幸せですがそれなりに不幸せです

神代 琴葉

第1話 孤独

平成。

ごく普通の家庭に生まれた私。

両親、そして親戚一同が、私の誕生を喜んだ。

ご飯をもらえる事、温かい布団で寝れる事、両親に愛情を注いでもらえる事、

これほどまでに幸せな事はないだろう。

こんなにも恵まれた環境に生まれたのにも関わらず、

なぜこうなってしまったのか、私にもわからない。

思い当る節はあるけれど。


優しい両親のもとに生まれた私は、

すくすく成長し、幼稚園生になった。

幼稚園ではあまり友達ができなかった。

だからいつも幼馴染の男の子と一緒にいた。

体が弱く、おっちょこちょいな私は、よくけがをしていたが、

目立ったトラブルもなく、小学生になった。

私が小学生になると、両親が私以外の兄弟によく目をかけるようになった。

小学校低学年のころから、自分の部屋を与えてもらい、

いつも部屋で一人静かに、遊んでいた。


ある日、学校のテストで100点を取った。

家に帰って、母にそのテストを見せると、

「よく頑張ったね」

そう褒めてもらえた。

またある日は、休みの日に自主勉強をしていた。

学校の宿題で、自主学習ノートの提出があったからだ。

しかし、父に

「××は、まじめだな。えらい。」

と褒めてもらえた。

その時に、私は思った。

「勉強を頑張れば褒めてもらえる

勉強を頑張れば、いい子にしていれば、

お父さんもお母さんも私を見てくれる」と。

それから、両親に私を見てもらいたい一心で勉強に励んだ。

小さいころから、一人でいることが多く、

何かあればお菓子を買うだとかおもちゃを買うだとか

お金で解決されてばかりだった。

だから、ただ純粋にうれしかった。

気にかけてくれることが、褒めてもらえることが。

習い事も両親に勧められたところに通い、

どうにかして両親の目を惹こうと必死になっていた。


しかし、ほかの兄弟が高学年になり、塾に通うようになった。

成績はどんどん上がり、また私は一人にされることが多くなった。

また見てもらえなくなった。

その恐怖がどれほどのものだったか、言葉では表現できない。


そして私は六年生になった。

ここから私の人生の歯車は狂い始めた。

仲良くしている友達のタイプが変わり、

やんちゃな子たちと一緒にいるようになった。

先生に反抗するようになった。

学校でお菓子を食べたり、友達のスマホで遊んだり、

授業を仮病でさぼったり、色々した。

ちょうどその時、医療ドラマにはまっていて、

授業で使うために買った彫刻刀を見て、友達と、

「これで自分の体切ったらどうなるんだろうねー」

なんて話をしていた。

最初は興味本位だった。

この日初めて私はリストカットをした。

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