雑記

中原恵一

人生とか

自分の子供を殴って怪我をさせてしまったのに、「子供が血を流している。誰がこんなひどいことを、助けてあげなきゃ」と慌てる虐待親について

 最近よく思うのだが、児童虐待をする親というのも鬼や悪魔ではないのである。

 なぜなら自分で自分の子供を傷つけておきながら、自分が原因で傷ついているとは夢にも思わず、「かわいそうに! 私が助けてあげないと!」と思うのだから。


 そんなバカな、と思うかもしれないが、割とこういう親は多いのである。


 ある事例を挙げる。


 ある小学生の女の子がいた。お父さんはおそらくなんらかの精神疾患(気分障害か何か)を患っており、一度怒り出すと破壊神と化して彼女の部屋のものを頻繁に壊す。

 具体的に言うと、例えば食事中にテーブルをひっくり返したり(当然食事は食べられなくなる)、本棚を壊して本を投げ捨てたり、誕生日プレゼントに買ってあげた地球儀を目の前で叩き壊したり、と結構な鬼畜ぶり。ひどいと一週間に三回ぐらいの頻度で起こり、こうしたことは彼女の家では日常茶飯事だった。

 しかし、直接殴る蹴るの暴行を加えないのでこのことは発覚せず、彼女は虐待に関する相談窓口に電話をかけたものの無駄だった。

 

 彼女は中学に上がってから精神不安定になり、精神科にかかるようになった。

 父母は口を揃えて曰く、「娘がおかしくなってしまった。どうしよう」。娘に薬を飲ませたもののは改善せず、ますますなっていく。

 やがて彼女は父に学力に見合わない進学校を受験させられ、高校受験に失敗して不登校になり、入った高校も入学数ヶ月で辞めてしまった。


 ここまで読んで「お前らのせいじゃないか」と思った方は正常だが、こういう思考回路になってしまう親は本当に割と多いのである。

 こういう「認知の歪み」のようなことがどうして起こるのか、私も今までずっと悩んできたが、どうやらこれは要するに「自分がやってしまったことが間違っていると分かりつつ、感情的に自分の罪を認められない」ということらしい。

 先ほどのケースの場合、彼女の父親自身も自らが幼い頃母から虐待を受けており、同じことを繰り返しているのである。

 被害者から加害者へ。虐待は繰り返すとよく言うが、まさに典型的な事例なのである。自分が最も嫌だった人間に自分自身が成り果ててしまうという、運命論のような、悲劇のような、文学でよく取り上げられるテーマだが、実際に起これば「」という言葉で片付けられてしまうだろう。

 しかしこの「ただのバカ」はとても多い。


 こうした人間に対する対処法というのを私はいまだに知らない。

 先ほど「気分障害」という病名を挙げたが、これも私は精神医学の専門家ではないので実際になんの病気なのかまではちょっと分からないし、仮にそうだとして薬を飲めば寛解するという単純なものでもない。

 そして社会にこうした人間が一定数存在している以上、かつて優生学を信奉した者たちがホロコーストを行なったようにそういう人たちを根絶やしにすればそれで解決というわけにもいかない。


 児童相談所・精神医療機関がこうした問題に取り組むべきだ、と言ったところで、身体的虐待がさらに深刻なケースもあるし、こうした子供達は支援の隙間からあぶれることも多かろう。

 私が考えうる対策としては、子育て中の親のメンタルヘルスに取り組むなんらかの機関がそれ以外にあれば、ということぐらいだが、現実的に難しいとも思う。

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