犬は黙って「ワンッ!」と鳴け。~転生して無力な犬になった元英雄は、孫と第二の人生を歩みたいが、実はその孫最強でした!?~

四乃森ゆいな

プロローグ①「英雄昔話」

 ――その昔、様々な亜空間からなる1つの異世界では、人類が壊滅の危機にっていた。


 その世界では、歴戦の勇者を薙ぎ払ったとされる魔族の王――『魔王』とその配下である魔族達によって、長年争いが絶えず、それによる影響が民衆の生活にも左様され、多くの村や街では貧困の危機にひんしていたという。


 栄養失調により倒れ、争いに巻き込まれた多くの人間達は、そのはかなき命を落としていった。……そして、その世界の『守護者』とされし“女神”までもが戦いの末、魔王の手により命を落としていったという。


 この影響で、その世界の均衡は崩れ去り、最早魔王の支配から逃れることは出来ないものと思われていた。



 ……だが、そのときだった。



 絶望の色に染められていた世界に、3つの希望の光が射し込んだのだ。



 それが――後に『英雄』としてその世界で語られ、神話の1つとして“神の1人”とされた悪しき魔王を打ち破った、3人の若き戦士達であった。


 多彩な魔法を操り、民衆と相棒を守った遠距離型の魔法使い。

 現場の治療に徹し、その見事なまでの腕前から『神の手』と呼ばれた医療士。

 そして、素早く戦況を把握し立ち回る、近距離型に特化した戦士。


 非常にバランスの取れたその3人の冒険者達は全員――この世界へ、魔族を倒すために召還された『異界人』であったと言われている。~伝記より~





「へぇ~。この村も昔は、魔族によって支配されてたってことなの?」


「そうだねぇ。もう、随分と昔の話になるさね……。本当、あのときはまだわしも子どもだったが、この目で見た悲惨な光景は、今となっても鮮明に覚えてるねぇ」


 ――集落とし栄える1つの村の民家にて。

 1人の少女が、祖母の話に興味を示していた。


 今より時はおよそ100年前――今でこそ民衆の皆が闊歩する大通りも、少し複雑な路地裏さえも、全てが魔族によって支配され、民衆(人間)は魔族の奴隷として働かされていた。


 日々、仲間が過労や失調により倒れ、亡くなっていく様を……祖母は今でも、鮮明に焼き付いているのだという。だがそれに対し、孫の少女は『現実離れした話』としか理解出来ないでいた。背丈からしてまだほんの6歳前後。そんな幼き少女が、今のような生活からかけ離れた『魔族の存在』による恐怖を理解する方が難しいだろう。


 それがわかっていたのか、祖母は優しくふふっと笑みを零した。


「でもこんなの、ほんの昔話さ。でも、これだけは覚えておくんだよ。あのときに駆けつけてくださった、英雄様のことを」


「うん! カッコよさそうだもん! ねぇねぇ、どんな人達だったの?」


「そうさねぇ。……どこから話すべきかねぇ」


 空は満月が顔を出し、闇夜に一筋の光を射し込む。


 この世界の夜は――かつて、英雄と語り継がれる3人の若者が作り出したものだ。

 だが、、ということは……即ち、この世にはもう存在していないことを指している。


 英雄の存在は、この世界に住む住民であれば誰もが知る『柱』である。

 街では英雄達の活躍が記されたとされる伝記や、子ども向けに作られたであろう英雄の絵本なども販売されている。


 しかしながら、そのどれもに『本物の英雄』は登場しない。

 否、誰もが英雄達の『本当の顔』を知らないのだ。


 絵本に描かれたものは描き手の妄想が反映されたもの。違う人物が描けば、それだけ違った顔をした英雄達が登場する。名前もまた、その例だ。


 では何故、英雄達の存在はそれだけ『架空のもの』となっているのだろうか?

 残された英雄伝説は本当の話なのだろうか? ――そんなものは、誰も確認出来ない。



 何故ならば……、



 ――英雄と呼ばれた3人は、みなと帰ってしまったのだから。

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