだったのだろう。
肉を切らせて骨を断つ。
それで1対1の盤面を作ったのだ。
「だが、もう一度、出せば……おっと」
ダークナイト・グランドに光の刃が飛んだ。
ダブルを再び出そうとしていたダークナイト・グランドは後ろに跳んだ。
そして光の刃に続くように、アリスが金色の弾丸のように空を一直線に飛ぶ。
バンと光りの刃は木を切り裂きながら、地面へと辺り音を立てて消える。
「ダブルを出させないつもりだ」
ダークナイト・グランドに接近し、連続で切りかかり、何度も火花が散る。
優位性を保つためには、その戦い方しかないとはいえ無茶過ぎる。
俺の手の中に剣が戻ってくる。
「まずい!」
手を空にしたアリスは、攻撃をやめてバックステップから俺たちの方へと後退してきた。
『シャドウ・スライド』とダークナイト・グランドは唱え、アリスの背を追う。
「逃がすわけにはいかぬ」
影の上をすべるように追い、あっという間にアリスに追いついてしまう。
アリスには今、ダークナイト・グランドの大剣を防ぐすべはない。
どうすればいい。
一瞬でも、気を逸らすことができれば。
「ごめん」と俺は握っていたミコの手を振り払う。
「あっ」とミコの小さな声が聞こえたが、俺はそれ処ではない。
手に持っている剣の刀身を自分の身体で隠すように構える。
そして俺は全力で叫んだ。
「プロミネンス! エクスプロー……!」
もし仮にアリスと、ミコの防御魔法を見て、自分も戦力としてカウントされているのだとしたら。
俺がレベル1だとは、思ってもいないはずだ。
ダークナイト・グランドとの戦いに参加できる人間だと勘違いしているのだと思っているのだったら、このはったりは通用するかもしれない。
アリスの驚いた顔。
そしてダークナイト・グランドは俺が唱え始めたのを見て、大剣をアリスではなく近くの木へと刺して、強制的に減速する。
「ナイス!」とアリスは叫び、そして俺から剣を受け取る。
もちろん、その刀身に光は宿っていない。
当然、はったりなんだから。
そして振り返って振りかぶり、本家本元の技を放とうとした。
しかしその前に、俺とアリスの間を縫って、何かが通り抜ける。
それはダークナイト・グランドの鎧の右胸に当たった。
「ぐあぁ!」とアリスと戦っていた時には聞かなかったダークナイト・グランドの苦悶の声が聞こえる。
『プロミネンス・エクスプロージョン・セイバー』とアリスが追撃を放つ。
直撃こそダークナイト・グランドは避けたが、爆風には巻き込まれ、ゴロゴロと地面を転がっていく。
そして転がる勢いのまま立ち上がり、大剣をこちらに向かって構えた。
普通に立っているように見えるが、鎧の前部分にひびが入っている。そしてそのヒビの中央に立つ一本の矢。
その矢を抜いて、ダークナイト・グランドは近くの地面へと捨てた。
「この矢の魔力の味、知っている」
ダークナイト・グランドはぼそりと呟く。
「まさかまだ生きているとはな、『魔弓のグラリア』」
俺はその矢を放った主を振り向いて見る。
油断なく弓に矢をつがえ、ダークナイト・グランドへ構えているガリアを。
「違う。だが、知ってはいる」と言って、二矢目を放った。
それはダークナイト・グランドに届く前に、大剣で打ち払われる。
そしてダークナイト・グランドはアリスを迎え撃ち、『シャドウ・スライド』と影の上を滑りながら距離を取る。
一気に有利になった。
「これなら、勝てる!」
俺はぐっとこぶしを握る。
アリスが接近して戦い、ガリアが遠距離からけん制し続ける。
ダブルも出せないだろうし、アリスの不利を補える。
アリスとダークナイト・グランドが何度も剣を交わらせて、森の中を移動する。
どちらも傷を負っていて、そう長くは戦いは続かないだろう。
『シャドウ・ナイフ』とこちらに影のナイフを飛ばしてきた。
しゅんとガリアが矢を放つ。
しかし矢は影のナイフを止められない。
さっきのダークナイト・グランドの胸を打ち抜いた矢とは威力が違うように見える。
影のナイフは確実に俺たちの元に近付いてきていた。
「ミコさん!お願い……?」
ミコさんを見てみると、何故か地面にへたり込んでいる。
何でとか、思っている場合ではなかった。
早く避けないとと思ったが、しかし身体がうまく動かない。
「危ない!」とガリアの叫ぶ声。
俺は地面に飛び込むように、そしてミコさんに覆いかぶさるようにダークナイト・グランドの攻撃を避ける。
そしてぐちゃと何かが当たる音が聞こえた。
「きゃあ!」とミコさんが悲鳴を上げる。
痛みはない。
むしろミコさんの暖かい体温を感じた。
「ごめん。ミコさん」
「私は大丈夫です。でも、ガリアが……」
ミコが俺の背後をさして、震える声で言う。
振り向くと、俺たちの前に立っているガリアさんの肩に二本の影のナイフが刺さっていた。ナイフは痛々しく背中側から正面まで貫通して、先端が見えてしまっている。
「ガリアさん!大丈夫ですか」
「あ、ああ、だが……」
ガリアさんは足から崩れ落ちる。
「流石、こんな物でこんなにダメージを受けるとは……」
「ゆ、弓は撃てますか」
「無理です。どちらにしても、役立たずです」
「それはどういう……」
「あの一矢だけしか、俺は魔法の矢を撃てない。ぐっ、こうして盾になった方が増し……」
ガリアさんは地面に倒れる。
同時に俺の手の中に剣が戻ってきた。
戦いはと、アリスとダークナイト・グランドが戦っていた場所を見ると、アリスが歩いて戻って来ていた。
「逃げられたわ」とアリスが言った。
「痛み分けって所ね」
俺たちはダークナイト・グランドとの戦いで、誰一人失わずに戦い抜いた。
しかしアリスとガリアという二人の戦力が負傷してしまった。
ダークナイト・グランドも傷を負っているが、どう出るのか分からない。
「戻りましょう。隠れ里へ」と言うアリスの言葉に従って、俺たちは乗ってきた馬車へと戻っていく。
魔王の幹部という強力な敵の強さを思い知らされた。
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